BUNKA X PERSON

■インタビュー・「知りたい」「繋がりたい」という気持ちは、人間が生きてゆく上での大きな欲求
・働き手が職場で喜びを感じられ、人間らしい暮らしが築ける環境作りが「豊かさ」に直結する
・フェアトレードの「手軽さ」に気づいたときに、大きな意味があると感じた
・「繋がることで世界は変わる」そこから様々な可能性が生まれるはず

■プロフィール鈴木隆二さん
1970年東京生まれ。学生時代から知的障害を持った子ども達のスポーツ教室や 沖縄平和学習ツアー、神戸の震災ボランティアなどの活動に積極的に参加。1995年、フェアトレード団体/ショップ「ぐらするーつ」の立ち上げに参加、フェアトレード商品を取り扱うショップの草分け的な存在に。2001年に同団体代表就任。また10年来のライフワークに藍染めがあり、ネパールでの藍染の商品開発、各方面でワークショップなども行なっている。

圧倒的な価格競争力と技術力の向上により、世界の衣料品の大半を生産する中国。この秋、ジーンズの生産過程を追いかけて、中国の製造工場を取材したドキュメンタリー映画「女工哀歌」が劇場公開されました。目を覆いたくなるほど過酷な労働環境とグローバリゼーションの暗部を浮き彫りにしたこの作品は、ドキュメンタリー映画祭の最高峰とも言えるアムステルダム国際ドキュメンタリー祭でアムネスティ・ヒューマン・ライツ・アワードを受賞するなど、欧米各国から高い評価を受けています。今回、この「女工哀歌」を、渋谷でフェアトレード団体/ショップ「ぐらするーつ」を経営する鈴木隆二さんにご覧いただき、話を聞きました。「フェアトレード」は、近年次第に認知されつつある新たな貿易方法です。そうした商品の取り扱いに関して草分け的な存在である鈴木さんに、この製造工場の現状はどう映ったのでしょうか?

「知りたい」「繋がりたい」という気持ちは、人間が生きてゆく上での大きな欲求

--まずは作品をご覧になっての感想をお聞かせください。

『女工哀歌』より 仕事中眠らないように、まぶたに洗濯バサミ。

主人公の少女が知り合いのお嬢さんにとても似ていて(笑)、興味津々と見てしまいました。初めのうちは希望を持って働くのだけれど、だんだん辛い事が多くなってきて・・・。それでもある時、大きなサイズのGパンを作りながら、「一体どんなひとがこれを穿くのだろう?」と想像して、自分の作ったGパンのポケットに手紙を忍ばせようとする。その発想力が特に印象的でした。僕たちもフェアトレードを行いながら、生産者と消費者がもっともっと繋がれば面白いはずなのになあ、と常々考えています。フェアトレードの魅力の一面は、そうした繋がりに楽しさや幸せを感じることなのですが、映画を見る限り、Gパンを作る人と穿く人の接点は全く無いようでした。それが残念にも不幸にも映りましたね。

--どうして不幸なのでしょうか?

あどけない少女が純粋に「繋がりたい」と思いつく発想って素晴らしいですよね?「知りたい」「繋がりたい」という気持ちは、人間が生きてゆく上での大きな欲求だと思うのですが、そうした欲求を一切無視する労働環境にいることがとても不幸だと思えるんです。利益を最優先させる社会構造の中で不利益を被るのは、貧しい農村で生まれたり、教育を受ける機会が得られなかった社会的弱者が圧倒的に多い。たまたまその場所に生まれたというだけで弱者になってしまうのは、本当に勿体ない事だと思います。

働き手が職場で喜びを感じられ、人間らしい暮らしが築ける環境作りが「豊かさ」に直結する

--世界中には中国と似たような労働環境を受け入れている発展途上国が少なくないはずですが、その大きな要因は何だと考えますか?

教育の問題もあるでしょうが、やはり世界全体の社会体制が一番の要因ではないでしょうか。現在の社会の仕組み、言い換えればグローバリゼーションが覆う負の部分が、今後、弱い人や力のない人たちをさらに増殖させてしてしまうのではないかと危惧しています。僕たちの付き合う生産者団体はカンボジア、インド、ネパール、タイなどにいます。けれど彼らに限っていえば、映画で描かれたような重苦しい雰囲気は持っていませんね。みんなもっと明るくて屈託がない。中国の工場のように、徹夜を強いられて働くということはまずないし、いつも家族と過ごすことを何より大切に考えていますから。働き手が職場で喜びを感じられ、人間らしい暮らしが築ける環境作りが「豊かさ」に直結する大切な要因だと僕は思うし、それがフェアトレードが目指しているところです。

--渋谷にもジーンズを穿いている人が多いですよね?どんな人たちにこの映画をご覧いただきたいですか?

まずやはりジーンズを穿きたいと思っている人には観て欲しいと思いますね。ただあのジーンズ工場の圧倒的な不公正さを観ても、渋谷でジーンズをボイコットするような運動は起こらないとは思います。けれど映画を観ることで、こうした不幸な事実があることを知ってもらい、何かを感じてもらうことが大切なのではないかと。またジーンズを販売する立場からすれば、ある種の居心地の悪さを感じるかもしれません。ただ、そうした感情を持つということは、映画で描かれている現実をどうにかしたいと感じているあらわれであると思いますよ。

『女工哀歌』より 大きなジーンズと、少女たち

■今回鈴木さんに見ていただいた映画
「女工哀歌(エレジー)」

「女工哀歌(エレジー)」

本作は、私たちにもっとも身近な服の1つ「ジーンズ」の生産過程を追って、世界の衣料品の大半を生産する中国の工場に密着したドキュメンタリーである。圧倒的なコスト削減と技術力の向上により、今や中国は「世界の工場」となっている。本作では、その裏側を探るため工場で働く10代の少女たちの日常生活に迫る。少女たちの過酷な労働条件、低コストで仕事を受注する工場長、視察に訪れる多国籍企業の面々。そんな中、過酷な生活にも夢や希望を見出す個性ある少女たちの躍動が・・・。国や時代は変わっても同じ構造をたどって発展する資本主義経済の実像が、改めて浮き彫りにされた問題作。
上映場所:シアター・イメージフォーラム
上映期間:2008年9月27日〜

一覧へ