BUNKA X領域

青学-渋谷2丁目エリアは、渋谷駅から明治通りと青山通りという二つの大通りに隔てられていることもあって、渋谷駅前とは街並みの印象がガラリと異なる。大人向けの飲食店やショップが建ち並ぶ落ち着いた街並みの中、所々にディープなカルチャーが顔を出すのが、このエリアの特徴だ。青山学院大学の自由な気風から生み出されるエコプロジェクトの動き、そしてディープな文化を発信する2ヶ所のカルチャースポットを紹介する。

2丁目から生まれる“街づくり型”エコプロジェクト

碇和生さん

渋谷2丁目を拠点とする無料レンタル傘「シブカサ」が渋谷の街に広がっている。これは、カフェや書店などの提携店にシブカサのシールを貼ったビニール傘を設置し、突然の雨に降られて困っているお客さんに貸し出すというしくみ。返却時には渋谷の地域通貨・「アースデイマネー」50r(50円相当)がプレゼントされる。このプロジェクトを運営しているのが、青山学院大学4年生、碇和生(いかり・かずお)さんが中心になって結成したソーシャルベンチャーなどを学ぶ多大学の学生団体「SOL(Symbol Of Life)」。碇さんに、シブカサを始めたきっかけを訊くと――。「たまたま、カフェで打ち合わせをしているときに雨が降ってきて困ったことがあって。さらに、当時のバイト先では忘れ物の傘を大量に廃棄していて、『もったいないな』と、いつも思っていたんです。その二つの体験が重なって、シブカサの活動を思い付きました」

傘以外の循環も考案したい

brimの入り口に置かれたシブカサ

単に傘をリサイクルするだけではなく、利用者に“良いことをしている”という実感を持たせられないか――。そんな思いから、アースデイマネーを運営する「アースデイマネーアソシエーション」代表理事の嵯峨生馬さんに話を持ちかけ、アースデイマネーを付与するしくみを考案。2007年12月のスタート当初は5店舗だった提携店は、現在は約35店舗に増加した。設置している傘は250本ほど。そのほとんどは企業などからの寄付によって集めている。碇さんによれば、「今年の夏は“ゲリラ豪雨”が相次いだこともあって、設置店から『傘がなくなった』という連絡が多かった」という。一方の返却率はお店ごとで数%〜20%ほど。やや低いようにも感じられるが、国内外での同様の事例に比べると高い数字だそうだ。現在は、タワーレコード渋谷店に「返却場所」として協力してもらっており、さらに返却率を高めていく方針だ。設置店のひとつであるカフェ「brim」の店長・原田亜希子さんは、「利用者にはとても喜ばれていますね。外を歩いていたら雨が降り出してきたから、来店してお茶を飲み、傘を借りて帰るというお客さんもいらっしゃいます」と、予想外の増客効果にも喜んでいる。今後、シブカサはどのように展開していくのか。碇さんは、「流行の発信地である渋谷で活動しているからこそ、メディアにも取り上げてもらえる。今後はさらに設置店を増やして利用者を増やすとともに、傘以外の物の循環も考え出したい」と、意欲的に語る。

アースデイマネーって?

時代の流れに流されず、独自路線を歩む“2丁目カルチャー”

澤隆志さん

青学−渋谷2丁目エリアの中でも中心的なカルチャースポットが「イメージフォーラム」である。2000年にオープンしたミニシアター「シアター・イメージフォーラム」のみならず、国内外のアート系映画やドキュメンタリーをはじめとした実験的な作品を週替わりのプログラムで上映する「イメージフォーラム・シネマテーク」や、2008年で22回目を迎える映画祭「イメージフォーラム・フェスティバル」、映像関連の書籍やビデオソフトを制作する「ダゲレオ出版」、そして映像作家を育成する「イメージフォーラム映像研究所」など、多機能を備える施設だ。1972(昭和47)年、寺山修司の主宰する天井桟敷内にスペースを借りてスタートし、1977(昭和52)年、イメージフォーラムとして四谷に移転して、同時に映像研究所を併設。そして、2000(平成12)年、渋谷の地へ戻ってきた。映像研究所では毎年、アニメーションやドキュメンタリーなどの作家を志す80名が学んでいる。プログラム・ディレクターの澤隆志さんによると、「実験的で新しい映像作品にチャンレンジする学生を育てるというコンセプトで、今年で32期を迎えました。近年は映画監督よりも、PVやCMなどを含めたグラフィック系の映像を創りたいという生徒が増える傾向が見られますね」。映像研究所のプログラムには、どのような特徴があるのか。「最大の特徴は、脚本から撮影、編集まで、一人の生徒が映像制作の全てのプロセスを体験すること。その過程により、“自分で考えて創る”という最も基本となる大切な力が養われます」。卒業生は、映画監督、映画配給会社や映像制作プロダクションへの就職、さらに俳優など、クリエイティブの道を選ぶ人も多い。近年は海外の映画祭への出品も相次ぐなど、ますます存在感を高めている。

伝説のシャンソンバー

青い部屋の店内

六本木通りに面した雑居ビルの地下に何ともディープな空間がある。推理小説作家でありシャンソン歌手である戸川昌子さんがオーナーを務めるシャンソンバーの「青い部屋」がそれだ。オープンは1967(昭和42)年。当初は、森下仁丹ビルの裏手にあった喫茶店だったが、しだいに作家仲間が集まって文化サロンの様相を呈するようになった。あまりに賑やかになりすぎたせいか、近所からの苦情も次第に増えて追い出されるように、現在の場所である六本木通り沿いの地下へ移転、さらにステージも設置された。通い詰めた作家を伺うと、三島由紀夫、野坂昭如、石原慎太郎、五木寛之・・・と、時代を代表する文豪の名が次々に飛び出してくる。戸川さんは「本当に色々な方がいらっしゃいました。時折、石原裕次郎も顔を見せてくれましたね。皆、いつも大騒ぎで、喧嘩をしたり、ソファに寝てしまったり・・・楽しい思い出がたくさんあります(笑)」と昔を懐かしむ。現在も戸川さんの歌声を聴きに、また独特の空間を楽しむために訪れる客が引きもきらない。ステージでは連日、シャンソンのほか、多ジャンルのライブが繰り広げられている。「若い方々にも気軽に来店していただきたいのですが、一見、怪しげな店構えですからためらう方も多いみたい(笑)。他のライブハウスでは味わえない独特の雰囲気がありますから、ぜひお気軽にどうぞ」。青い部屋は昨年で開店40周年を迎えた。渋谷2丁目の地下で培われてきたカルチャーは、今や“伝説”となって多くの人を魅了し続けている。

シブカサ

本来なら捨てられるはずだったカサを回収し、シブカサ提携店のカフェや本屋さんに置き、無料レンタル傘として貸し出すプロジェクト。借りたシブカサはシブカサ提携店全店で返却可能で、返却時にはアースデイマネー50ルピー(50円相当)がプレゼントされる。碇さんは、現在その運営の中心的な役割を担っている。 また、今回話を聞いたbrimもシブカサ提携店の1つ。

brim

住所:
渋谷区渋谷2-3-4スタービル青山1F
TEL:
03-5485-3034
営業時間:
12:00〜23:00(金曜は翌2:00まで)
休業日:
土日はレンタルスペースとして営業(希望者によるカフェ営業が中心)

イメージフォーラム

シアター・イメージフォーラムでは、アート系作品などをロードショー。ほか、週替わりのシネマテーク、映像作家を育成するイメージフォーラム映像研究所、映像関連書籍などを出版するタゲレオ出版をはじめ、多機能を備える。

住所:
渋谷区渋谷2-10-2
TEL:
03-5766-0114(シアター・イメージフォーラム)
03-5766-0116(イメージフォーラム映像研究所)
03-5766-1119(ダゲレオ出版)

青い部屋

推理小説作家でありシャンソン歌手である戸川昌子さんが1962年に開店したシャンソンバー。時代の文豪が通い詰めた“伝説の店”として知られる。毎週月曜には戸川さんも出演する「月曜シャンソンコンサート」を開催するほか、連日、ミュージシャンやダンサー、お笑い芸人などの多彩なライブが繰り広げられている。

住所:
渋谷区渋谷2-12-13 八千代ビル地下1F
TEL:
03-3407-3564
営業時間:
ライブの時間により異なる

個性的な飲食店がひっそりと点在する八幡通り 八幡通り オフィスビルも多い渋谷2丁目エリアでは、お昼になるとランチを求めて通りを歩くサラリーマンの姿も多い。特に、代官山方面から延びて、六本木通りと青山通りをつなぐ道路・八幡通りには、渋谷駅周辺の雑踏を忘れさせてくれる、落ち着いた雰囲気の個性的な飲食店が点在している。 我々も、本文でも紹介しているシブカサ提携店brimにてランチを頂いた。brimのランチはサラダとメインとドリンク、デザートがセットになって1000円。注文したほうれん草とモッツァレラチーズのカレーは、シンプルですっきりした見た目の反面、深いコクと苦みが特徴。カフェメニューやデザートに加え、手作りのディナーも人気だ。 さて、brimを出て八幡通りを青山通りに向かって歩いていくと、次にガラス壁の向こうに大きなソーセージがぶら下がるレストラン、「TAMA」が見えてきた。こちらは、沖縄料理と中華料理を融合させた琉球チャイナのお店。18時からオープンと言うことで、開店準備に追われている。
»TAMA

トマトを通してサプライズを 透明感のあるイエローミニトマト(手前)と、眩しいほど鮮やかなレモンボーイ(奥) 右手に青山学院大学の西門を過ぎ、更に青山通りへ向かうと、今度はショーケースに色とりどりのトマトが並んでいるのを発見。トマト料理の専門店「セレブ・デ・トマト」である。セレブ・デ・トマトは、もともと農業コンサルタントだった吉本博隆さんが、2005年10月にオープン。美と健康を提案するアグリフードカンパニーとして、全国の契約農家から新鮮なトマトを仕入れている。今回は奈良県産トマト・「レモンボーイ」と愛知県産トマト・「イエローミニトマト」をテイクアウトした。どちらも美しい黄色が特徴だが、肉厚で酸味が力強いレモンボーイと、甘みと香りが特徴のイエローミニトマトでは、その味わいは全く違う。「トマトを通してお客様にサプライズをご提供したいと思っています」とは、広報の吉本さん。レストランスペースでも各お皿のメインは全てトマトとのこと。多彩な味わいを楽しめる。
»セレブ・デ・トマト

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