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パルコ、西武、マルイといった大型店舗から、小さなセレクトショップ、カフェ、アートスペースに至るまで、時代の先端を提示し続ける渋谷カルチャーの発信地、公園通り。ごく閑静な住宅街から、ファッション、アートの文化発信地へ変貌した、その歴史に迫る。「パルコ」が若者文化を牽引し、東京を代表するストリートへ

若者文化を牽引してきた公園通り

渋谷駅から西武百貨店の方向へ進み、ちょうどマルイシティの交差点を左手に、緩やかな坂を登り代々木公園に向かう道、そこが公園通りだ。若者文化の中心地として長く時代を牽引してきたこの一帯は、ここ数年、アートギャラリー「トーキョーワンダーサイト渋谷」、IT系ショップ「アップルストア」複合飲食店舗「NAVI shibuya」、また「ティンバーランド」「アルマーニ・エクスチェンジ」といったファッションブランドやカフェなど、様々なジャンルの最先端スペースが続々とオープンし、大人も楽しめるエリアに変貌しつつある。実際に歩いて感じるのは、人の往来や交通量が多いにもかかわらず歩道も広く、そして思いのほか清潔にまとまっていること。従来の繁華街に見られる雑多な印象とはひと味違う、上品な印象を強く受ける。

勤労福祉会館前の交差点

「公園」へと通じる道

静かな住宅地でしかなかった公園通り一帯に変化が訪れたのは、戦後15年が過ぎてから。東京に進駐した米軍の住宅団地「ワシントン・ハイツ」が現在の代々木公園に建設され、人々はそこから少しずつ、豊かなアメリカ文化の一端を垣間見るようになる。やがてワシントン・ハイツは東京オリンピックを機に選手村に改築され、NHK放送センター(1964年)、渋谷区総合庁舎(1965年)、西武百貨店(1968年)、丸井ファッション館(1971年・現マルイジャム)などがオープンすると、渋谷駅から代々木公園にかけて人の流れが生まれ、「区役所通り」という名で親しまれるようになった。「早くから繁華街として発展していた道玄坂やセンター街と違い、後発の公園通り周辺は大きな敷地が残されており、大型店舗が進出しやすい環境にありました」と、渋谷公園通商店街振興組合の理事を務める船山克巳さんは当時を振り返る。

そうして1973年、若者ファッションの専門館「パルコ」が完成すると、公園通りの放つ磁力が一気に花開くことになる。強力なリーダーシップとクリエイティブ戦略に長けたパルコは斬新なプロモーションを展開し、駅からやや離れた坂道という地形的ハンデをはねのけ、流行に敏感な若者たちを惹き付けることに成功した。通りの名前もイタリア語で「公園」を意味するパルコにちなみ「公園通り」と改められ、次第に「ユナイテッド・アローズ」などブランド力や集客力に自信のある小規模で個性的なショップや飲食店が裏路地に出店し、そこに“隠れ家”という付加価値も加わり、一帯は急速に東京を代表するカルチャー・ストリートへと変貌を遂げた。

通りに溢れるトレンドと柔軟なアイディア

人通りが多い割に落ちついた景観

最先端カルチャーを発信する公園通りには同時に、あらゆる文化を呑み込んだ柔軟さが見え隠れしている。「周辺には日本初、東京初というフレーズのつくお店が多いです。面白いところでは本格的MLBショップ『MLBクラブハウスストア』、讃岐うどん『はなまるうどん』、「ミスタードーナツ」の新業態『andonando』などが渋谷公園通りに一号店を出店しています」。船山さんの言葉から、新陳代謝が活発であると同時に高い商業価値を誇る、このエリアならではの特性がはっきり見て取れる。「公園通りは官民一体、というよりも住民たちがよりリーダーシップを発揮して街づくりが進められてきましたし、今でもそれは変わりません。皆の街を想う気持ちが、随所に現れているのではないでしょうか」。

「エコ」を意識した高感度な取り組み

公園通りに設置されたプランター

ここ2年ほど、公園通りの歩道脇に設置されたプランターの草木が、美しい花を咲かせていることに気づいた人は、決して少なくないだろう。「どこの繁華街も抱える違法駐輪や違法看板という問題。沿道の景観作りや、そこを訪れる人のマナー向上を、と常々私たちは考えてきました。そこでガードレールに腰掛けて休息できるようなデザインにしたり、沿道に新鮮な花々を植えたりと、物理的な取り締まりよりも、心の浄化作用によって公園通りが美しく保たれるような取り組みを行いました」。現在では違法駐輪や違法看板はほとんど無くなり、通りにゴミを捨てる人もかなり減ったというから、これは大きな成功と見ていい。ちなみに花の植えられている樽製のプランターは、自然の雨水を利用できるよう底部に給水装置を組み込んだ独自のもの。こうした環境への配慮は、社会の大きな関心ごとでもある「エコ」をいち早く意識した、高感度な渋谷という街ならではの敏感な化学反応といえる。

またこの夏、ロフトやパルコの軒先からドライミストと呼ばれる体の濡れない霧が噴射され、猛暑のさなか公園通りを訪れる人々へ一時の涼しさを演出する、興味深い試みがなされていた。実際に周囲の温度を3〜4度下げる効果がドライミストにはあるそうで、訪れる人からも非常に好評だったそうだ。「最先端に興味がある若者たちが集まる街ですし、物事を理屈で考える前に、遊び感覚で体験してもらおうと。あまり理論的では、渋谷らしくないのでは?」と船山さん。現在、公園通商店街振興組合では来年の地下鉄副都心線渋谷駅開業に伴い出入り口が開設される、宮下公園交差点付近の再開発にも積極的に取り組んでいる。単に流行を発信するトレンド基地として存在するだけでなく、世の中の流れを捉え、柔軟なアイディアをいち早く実践する前向きな姿勢が、公園通りの新たな発展を支えてゆくことになるはずだ。


11月23日よりイルミネーションが点灯される

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船山克巳さん 1946(昭和21)年大阪生まれ。ファッション業界で活躍したのち、シダックス(株)経営企画本部・販売促進部へ。渋谷公園通商店街振興組合理事として、事業振興環境委員会、広報・Web委員会を担当している。