BUNKA X PERSON

箱根仙石原のポーラ美術館が渋谷にやってきた! この度、Bunkamura ザ・ミュージアムに、モネ、ルノワール、ゴッホなど、世界に誇る至極の印象派コレクション約80点が集結しました。この貴重な展覧会を見てもらったのは、現代アートを中心に、アーティストのマネジメントや、ギャラリーの企画・運営などを手がける、Yukari-Art Inc代表のみつま・ゆかりさん。渋谷のすぐそばで生まれ育ち「生粋の都会っ子」(本人談)というみつまさんが、印象派を含む古典(※)と現代の美術、それぞれの魅力について語ってくれました。
(※本文中で、みつまさんがお話されている「古典」は19世紀の印象派や、それ以前の美術を指しています)
「渋谷で出会う ポーラ美術館の印象派コレクション展」の情報はこちら
Bunkamura ザ・ミュージアム
渋谷でこんなに贅沢な時間がすごせて、幸せです――本日のご感想はいかがでしたか? 純粋に楽しかった!作品はもちろん、展示の仕方も良かったですね。アートの歴史上、とても重要な時代に製作された作品がわかりやすく時系列で並んでいるし、誰もが知っているような画家や作品が一つはあるでしょうから、普段アートに馴染みのない方でも十分に楽しめると思います。展示数80点ほどというのも、見ていて疲れない、ちょうどいい規模ですね。それと日本の美術館だと柵があって作品に近づけないということがよくありますが、今回は本当にそばで名画を見ることができます。私自身、最近なかなか美術館に出向く機会をもてなかったので、生活圏の渋谷でこんなに贅沢なひとときが過ごせて幸せです。ありがたい感じ(笑)。それと、まだポーラ美術館に伺ったことがないので、場所が変わると作品から受ける印象も変わりますし、是非行ってみたいと思いました。

――特に印象に残った作品は?
うーん、素晴らしい作品ばかりだったのですが、あえて挙げるとしたら…。オディロン・ルドンの「日本風の花瓶」。幻想的な作品や奇怪なモチーフが出てくるイメージの強いルドンが、とても優しいタッチの作品を描いていることや、彼でさえこの時代の他のアーティストと同じように日本の芸術に影響を受けていたのだな、ということにも感銘を受けましたね。作家として特に好きなのはドガとゴッホ。ドガはバレエダンサーや曲芸師などをモチーフとしてよく取り上げるのですが、私も身体全体で表現する肉体を使った芸術が大好きなので興味を持つ対象が似ていたのではないか、と勝手に推測しています(笑)。観察力が鋭くて、色使いもきれいですし、見ているだけでウキウキしてきます。ゴッホの作品は、良い意味で思考が止まってしまう感じがする。感情にダイレクトに訴えかけてきて、心が揺さぶられます。今回も「草むら」という作品がありましたが、本当にただ草むらが描いてあるだけなのに、それでなぜ、こんなに心が動かされるのだろう?!って。
私って二人いるんですよ(笑)。 「古典」好きの本来の人間としての私と、否応なくいる現代っ子の私。 ――普段、現代アートに触れる機会が多いみつまさんにとって、「古典」美術はどんな存在なのでしょう? 現代アートというものはその時代を反映しますから、当然生理的にあまりよくないものや、美しくない作品も出てきます。私は家族の影響もあり、芸術や美術作品が身近にある環境で育ったので、それこそゴッホなど美しいものが多い「古典」美術に、ごくあたりまえに親しんできました。その「古典」と「現代」を比べて嫌になってしまうことも何度もありましたが、昔の作品は時の経過によってふるいにかけられ、本当に素晴らしいものしか残っていないのだから良い作品ばかりなのは当たり前と言えば当たり前。ですから、現代アートを扱う私にとって「古典」美術は、多くの人に愛される作品とはどんなものか、ということが示された教科書や参考書のようなもので、今の作品を扱う際にも「古典」に立ち返ることがよくあります。

――「古典」好きとのことですが、なぜ現代アートの世界に?
確かに、仕事で「古典」美術を扱うこともできたと思います。でも、私は渋谷まで電車で10分という、まさに東京の中心地で生まれて、コンクリートの中で育った、生粋の現代っ子。私の中にはきれいに二人の自分がいるんですよ(笑)。純粋に美しい昔の作品が好きな本来の人間としての私と、否応なくいる現代っ子の私。先人たちがたくさんの名画や作品を残してくれたから、今の時代でも素晴らしい芸術にふれることができるわけですし、やはりまさに今を生きている私のようなものこそが、現代のアーティストの中から、例えば今日見たモネやルノワール、ゴッホのように、後世にも残る作品を生み出せる人を見つけ、育てていかなくては、と思うのです。それが後に残るかどうかは歴史が決めてくれます。それに、典型的な都会っ子の私が「古典」を扱うよりも「現代」を扱ったほうが自然ですしね。

人の心を揺さぶるものの本質は変わらないと思う ――“新しいアーティスト”を発掘する基準は何かありますか?
私は作品を見る前に、作家のプロフィールや作品の解説を読むことは絶対に避けています。作品が全てを語ると思うし、語らないといけないと思うので。もし自分のアンテナにひっかかる作品に共通点があるとしたら、「わかる人にだけわかれば良い」という内向的な作品ではなく、こちらに伝わってくる何か強いものを持っているかどうか、ということでしょうね。作品づくりの最初の動機はネガティブなものや内向的なものであっていいと思いますが、そこから反対の方向にふれてほしい。そういう強いエネルギーを持ったアーティストを常に探すようにしいています。それから、例えば印象派がこれだけ世界中の人に愛されている理由は純粋に、色がキレイだとか、しっかり描かれているとか、ごく当たり前の理由も大きいと思うんです。人の心を揺さぶるものの本質って、ずっと変わらないはずだから、現代の作家さんでもそういう基本的なことを大事にできる方がいいですね。

――これから実現してみたいことって? 私にとって一番興味があることは“育てる”ということ。私、アーティストでも、スタッフでも成長する、その過程を見ることが好きなんです。それを見ながら自分自身も成長し続けていきたいですし。そう考えると、子供の成長と可能性ってものすごいと思う。だから今後は、小さな時から素晴らしいものに触れる機会を提供するワークショップとか、子供向けにもアートの発信をしていきたいですね。実は既にいくつか、構想中なんですけど(笑)。

「渋谷で出会う ポーラ美術館の印象派コレクション展」 会場:Bunkamura ザ・ミュージアム
期間:〜2006年02月26日(日)まで 10:00〜19:00、金・土は21:00まで

みつまさんにとっての渋谷は? ギャラリーもオフィスもすぐ近くだし、実家も電車で10分くらいのところですから、暮らしにすごく密着している場所ですね。我ながら都会っ子だなあと思ったのは、疲れたり悩んだりしたとき、普通は静かな海とか広い場所とかに行くのかもしれないけど、私は、駅前のTSUTAYAのスターバックスから、スクランブル交差点を見下ろして「すごい時代に生まれたなあ」とか思っているうちに、元気になっているということがあって…。でもそれくらい渋谷が好きなんです。

渋谷駅周辺にギャラリーを出してみたい? もちろん! 私、昔からこの街にギャラリーを持ちたいという夢があったんです。街自体が文化を発信している場所でこそ、ギャラリーもアートを発信する意義があると思うので。街とアートがかけはなれていては意味がない。どうせやるなら、スクランブル交差点のど真ん中に出したらおもしろいですね(笑)!

ギャラリーエス

みつまさんが企画・運営を手がける「ギャラリーエス」では、“誰にでもアートをもっと身近に感じて欲しい”というコンセプトのもと、「工芸」「現代アート」という既成のジャンルにとらわれず、時代が変わっても残ってゆくことができる真のアートを追求し、さまざまな展示会を開催しています。

【今後の予定】
■3月14日〜3月26日
川本史織写真展「鳥」〜The Birds〜
■3月28日〜4月2日
「ドイツ×サッカー×アート」展Vol.2 ―サッカーを通して見るアートとドイツ―

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■プロフィール
みつま・ゆかりさん
早稲田大学商学部卒業後、現代美術を学ぶためNY、ロンドンへ渡り、多くのアートフェアーに参加。帰国後2005年に Yukari-art Inc. を設立。「渋谷は自分が育った街」との言葉通り、生粋の都会っ子としての感性を生かし、アーティストのマネジメントや展覧会企画のほか、渋谷区神宮前にある「ギャラリーエス」の運営など、日本のアートシーンを盛り上げるべく、幅広く活躍している。この春、第9回GEISAIのスカウト審査員としても参加が決定。

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