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【レポート】TWDWキックオフイベント−栗城史多さんから学ぶ「登山家の働き方」

<イベント概要>
Tokyo Work Design Week 2015 キックオフ・ミートアップ
「見えない山を登っている、全ての人たちへ。」

〇開催:2015年4月28日(火)19:00〜22:00
〇会場:渋谷ヒカリエ8階「8/」COURT
〇出演:栗城史多さん(登山家)
〇進行:横石崇さん(TWDWオーガナイザー/BENCH) 上野美香さん(Evernote Japan)

渋谷ヒカリエ8階のイベントスペースCOURTで4月28日(月)、新しい働き方を考えるイベント「TOKYO WORK DESIGN WEEK(TWDW)2015」のキックオフとして、登山家・栗城史多さんを招いたトークイベントが開催された。

TWDWは20〜30代を中心に「新しい働き方」や「未来の会社」を模索する、カンファレンスとフェスティバルを組み合わせたイベント。2013年に渋谷ヒカリエを中心に初開催し、今年で3年目を迎える。先行きの見えない日本社会の中で、21世紀の新しいワークスタイルを模索する若者たちのニーズとシンクロし、毎年動員を増やしている。今年も11月の「勤労感謝の日」に合わせた前後7日間にわたり開催が予定されている。
キックオフイベントとなる今回は、登山家・栗城史多さんをゲストに迎え、「見えない山を登っている、全ての人たちへ。」と題して3部構成で”登山家”という働き方に迫った。栗城さんは、25日に発生したネパールの大地震に触れ、「ネパールは海外で一番訪れている国。皆さんも出来る範囲で情報の拡散や支援をしていただけたら嬉しい」と呼びかけて、イベントをスタート。第1部では、登山家を目指した理由や、登山を通して学んだことを語った。

■仕事では、目標を2つ持つことが大切!
栗城さんは、2012年の秋季エベレスト登山で両手両足と鼻が重度の凍傷になり、両手9本の指を失っている。最初は靴の紐も結べず、登山家としてやっていけないだろうと言われた。それでも翌年、パキスタンのブロードピーク(8,047m)に登頂できたのは、応援してくれる父の一言が大きかったそうだ。退院間際に大きな声で「おめでとう」と祝福。その父の真意は「生きて帰って来たこと」、それから「苦しみを背負ってまた体験できること」。2つの「おめでとう」の意味が込められているのと理解し、まだ自分にできることがあるのだと復帰を決断したという。「登山で一番大事なことは執着しないこと。失敗しても帰ってくることが大事だ」とし、「生きていれば再挑戦ができる」と語気を強めた。
また、皆が目標を持つ故の危険性も登山での経験から指摘する。「登山においての感動の瞬間は頂上まであと3mほどに迫り、登頂できると分かったとき。あとはだんだん寂しくなって燃え尽き症候群になる。登山での事故の多くは、登頂達成後の下山中に発生していると言われている」。これを解決するために先輩から言われたのが「次の山のために帰って来い」という言葉だったという。「仕事でも目標を2つ持つことが大切。燃え尽き症候群に陥るのを防ぐことができる」とアドバイスをした。


2014年7月、ブロードピークに単独・無酸素で登頂成功

■登山家は100%登れる山に登らない。
続いて第2部では、TWDWオーガナイザーの横石崇さん、Evernote Japanの上野美香さんが加わり、栗城さんとディスカッションを展開。今秋予定しているエベレスト登山では、アタック中に生中継で配信することや、登山にかかる費用についてざっくばらんに答えた。6,000万円近くかかる莫大な費用に対して会場から驚きの声があがり、「地上での山登り」と称して、スポンサー探しやクラウドファンディングで資金集めをしている苦労も明かした。さらに「人は誰もが見えない山を登っている。自分の山に向けて1歩を踏み出したい人を応援したい」とし、皆が応援し合えるような場を作りたいとも熱く語った。最後の第3部は、来場者のチャレンジしたいことを栗城さんにぶつけるワークショップが繰り広げられた。ショートトラックのスケート選手である来場者の一人は、「栗城さんの話を聞いて、1度駄目だったけど、次のオリンピックを目指すことを決めた」と力強く宣言し、さらに今回のイベントに感化されて「個人的には日本人なので富士山に登ってみたい」とも。それに対して栗城さんは「登山家は、ゴールの見えない山と100%登れるとわかっている山は登らない。身体を鍛えていると思うので(富士山には)簡単に登頂できると思う。匍匐(ほふく)前進で登るのもいいかもしれない」と冗談まじりに助言し、会場の笑いを誘った。


左)上野美香さん  中央)栗城史多さん  右)横石崇さん

今日感じたのは、聞く側のスタンスが大事だということ。この場のように(誰かのチャレンジに)周りが叶うよって言ってくれる人が増えたら、(世界は)もっといろいろと良くなるはず。皆の夢を応援してくれたら嬉しい」(栗城さん)と締めくくった。

なお、TWDW2015の本イベントは、今秋11月18日〜24日を予定している。

>TOKYO WORK DESIGN WEEK http://www.twdw.jp/
>栗城史多オフィシャルサイト http://www.kurikiyama.jp/

栗城史多(くりき のぶかず)
1982年北海道生まれ。大学山岳部に入部してから登山を始め、6大陸の最高峰を登る。その後、8000m峰4座を単独・無酸素登頂。エベレストには登山隊の多い春ではなく、気象条件の厳しい秋に4度挑戦。見えない山を登る全ての人達と、冒険を共有するインターネット生中継登山を行う。2012年秋のエベレスト西稜で両手・両足・鼻が凍傷になり、手の指9本の大部分を失うも、2014年7月にはブロードピーク8,047mに単独・無酸素で登頂し、見事復帰を果たした。2015年秋には、再度エベレストに挑戦する。近著に「弱者の勇気 -小さな勇気を積み重ねることで世界は変わる-」(学研パブリッシング)。

重野マコト

社会部記者として新聞社に入社後、イベントプランナー、コンテンツディレクター、飲食店経営を経て、現在はフリーライター。インタビューやイベントレポートなどの現場取材をメインに活動する。

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