BUNKA X PERSON

■インタビュー・アート性によって観る人をひきつけてから環境問題へのメッセージを伝える手法が見事
・ゴミを表舞台に昇華させるecopirikaの活動との共通点を感じた
・デザインの力によってゴミに新たな生命を吹き込む
・消費者の意識に訴えるだけではなくエコの視点を持つ作り手も増やしたい

■プロフィール大阪府生まれ、東京都育ち。中学校、高校はアメリカに留学。大学卒業後、約3年間、マーケティング会社に勤務後、2007年6月、リユースデザインブランド「ecopirika(エコピリカ)」の活動をスタート。2008年に男児を出産して1児の母に。
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チョコレートシロップやピーナッツバターなど、人々の意表をつく素材で描く絵画が世界中から注目されるブラジル人アーティスト・ヴィック・ムニーズ。トーキョーワンダーサイト・渋谷で開催中の「ビューティフル・アース」展では、ムニーズが大量の生活ゴミで神話や歴史上の人物を描いて写真に収めた新作シリーズ「ピクチャー・オブ・クラウド」全7作を世界で初めて同時公開しています。この作品展をご覧になったのは、リユースデザインブランド「ecopirika(エコピリカ)」を主宰する高原月子さん。ムニーズの作品と同様、不要な物の象徴であるゴミを再び表舞台へと昇華させている高原さんは、この作品展から、どのようなインスピレーションを得たのでしょうか。

アート性によって観る人をひきつけてから環境問題へのメッセージを伝える手法が見事

--作品展のご感想を聞かせてください。

「ピクチャー オブ ガベージ」シリーズでは、ゴミ処分場の従業員が絵のモデルを務めた

作品に近づくにつれて受け取る印象が大きく変わったことに、まず驚きました。遠目にはゴミで描かれていると気付きませんでしたが、じっくりと近くで観ると、ペットボトルやビニール袋、赤ちゃんのマネキン、便器——など、無数の生活ゴミで構成され、飲料ビンの王冠1つなくなっても、絵のラインが崩れてしまうほど緻密に描写されているのがわかりました。絵画のアート性によって観る人をひきつけてから、環境問題への強いメッセージを伝えるという手法が見事ですよね。絵そのものに素晴らしさを感じましたし、メッセージの伝え方も面白くてわかりやすい。あまりアートに興味のない人でも、きっと魅了されると思いますよ。私は、いつまでも眺めていたい——と思うほど、気に入りました! これ以外の作品も、飛行機雲で大空に絵を描いたり、色の付いた砂でピカソの名作『泣く女』を忠実に再現したり、発想がとにかくユニーク。きっと本人もユーモラスな人なのでしょうね。

--絵画の題材については、どのように感じましたか。

神話や物語の人物を描いたというシリーズのなかで、個人的に気に入ったのは、アイロンをかけている女性を描いた作品。現地の生活ぶりがリアルに伝わってくると感じられたので。その他の作品も、力強く、いきいきとして、ゴミを用いてバスケットコート2面のスペースに描いた絵画とは、とても信じられませんでした。一体、どうやって描いたのだろうか——と、誰もが不思議に思うはずですが、館内では制作風景の映像が上映されていますので、その疑問も解けると思います。

ゴミを表舞台に昇華させるecopirikaの活動との共通点を感じた

--ecopirika(エコピリカ)の活動との共通点を感じましたか?

独特の肌の質感の正体は、泥や空き瓶のフタ

そうですね。「ハレ(非日常)」と「ケ(日常)」の考え方で言うと、日常生活から排出されるゴミは究極の「ケ」ではないでしょうか。それを独特のアイデアによってアートという「ハレ」に転換したのが、ムニーズの作品ですよね。ecopirikaでも、ゴミを表舞台に昇華させる活動に取り組んでいますから、方向性は似ていると言えるかもしれません。ただ、アート作品とは違い、ecopirikaの商品は、メッセージを表現するだけではダメ。使う人の立場に立って、デザインや機能性を考慮する必要があります。そのような要素のすべてを高いレベルで満たそうとすると、どうしてもメッセージ性が犠牲になってしまうのが悩ましいところ。その点、ムニーズの作品では、本人の伝えたいメッセージがストレートに表現されていて、すごく羨ましさを感じました。

--ゴミ問題については、どのような考えをお持ちですか?

身近なところから何かをしたいという思いがあります。たとえば、私の住む渋谷区の清掃工場を見学した際、「ゴミに水分が含まれていると、焼却炉の温度が上がらない」と聞いて、生ゴミの水気はしっかりと切るようにしています。私の住む地域では、今年10月から、焼却炉でプラを燃やす有害ガスのテストでOKが出て、廃プラスチックなどが「可燃ゴミ」になりました。何でも、埋立地が残り少なくなっていることが理由だそうです。ムニーズが作品を制作したブラジルのゴミ処理工場では、焼却や粉砕処理をせずにそのまま埋め立てゴミも多いとのこと。日本のゴミ処理の技術レベルは高いと言えると思いますが、ヨーロッパなどと比べると、ゴミ問題への一人ひとりの意識は低いようです。ヨーロッパでは分別がとても厳しいですし、使い捨ての商品に対する目も厳しいですからね。

聖母マリアをモチーフとする<<母と子(ピクチャー オブ ガベージ)>>(写真右手)

■今回、高原さんに鑑賞していただいた展覧会
ヴィック・ムニーズ「ビューティフル・アース」展

ヴィック・ムニーズ「ビューティフル・アース」展

ヴィック・ムニーズは、1961年サンパウロ生まれ、ニューヨーク在住のアーティスト。砂糖、チョコレートシロップ、ピーナッツバターといった身近な素材を用いた絵画が注目されている。今回は、ブラジルのゴミ処理場の従業員とともに、カラフルな生活ゴミを用いて神話や物語上の人物を描いた2008年の新作シリーズ「ピクチャー・オブ・ガベージ」全7作を中心に、大空に雲を描いた「ピクチャー・オブ・クラウド」、ブルドーザーで大地に巨大な絵を描いた「ピクチャー・オブ・アースワーク」、ピグメント(色土)で描いたピカソの『泣く女』など、計40点を展示。

開催場所:トーキョーワンダーサイト・渋谷
開催期間:2008年11月22日(土)〜2009年3月1日(日)

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