レコメンド 今週、編集室が推薦するカルチャー

「レトロスペクティブ」は、日本語では「昔を懐かしむさま」と訳される。既に1度楽しんでいる作品を今になってもう一度味わってみるという体験だ。その再体験は、懐かしい感情ばかりではなく、当時とはまた違った刺激を僕たちに与えてくれることがある。例えば変化した時代の流れを感じること。例えば、時代と同様に変化した自分自身を改めて確認すること。さらに、作者のエネルギーが歴史を超えて僕たちを揺さぶる名作も数多く存在する。

パルコ・ファクトリーでは、2008年6月5日から6月15日までの11日間、「ナンシー関 大ハンコ展 見た!彫った!書いた!39年の人生と全仕事」が開催中だ。故・ナンシー関は、消しゴム版画と辛口エッセイで知られた人物で、会場には、彼女が仕事場に残した全5000点強にも上る版画作品が一挙に展示されている。1辺が数センチしかない消しゴムそれぞれには、確かな描線で刻印された似顔絵が、顔の横には、絶妙としか言いようがないひと言コメントが添えられている。似顔絵のおもしろさはいかに相手と似ているかにあると思うが、彼女の作品の場合は、たとえ書かれた相手を知らなくても、相手の存在感がどかんと僕たちに迫ってくるから不思議だ。ナンシー関の突然の悲報からちょうど6年。6月12日は彼女の命日でもあるが、会場を埋め尽くすハンコの数と、それを観に訪れるたくさんのお客さんを見ていると、そこに「彼女がいない」ことがあまりにも物足りない。

2008年5月13日から6月29日まで、東京都写真美術館では、「森山大道展1. レトロスペクティヴ1965-2005」が開催されている。3階の展示場では、デビューした1960年代から、「写真とは何か」を問い続けた1970年代、スランプ・再起の1980年代、躍進を続ける1990年代から現在までの変遷が一覧できる。未発表作から代表作まで、小さく並べられた写真は全部で約200点。会場をゆっくりと歩きながらその作品群を眺めていると、40年以上にわたってコンパクトカメラで膨大に撮り上げられてきた風景群から、風景の中を生きた森山氏の痕跡が見えてくる。

映画でも、アートでも音楽でも、新しい出会いは時代を超えて無限に僕らの前に広がっている。新作ばかりで、満足できる?

画像:ナンシー関 顔写真 (c)永田忠彦

タイトル:
ナンシー関 大ハンコ展 見た!彫った!書いた!39年の人生と全仕事
開催場所:
PARCO FACTORY
開催期間:
2008年6月5日〜2008年6月15日
10:00〜21:00

ナンシー関の決してブレなかった勇気ある視線と常に忘れなかったユーモアに感謝し、また、それをリアルに後世へ伝えるために、彼女と生前交流があった人々が集結し、七回忌の前後に展覧会を開催がされます。生前に彫り倒し、仕事場に残したハンコ5000個強のすべての展示をはじめ、短すぎるけれど豊かであったナンシー関の人生と全仕事を圧縮陳列する展覧会です。
<パルコファクトリーHP情報より、抜粋>

展示会の様子より、ジャイアント馬場の消しゴム彫刻。力強い刻跡は圧巻である。

森山大道 青山(「エロスあるいはエロスではないなにか」) 1968年 東京都写真美術館蔵

タイトル:
森山大道展1、2より、
1.レトロスペクティヴ 1965-2005
開催場所:
東京都写真美術館
開催期間:

2008年5月13日〜2008年6月29日
10:00〜18:00 (木・金は20:00まで)
※いずれも、入館は閉館の30分前まで

同館2階では「森山大道展2.ハワイ」と題して同氏の最新作も展示されている。約70点の作品には、観光地としてのハワイではなく、日常にあるハワイの神秘的な自然と人々の生活が、モノクロームで切り取られている。写真集『ハワイ』で未発表の作品も含め、大型プリントで公開されており、レトロスペクティブとは対照的だ。また、すれ違いざまに目の前のものを次々とカメラに収めていく森山氏独特の撮影スタイルは、ドキュメンタリーとして映像ブースで鑑賞できる。

森山大道 光と影 1981年 東京都写真美術館所蔵

●渋谷で唯一の名画座 シネマヴェーラ渋谷
鈴木則文監督の特殊上映が行われているシネマヴェーラ渋谷は、渋谷で唯一の名画座として有名。「誰も名画座を開いたりはしないから、仕方がないから自分でやるかと思い立ったのが開館の動機」と語るのは、館主である内藤篤さん。
内藤さんのインタビューは、コチラ

画像:『パンツの穴』(16mm)より

タイトル:
最終凶器・鈴木則文の再降臨
上映場所:
シネマヴェーラ渋谷
上映期間:
2008年5月31日〜2008年6月20日
連日2作品、各3回上映 詳細は施設HPをご参照ください。
監  督:
鈴木則文

鈴木監督は、『トラック野郎』シリーズ、『緋牡丹博徒』シリーズ、ロマンポルノなど、関わったジャンルは幅広いが、一貫して娯楽映画を追求しているのが特徴だ。今回の上映会では、デビュー作を含めた19作が一挙に上映される。6月14日には、鈴木則文監督ご本人と、作家の中原昌也氏のトークショーも開催される予定である。


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