BUNKA X PERSON

■インタビュー・インパクトだけではなく、足を止めて何かを考えさせる深さを感じる
・ある意味、僕にとって岡本さんは「神」のような存在
・将来への迷いが吹き飛んだ大学時代の出会い
・ケニアで壁画を制作したときの失敗から絵を描く喜びを再確認した

■プロフィールミヤザキケンスケさん
1978年佐賀市生まれ。2004年筑波大学大学院修士課程芸術研究科修了。2002年フジテレビ「あいのり」に出演。2005年から約2年間、ロンドンに滞在。2006年「ケニア壁画プロジェクト」、2007年「東京都ストリートペインティング事業」など、精力的にライブペインティングなどを行うほか、2007年からNHK「熱中時間」の番組セット制作も手がける。2008年12月には「Alife」(西麻布)にてライブペインティングを行う予定。2009年以降の個展情報の詳細は、公式HPまで
>>ミヤザキケンスケ公式HPはこちら

芸術家・岡本太郎の代表作の一つである『明日の神話』が、2008年11月より、渋谷マークシティ内2F連絡通路の壁面で一般公開されています。この他にも渋谷・青山エリアには、壁画やモニュメント、さらに生前に使用した住居兼アトリエを保存する岡本太郎記念館など、岡本作品や関連スポットが点在します。そこで、NPO法人明日の神話保存継承機構が『明日の神話』の公開を記念し、「TARO WEEK」を開催。リーフレットにて渋谷・青山エリアの岡本作品やスポットを紹介しています。同機構のスタッフや学芸員の解説のもと、岡本に影響を受け、自身も壁画などを手がける若手アーティストのミヤザキケンスケさんに作品を見て歩いていただきました。
»NPO法人明日の神話保存継承機構はこちら

インパクトだけではなく、足を止めて何かを考えさせる深さを感じる

--『明日の神話』をご覧になっての感想は?

多くの人が立ち止まって作品を眺める姿が見られた

でっかいなぁ、と。これは誰もが抱く感想ですね(笑)。作品から受け取ったイメージを言葉に直すと、「強い、怖い、激しい」でしょうか。この絵は、東京都現代美術館の展示で初めて見ましたが、街中に飾られていると、また違った印象ですね。僕も屋外の壁画を描くからよく分かるのですが、街中には大きくてド派手な看板があるので、美術作品は肩身が狭くなったように、ちっぽけに見えてしまうんです。でも、もともとメキシコで壁画として描かれたこともあって、この作品のスケールには、そんな心配は要らないようです。テーマは原子爆弾がさく裂する悲劇の瞬間を誇らかに乗り越える人間の姿を描いたものということですが、この絵を見た瞬間、ピカソがスペイン内戦の空爆を描いた『ゲルニカ』を思い浮かべました。岡本さんはピカソが大好きだったそうですので、「自分なりの『ゲルニカ』を描いてやる」と意気込んで絵筆をとったに違いないと想像しています。

--渋谷の街に溶け込んでいると思いましたか。

すごく個性的な作品ですが、ここにあっても違和感がないのが不思議。渋谷では、ミュージシャンのプロモーションなど、巨大な広告に見慣れているからでしょうか。ただ、大きな違いは、広告の場合、「カッコいいな」と思ってケータイで写真を撮ることがあっても、すぐに通り過ぎてしまうこと。どこか軽いんですよね。でも『明日の神話』は、見た目のインパクトだけではなく、足を止めて何かを考えさせる深さを感じる。この絵の作者やテーマを知らない渋谷の若者が見て、一体、何を感じ取るのか。想像するしかありませんが、興味深いところです。今は展示がスタートしたばかりですので鑑賞目的と思われる方々が沢山いらっしゃいますが、数年後に話題性が薄れても、きっと通行人に対して強いメッセージを発信し続けるのでしょうね。

ある意味、僕にとって岡本さんは「神」のような存在

--ミヤザキさんが岡本太郎に興味を持ったきっかけは?

岡本太郎記念館に置かれた梵鐘「歓喜」。上部の突起はトゲではなく人間の手を表現したもの

幼い頃から、「芸術家=岡本太郎」という刷り込みのようなイメージが。でもそれは、テレビのバラエティ番組などから受けた印象。正直なところ、「どこか胡散臭いな」と思っていました(笑)。作品をちゃんと見たのは、再ブームが起こった大学生の頃。これはすごいな、と思いましたよ。絵画だけではなく、『太陽の塔』みたいなモニュメントもつくっていて、「本当に枠にとらわれない芸術家なんだな」と。以来、意識するようになりましたが、僕と岡本さんの間には、ひと世代挟まっている感じ。篠原有司男さんや赤瀬川原平さんなど、岡本さんの影響を直接受けた方々の作品を通じ、僕も岡本さんの影響を受けているという構図になります。

--篠原有司男さんのことを尊敬されているそうですね。

岡本太郎記念館では、「岡本太郎の手」展が開催中(2008/09/03から2008/11/30まで)

ええ、尊敬するあまり、大学生の頃、篠原さんが活動されているニューヨークまで会いに行きました。1ヶ月間くらい、篠原さんのアトリエで、作品制作のお手伝いをさせてもらい、その中でアトリエを行き来する多国籍の若者アーティストたちと交流して、すごく刺激を受けました。篠原さんって、筆を動かす速度が異様に速いんですね。「なんで、そんなに速く動かすんですか?」と訊いたら、返ってきた答えは、「速くしないと人生が終わっちまうだろ」。70歳を過ぎているとは思えない、エネルギッシュな言葉ですよね。そんな篠原さんが尊敬するのが岡本さんですから、僕にとって岡本さんはまさに神のような存在です(笑)。

こどもの城前に設置された「こどもの樹」

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