BUNKA X PERSON

■インタビュー・意外性のある花見は渋谷ならではの楽しみ方
・「渋谷の考現学」を通して、もうひとつの渋谷を発見したかった
・愛着のある街を持つことは、すなわち、生活を豊かにすること

■プロフィール鈴木健司(すずき・けんじ)さん 1963年東京都渋谷区生まれ、世田谷育ち。出版社勤務、ミニコミ誌運営を経て、フリーランスのエディター・ライターとして活躍。放送や広告、スポーツ、笑芸などの執筆活動にいそしむ一方、「極私的タウン観光」のあり方を研究・実践している。


「渋谷の考現学」を通して、 もうひとつの渋谷を発見したかった

--「渋谷の考現学」を執筆されたきっかけは?

もともとNHK出版のホームページ上に掲載するコラムのひとつで、編集者から「渋谷という街をテーマに何か書いてもらえないか」と話を持ちかけられたのがきっかけです。その後三年間、ウェブ上で連載したものを、一冊の本にまとめたのが、「渋谷の考現学」。連載を始めるにあたって、自分の中で、いわゆる渋谷の最新スポットや情報をただ紹介するだけではなく、“もうひとつの渋谷の姿”を浮かび上がらせるものにしたいという思いがわき上がってきました。最近の渋谷は、「マナーの悪い若者」「人でごった返す交差点」…といった、決してプラスイメージとはいえない側面ばかりがクローズアップされて報道され、自分自身も、若者の街へと変わってしまった渋谷に、年齢を追うごとに距離をおいてきたところがあったんです。でも、一方で、渋谷区で生まれ、東急東横線エリア育ちの身としては、渋谷の魅力はもっとあるはずだと信じたい気持ちもありました。そこで、1963年生まれ、44歳の僕が、この街をオッサンの視点でもう一度見てみようと。それで、新鮮な気持ちで街を歩き始めたんです。そうしたら、今まで出合ったことのない渋谷の姿がたくさん浮かび上がってきた。渋谷には、長い歴史があるし、みんなが気付いていない魅力も数多く残されていると確信しました。その気持ちは、街を歩けば歩くほど、地元の人に話を聞けば聞くほど、強まっていきましたね。

--もっとも印象に残っている場所は?

渋谷は、歩いてこそ多くの発見が出来る街。その最たるものは、「渋谷川の源流をたどる旅」でしたね。渋谷川遊歩道に続く駐車場から、裏原宿、そして源流のある新宿御苑まで歩いたのですが、街のいたるところに川の痕跡を見つけることができました。渋谷川が実際に流れていた頃の様子は僕も知らないけれど、かつて渋谷が「川の街」だったということが体感できた気がしたんです。それから、「しぶちか」も印象的でした。子供の頃から母親に連れられてしょっちゅう来ていたなじみの場所だったのに、戦後日本で初めてできた地下街だと聞かされて、驚きと同時に、自分が知らない渋谷があるんだということを改めて思い知らされました。それから、一番インパクトがあったのは、渋谷から乗り替えなしでどこまでいけるかという企画。結局、11時間以上バスに乗って、出雲まで行っちゃった(笑)。もうここまで来ると、渋谷という名前がついていれば何でもアリっていうノリですけど…。でも、与えられた情報や作られた流行を、そのまま鵜呑みにして、食事に行ったり、ショッピングするっていう受身の楽しみ方へのアンチテーゼという意味もあったんです。渋谷という街を使って、自分の好きなように遊んでしまう、そんな楽しみ方をするヤツがいてもいいんじゃないかと。

愛着のある街を持つことは、 すなわち、生活を豊かにすること

--街歩きのポイントは?

今回、この連載を通して得た最も大きな収穫は、渋谷という街にあらためて愛着というものを感じたこと。それは、決して表面的なものだけではない、街の歴史や地理、文化などを知って初めて湧き出てくる感情だと思います。そのためには、例えば、新しい店が出来たとき、同時にそこから何が消えてなくなったかっていうことを必ず考えるようにしています。どうしても目新しいもの、最新の情報ばかりを追いかけてしまうけど、自分が好きな街、自分が生まれた街について、過去から現在までを通して知ることは、とても重要なこと。気になる場所があったらインターネットでその背景を調べてみたり、普段は目的地にまでしか行かないという人も、思い切って、その先の路地まで進んでみるとかね。そこにはきっと、いろんな発見があるはずです。自分の愛着のある街を、ひとつでも多く持つことは、生活を豊かにしてくれることだと思っています。

--今後の展開について教えてください。

第2弾をやってみたいっていう気持ちはあります。ネタはまだまだたくさんある気がしますので。僕は、もともと編集者なので、テーマを選ぶときにも、どうしても俯瞰的に物事を見てしまい、バランスを考えてしまうんですね。今回も、自分の中で、やりたかったテーマはほかにもあるけど、お蔵入りしたものもありますし、もっとあまねくやっておきたかったなあと、反省点は多々あります。取材を進めていく中で、「渋谷ネイティブ※」の視点を大切にしたんですが、その中で、街の歴史に非常に興味を持ちました。だから次回は、歴史に重点を置いた渋谷を切り取ってみたいですね。郷土史っていうと、ちょっと堅苦しいので、自分史のひとつとして、この街の新しい顔を考察できたら良いですね。

※ 渋谷ネイティブ…鈴木さんの造語で、渋谷生まれ、渋谷育ちの地元に密着した人たちをさす。

渋谷のお花見スポット紹介今回鈴木さんとめぐった渋谷のお花見スポットをご紹介します。定番から穴場まで、渋谷の街を美しく彩る風景はこちら。

鈴木さんと歩いたルートはこちら

ハチ公前ハチ公像の後ろに佇むしだれ桜は、ハチ公のふるさとである秋田県大館市から寄贈されたもの。 桜丘町の桜ビルとビルの間にそびえたつ桜並木のトンネルは、道行く人の目と心を楽しませてくれる。
宮下公園意外と知られていないのが、ここの桜。グラフィティアートと一緒にお花見できる、いかにも渋谷らしい場所。 『不連続殺人事件』代々木公園お花見スポットの定番中の定番といえばこちら。質量ともに満足させてくれるが、土日には相当混雑するので場所取りは必須。

そのほか、編集部イチオシのお花見スポットはこちら。

金王八幡宮渋谷という地名のゆかりもあり、区の指定天然記念物にもなっている「金王桜」で有名な金王八幡宮。事前に申し込めば、境内でお花見もできる。 松濤公園閑静な住宅街の中、湧水池の周りに佇む桜が堪能できる。華やかに騒ぐというよりは、じっくり眺めたい人向きの場所。
渋谷の考現学
渋谷の考現学

鈴木さんが「メガ・タウン『渋谷』をあらゆる側面から徹底的に考察・分析」する、渋谷の街を楽しく歩くときには持っていきたい一冊。

鈴木健司 著・坂井信彦 写真
2007年3月22日発売

NHK出版刊
定価1,260円

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