BUNKA X PERSON

■インタビュー・印象深い写真の数々と共感できるストーリー
・子どもの頃から“気になること”を考え続けていた
・ある日、ポストに舞い込んでいる唐突さが面白い
・街のあちこちに“唐突”な作品を展示したい

■プロフィール大手出版社勤務後、編集プロダクション経営、季刊写真誌『デジャ=ヴュ』(フォトプラネット刊)発行人などを経て、1993年に言葉を使ったアート作品を発表するコミュニケーション・アーティストとしての活動を開始。官製ハガキに“コトバ”をプリントして読者に郵送する週刊「TOKIの言葉」に加え、“コトバ”のバッチが出てくるガチャや、“コトバと人”を巡る映像を製作中。映像作品のライブ上映会も年間5回ほど開催している。主著は「記憶力がないので何度でも楽しめる」(小学館刊)、「ときもどき」(トキヲ刊)など。
http://www.tokitama.net/

ある日、ポストに舞い込んでいる唐突さが面白い

--「TOKIのことば」を始めた経緯を教えていただけますか。

出版社で子供向け書籍の編集者をした後、子育て期間を経て、編集プロダクションの経営、写真集『デジャ=ヴュ』の発行などに携わってきました。30歳くらいから、「自分なりの表現をしたい」と思い、写真を撮ったり、小説を書いたりしたけど、どこかしっくりこなかった。周りの反応もいまいちでしたし・・。そんなとき、連れ合いから「自分の確信のあることをしなさい」という助言を受け、短い“コトバ”を発信しようと思い立ったのです。昔から、キャッチコピーのようなものを考えるのが得意でしたし、良し悪しを見分けることにも、自分なりに自信がありましたから。

--作品をハガキで送る手法は、どのような発想で生まれたのでしょうか。

つくるからには、やはり誰かに伝えたい。そこで思い付いたのが、官製ハガキにプリントし、読者に郵送する手法でした。ハガキなら出版物とは違い、読者の数だけ印刷すればいいから在庫の心配がないし、ある日、ポストに舞い込んでいるという唐突さも面白い(笑)。それに配達する人や家族などが目にする可能性も高く、まさに「動くポスター」なんですよ。

街のあちこちに“唐突”な作品を展示したい

--読者には、どのようなメッセージを伝えたいとお考えでしょうか。

「こう感じてほしい」といったメッセージはありません。実は「二酸化炭素を削減しましょう」というテーマが隠されているなどということは、私の作品に限っては絶対にない(笑)。それよりも、読者の中で作品が“科学反応”を起こし、思考のきっかけになってくれれば良いと思っています。たとえば、「陽毛」というコトバを見て、何をイメージします? いろいろな人に聞いたところ、「陰毛の反対」「光が当たって暖かそうな毛」「羊毛」など、反応がさまざまだったことに、とても嬉しくなりました。意外なリアクションがあることも多いですよ。以前、「水洗便所はうんちとうんちがあった事を水に流してく」という作品を送ったら、ある人から、「前日から引きずっていた嫌な気分を忘れてすっきりした。すごく救われた」というメールが届きました。この作品により、一体、何から救われたのかは分かりませんが(笑)。そのように、十人十色の反応があることが、作品づくりの糧になっています。

--今後の目標や夢をお話ください。

今、「TOKIのことば」として、約660の作品がたまっています。これを使い、いろいろな活動を展開したい。現在、私の周りの人たちに好きな作品を選んでもらい、それに関してコメントする姿を撮影する「Onときたま」という映像作品をつくっています。作品をつくった私自身がまったく予想できないコメントが次々に飛び出すのが本当に面白く、言葉のすごさを改めて実感します。とりあえず、現在の目標は「参加者1万人」として製作を続けています。

それから、いつかは街のあちこちに作品を展示してみたい。以前、ポストカードの作品集を出したことがあるのですが、正直言って、あまり面白くなかった。私の作品は、身構えて見るのではなく、唐突に出合うからこそ、読む人の心の中に生き生きとした波紋が生じることを改めて感じました。ふと電信柱に目をやったら、「鼻歌の始まり」とか、「ほほえみ筋の発育度」とか書かれたハガキが貼ってある。そういう展示を実現して、たくさんの人たちを元気にしたり、ちょっとした幸せを感じてもらうのが今の夢ですね。

渋谷の街の印象は?私は恵比寿で生まれ育ちましたので、渋谷とは縁の深い半生を送ってきました。幼い頃の記憶といえば、自宅のあった高台から見下ろせた渋谷駅前の光景。とくに、東横デパート(現在の東急百貨店東横店)が目立っていたのが印象に残っています。
大人になってからも、住居や仕事場は渋谷界隈でしたから、街並みの変化を目の当たりにしてきました。渋谷に勢いがあるのは、きっと変化があるからでしょう。街を歩くだけで、作品づくりへの刺激を受けることも多々あります。いつからか、渋谷駅前のスクランブル交差点は、外国人が撮影する名所になりましたね。これは映画「ロスト・イン・トランスレーション」の舞台となった影響もあるのでしょうか。なかには、「あの人ごみが苦手」という人もいますが、人が集まる街だからこそ、さらに人が集まる面はあると思います。これからも、そのように活気あふれる街であり続けてほしいですね。

今後の渋谷に望むことは?今でも、駅前に「のんべい横町」が残っていますよね。ああいう、ごちゃっとした街並みを、いつまでも残してほしい。チェーン店よりも、個人が人生を賭けて経営している店の方が面白いじゃないですか。そんな店が集合することで、街としてのパワーが生まれると思います。その意味では、他の街に比べ、渋谷に雑多なエリアがたくさん残っているのは、街として元気な証拠といえるかもしれません。その一方で、質の高い芝居や映画を公開するBunkamuraなど、文化的な拠点が数多いのも渋谷の特徴。そのあたりには渋谷の底力を感じますね。

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