BUNKA X PERSON

■インタビュー・草間さんの姿はロックスターっぽい感じ
・僕がやっているのはアートではなく、新しいテキスタイル
・逆に「ドットを使って表現するのは面白いんじゃないか?」
・ドットをどこまで小さくできるか、ということをよく考えています

■プロフィール「ドメスチークに、セクシーに、クレイジーに、ストイークに、日々点々デザイン」する日本人ピクセル・デザイナー。武蔵野美術大学卒業後、デザイン事務所勤務などを経て、2001年にウェブサイト「ten_do」をスタート。携帯電話のインターフェイス・装丁・エディトリアル・CDジャケット・ウェブ等、ピクセルデザインのオリジネイターとして国内外、メディアを問わず日々デザインを続ける。「点が点を点々とデザインするコンセプチュアル・フォーマット・デザイン」が大きな注目を集め、また、携帯電話を使用したキャラ・オッケー・バンド「japanese」のメンバーでもある。ワイフ旬旬と手芸オートクチュールブランド「clatic」でウィリアムモリス中。


逆に「ドットを使って表現するのは面白いんじゃないか?」

--ドットを使用したミニマルな表現を始めたきっかけと経緯は?

一番はじめは小さい頃に家で遊んだレゴ・ブロックですね。70年代前半のレゴって、ある意味究極のモダニズムでしょ、だからTVゲームよりもレゴの洗礼が先でしたね。父親が新しいもの好きな人間だったから、「パソコン」と呼ばれて登場したNECのPC-8001mkIIが家にあって、そこでN80ベーシックに触れたのが、デジタルアートの初体験でした。その後、美大に入ってパソコンで絵を書くのって面白いなと改めて感じて。一番はじめにAmigaというパソコンを買って、本格的に取り組みました。ベーシックで苦労してかいてたグラフィックがペイントソフトをつかってお手軽に落書きできる感覚にチビリそうになりました(笑)。実は大学では写真系の学部にいて、アラーキーとかテリー・リチャードソンなんかの「生き様系」の写真家に憧れがあったのですが、若い頃は照れもあったし女の子にもモテたかったし、自分には出来なかった。それにグラフィックは写真と違って100%自分でコントロールできるから、面白さを感じるようになって。写真に挫折したという思いも、グラフィックにのめり込むきっかけになりましたね。卒業してデザイン事務所で働いた時は、「トンボって? CMYKって?」というくらい知識がないにも関わらず、DTPをやっていたりしました。そこを辞めてから「デラウェア」というクリテイティブ・チームに参加し、5年くらい、音楽とドットを使ったグラフィック作品を融合させながら活動していました。当時はデザイン界が急激にDTPへ移り変わっていた時期で、逆に「ドットを使って表現するのは面白いんじゃないか?」と思ってました。

--その後いまの「点」と名乗るようになったのは?

海外で展覧会とライブをするようになりNYへ行って、色々な人種の人々が自分のローカリティをさらけ出しているのを目の当たりにして、えらく格好いいなと感じて。その頃ちょうど、あの9.11の事件もあって、自分の個性を再認識して、もっと踏み込んだ表現をしようと決意したんです。それで独立して「点」を名乗るようになりました。ドットという意味以外にも、出身が大阪の天王寺で、それまで「テンちゃん」というあだ名だったこともあるんですけどね(笑)。

ドットをどこまで小さくできるか、ということをよく考えています

--ピクセル・デザインの創造の源となるのは?

点さん作のテーブルクロス
舌を出した犬の顔をドットで表している

僕の場合、網膜的な快楽を大切にして、ドット表現をしてきました。最近だと、主婦の手芸書の絶版書を見に図書館へよく行きます。手芸は歴史が長いし、パターンをピクセルに置き換えられるんですよね。ドットでどこまで小さくできるか、ということをよく考えています。ドットを大きくすると一見モダニズム風に見えるんですが、小さくしていく、つまり解像度を落としていくと、そぎ落とされたフォルムになるという発見を最近して。どこまでシンプルにわかりやすくしていくか、というのがモダンデザインのベーシックですから、ドットを小さくしていく、というのもありなんだな、と。それと「ちょっと茶化した視点」というのが僕にはあって。物事って結局、「信じているけれど、信じていない」みたいな感覚がありませんか? その微妙な感覚を、ちょっと茶化して表現するのが好きなんですよ。ドットという表現方法も、それに当てはまる部分がありますよね。本当は草間さんみたいに「生き様系」でありたいとも思うんですが、やはり僕の表現には「照れ」が関係していると思いますねえ。

--「ジャパニーズ」というバンドでの非常に個性的な音楽活動も、似たような感情があるんですか?

そうですね、似たような感覚でロックを茶化している部分はありましたね。携帯電話の着メロを流しながら歌うのですが、サザエさんの曲をマービン・ゲイの歌詞でやったり。日本人がそれをやると単なるコミック・バンドみたいですが、「ジャパニーズ」は、ハーフのカワイイ男の子、ヒューレットユタカくん(現在はボルチモアでアーティスト活動中)や、雑誌オリーブで活躍していたエリちゃん(現在はmother,chicoっていうブランドのデザイナー)、スペイシーでアジアントラッシーなダスティン(現在はestatic sunshine, ponytailっていうバンドで爆発中)っていうナイスキャラぞろいだったので、「意外と格好いいのかなあ?」と見えてしまったりして。みんなで「ちょっとふざけたことやろうか?」と、始めたんですよ。現在はメンバー中2人がアメリカに帰国してしまい、一旦活動は休止しています。格好いいこととダサいことの境界線が面白い、と思っている部分はありますね。音楽にしても、またデザインにしても。

--最近、印象的だった仕事と、今後の活動予定は?

昨年のクリスマス時期、アメリカのタクシーとロンドンのダブル・デッカーの広告スペースに、僕の描いたサンタ・クロースのマークが使用されました。現地のユニクロのプロモーションの一環でした。それから、様々なアーティストが参加して手塚作品をアレンジする「手塚治虫トリビュート」で、どこまで小さいドットを使ってアトムを作れるかやってみました。また、春には作品集を図鑑のようなスタイルで出版しようかと考えています。ここ数年、書籍はウェブに押され気味ですが、ウェブと違って本は、ページを開くことでどこにでもランダムアクセスが出来ますから、そこは永遠に面白いと思います。手芸も積極的に取り組んでいますよ。ワイフの旬旬と「クラッチック」っていう手芸ブランド兼、ラップチーム(笑)で、今までに無かったようなデザインやパターンを模索する、最先端の主婦の手芸を目指しているような感じです(笑)。

点さんと渋谷との関わりは?美大を卒業して赤坂にあるデザイン事務所に就職した時、吉祥寺から引っ越したんですが、それが道玄坂の百軒店裏手あたりでした。世界最大のラブホテル街と言われる場所ですから、その週末の熱気といったら…(笑)。怪しい人や変わった店に囲まれて、強烈な体験の連続でしたね。「ムルギー」というカレー屋さん、「喜楽」というラーメン屋さんに交互に通ってました(笑)。その後結婚を機に南平台へ引っ越しました。いきなり高級住宅に囲まれ、よく代官山に散歩に行ったりして、落ち着いた、穏やかな暮らしに様変わりしました(笑)。渋谷って地区によって雰囲気が激変するから面白いです。

渋谷に対する愛着は?以前は宇田川町のレコード屋さんに通っていたんですが、だいぶ無くなってしまいましたよね。最近だと、六本木通りにある青山学園近くの「BAR OATH」でやっていた「JAYPEG祭」というイベントにはよく行ってました。面白い人たちが集まっていて、人に出会うのが楽しかったから。それから、渋谷へ行けば何でもあるし必要なものはだいたい買える、そんな安心感は常にあります。ハンドメイドに便利なグッズが豊富な東急ハンズにはよく行きますよ。いちばん足を運ぶのは代々木公園。気持ちいいですもんね。

点/ten_do_tenさんオフィシャルサイト

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