時代が要請する社会派ドキュメンタリー

11月10日より、「食」を取り巻く環境と食生活の在り方について問題を投げかけたドキュメンタリー映画『いのちの食べ方』シアター・イメージフォーラムで公開される。現在、日本でも産地や賞味期限の偽装など「食」の安全についての報道が絶えないが、この映画は普段テレビなどからは報道されない現実を知らせてくれる。戦争犯罪や医療問題、言論の自由など、様々な切り口で現代社会が抱える問題を浮き彫りにする、”社会派”のドキュメンタリー作品を紹介する。

社会派ドキュメンタリー監督として名高いマイケル・ムーアが最新作『シッコ』で取り上げたテーマはアメリカの医療問題。これまでにも同時多発テロ後のブッシュ政権の対応や矛盾を抱える銃社会など、アメリカをとりまく深刻な問題を独特のユーモアとともに扱ってきた。また、戦争犯罪を追求し、国際法廷で裁く国連検察官の活動を追った『カルラのリスト』、ノーベル平和賞を受賞したマザー・テレサの生涯を紹介する『マザー・テレサ・メモリアル』からは、なくならない戦争や平和についての認識が問われるだろう。挑発的なタイトルで放送業界の限界と言論の自由に迫る『FUCK』など、こうしたドキュメンタリー映画が作られるのは、社会からの無言の要請があるからなのかもしれない。現在、世界には様々な社会問題があるということを知るためにも、こうした作品が上映されることの意義は大きい。

タイトル:
いのちの食べかた
上映場所:
シアター・イメージフォーラム
上映期間:
2007年11月10日〜
監  督:
ニコラウス・ゲイハルター
日本人が1年間に食べるお肉(牛・豚・鳥)は約300万トン。だれもが毎日のように食べている膨大な量のお肉。でも、そもそもお肉になる家畜は、どこで生まれ、どのように育てられ、どうやってパックに詰められてお店に並ぶのだろう? 本作は、そんな私たちの生とは切り離せない「食物」を産み出している現場の数々を描いたドキュメンタリー。世界中の人の食を担うため、野菜や果物だけでなく、家畜や魚でさえも大規模な機械化によって生産・管理せざるをえない現代社会の実情を、オーストリアのニコラウス・ゲイハルター監督がおよそ2年間をかけて取材・撮影した。

「賞味期限や産地など、“食”の偽装が世間を騒がせている日本。でも、私たちは本当に、食べ物のことを知っているのでしょうか? あっという間に魚をさばいてしまう機械、プール一杯に浮かぶ大量のりんごetc…。自分が食いしん坊だと思うなら、一食抜いても損はない現代の食料生産現場が描かれています。これはもう、映画うんぬんではなく、“人”として必見のドキュメンタリー。きっと、驚くような光景を見ることができると思いますよ。」(エスパース・サロウ/斉藤さん)

映画『いのちの食べかた』より

©2007 Dog Eat Dog Films,Inc.

タイトル:
シッコ
上映場所:
ユーロスペース
上映期間:
2007年11月3日〜11月16日
監  督:
マイケル・ムーア
出  演:
マイケル・ムーアほか
なぜ今、健康保険制度なのか。アメリカ以外に住む観客がそう感じても不思議はない。驚くべきことに、アメリカには先進国で唯一、誰でも加入できる政府運営の国民健康制度が存在せず、健康保険はすべて民間の保険会社に委ねられている。利益率を高め、株主を喜ばせることを最大優先する彼らは、被保険者が病気になっても、なるべく金を使わないですませようとする。今やアメリカでは、事故、犯罪、テロ、戦争ではなく、治療費を払えないという理由で命を落とす人数のほうが圧倒的だ。どうしてこんなことになってしまったのだろう?

「今までとは違う映画を作りたかった。8年前にすい臓移植を必要とする男性のTVドキュメンタリーを作ることで、彼に保険金がおりて命を救うことが出来たんだ。『同じことを映画でやったら、もっと多くの人の命を救うことができるのではないか・・・』と、それがきっかけだった。でも『シッコ』の撮影中は精神的に辛かった。なにせ、どんどん目の前の人が治療費を払えずに死んでいくのだから・・・。だから本作では、この問題は他人事ではない、立ち上がらなければならない、と思える作品にしたかったんだ。」 ―マイケル・ムーア(5/19 記者会見 カンヌにて)

映画『シッコ』より

タイトル:
カルラのリスト
上映場所:
東京都写真美術館UPLINK X
上映期間:
2007年11月10日〜30日(東京都写真美術館)・2007年11月19日、26日(UPLINK X)
監  督:
マルセル・シュプバッハ
出  演:
カルラ・デル・ポンテほか
戦争の最大の犠牲者は罪のない子供と女性たち。旧ユーゴスラビア紛争で起きた虐殺により家族が殺され残された母親達の願いはその戦争犯罪人が法の裁きを受ける事。国連検察官カルラは、世界のどこかに隠れている戦犯を探す毎日。しかし戦犯をかくまう当事国もあり成果はかんばしくない。カルラはアメリカ国防総省(ペンタゴン)に戦犯の情報を求めて向かうのだった。

「500万ドルの懸賞金が賭けられた旧ユーゴ紛争の戦争犯罪人たち。彼らを追うのは世界で最も厳重なボディーガードに守られた女性、国連検察官カルラ・デル・ポンテ。専用ジェット機で世界を飛び回り、犯人逮捕のため国家首脳と交渉を行う。しかし、それを拒むのは集団虐殺の戦犯だと知っていても彼らを逮捕しない当事国セルビア政府。カメラは世界で始めて国際刑事法廷に入りその"国際正義" を貫く彼女の活動をスリリングに描き出す。」(アップリンク/今城さん)

映画『カルラのリスト』より

©1986 Petrie Productions,Inc. All rights reserved.

タイトル:
マザー・テレサ・メモリアル
上映場所:
UPLINK X
上映期間:
2007年11月4日〜11月30日
監  督:
アン・ペトレー、ジャネット・ペトレー
出  演:
リチャード・アッテンボロー(ナレーション)
世界で最も尊敬される女性、マザーテレサの記録映画2本を上映。「母なることの由来」はデジタル復刻版、「母なるひとの言葉」は彼女自身が語る言葉とその言葉を継ぐ者達の証言などによる記録映画である。

『母なることの由来』 :本ドキュメンタリーは1986年アメリカで制作され、1988年日本初公開となった「マザー・テレサ ─母なることの由来─」のデジタル復刻版。ニューヨーク、カルカッタ、レバノン…5年間にわたり10ヶ国での精力的な活動を記録し、同時に、ごく平凡な家庭に生まれた彼女の生い立ちからここに至るまでの経過を、克明に描いてゆく。

『母なるひとの言葉』:生前に記録されたマザー・テレサ本人のインタビュー映像、そして1997年の盛大な国葬の模様が収録された日本初公開のドキュメンタリー。「真の聖者」とも言われた彼女からの目の覚めるような教えの言葉が、自身により語られている。また、マザーを看取った側近の修道女たちにより、死を間近にした彼女の最後の行動や発した言葉、その瞬間を迎えたマザーハウスそしてカルカッタの様子などが鮮明に語られる。
タイトル:
FUCK
上映場所:
シアターN 渋谷
上映期間:
2007年11月10日〜
監  督:
スティーヴ・アンダーソン
出  演:
アラニス・モリセット、チャックD、アイス-T、ハンター・S・トンプソン、ケヴィン・スミス、ロン・ジェレミー、レニー・ブルース、ジョージ・カーリン、ハワード・スターン、ジョージ・W・ブッシュ

保守化するブッシュ政権、9.11後の過剰な自主規制ムードの中、ある日、スティーヴ・アンダーソン監督は、今のアメリカにぴったりのアイデアを思いついた。"Fワード"とは、悪名高き罵り言葉の王様。おなじみの放送禁止用語。4文字言葉"FUCK"である。 この言葉を題材にすることで、「言論の自由」や「検閲」という、今の時代に実に重要な問題に迫りえると考えたアンダーソンは、35名の様々な分野の人物に「この言葉が意味するものは?」「なぜ放送禁止用語なの?」と自らカメラを回して果敢にインタビュー。さらに驚きの資料映像を大量に掘り起こし、この究極の罵り言葉を徹底研究。アメリカ民主主義の根幹たる「言論の自由」に迫る、超過激でユーモアあふれるドキュメンタリー。

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