BUNKA X PERSON

■インタビュー・コラボレーションって、新しい価値観を生み出さないと意味がない
・元をたどっていくと、どうしても手塚さんのところへ行き着く
・モノ作りの醍醐味を知って、就職活動をしている場合じゃなくなった
・企画は、みんなが興味を持たないものを、興味を持つように加工すること

■プロフィール梅中伸介さん
1976年生まれ。青山学院大学在学中に、学外の学生サークル『創海』に参加。メンバーとともに、同世代の自殺問題に学生の視点で切り込んだルポルタージュ『遺書』を制作し、メディアでも多数紹介され、5万部の売り上げを記録する。その後、編集プロダクション「verb」を設立。若さと経験を生かし、「R25」(リクルート)、msnウェブマガジン、「MORE」(集英社)などでのコンテンツの企画・編集・制作活動を行っている。著作に、『遺書』(2000年/サンクチュアリ出版)『訴えてやるっ!たった一人の裁判奮戦記』(2007年/扶桑社)などがある。

11月3日(文化の日)で、生誕80周年を迎える故・手塚治虫さん。戦後ストーリーマンガの創始者であり、日本初のTVアニメシリーズの制作者であり、今なお愛される数多くのキャラクターを残した彼は、マンガにとどまらず、日本のカルチャー全般に多大な影響を与えてきました。渋谷パルコでは、手塚さんの誕生日をはさむ2008年10月24日から11月10日の期間、「手塚治虫の遺伝子 闇の中の光 展」が開催されています。本展覧会は、国内外で活躍する30組以上の若手アーティストが参加し、新たな表現方法を通して手塚治虫とのコラボレーション作品を発表するもの。今回、この展覧会を、編集・出版業界を目指す若者たちの「トキワ荘」的な存在とも言える、編集プロダクションverbを経営する梅中さんにご覧いただきました。梅中さんご自身の中にある手塚治虫さんの遺伝子や影響のほか、編集・ライターの道を選んだ経緯や今までの活動、そして渋谷との関わりについてじっくりとお話をうかがいました。

コラボレーションって、新しい価値観を生み出さないと意味がない

--とくに印象に残った作品について、お話ください。

エンライトメント×ブラック・ジャック
© Tezuka Productions / Enlightenment

「手塚治虫がどういう人だったのか?」ということを考えずにはいられないですよね。例えばこのエンライトメントさんの「ブラック・ジャック」の絵は、手塚さんが簡潔にデフォルメして描いたキャラクターとは対極に、写実的でした。リアルで、かつ、怪しい。確かにブラック・ジャックって医師免許も持っていないし、普通に考えたら裏社会の人というか…めちゃめちゃ怪しいと思うんですよね(笑)。ブラック・ジャックがリアルに居たとしたら、きっとこういう感じなのかなって思うと、面白かったです。それからten_do_tenさんの作品は、ドット絵で「鉄腕アトム」を描いていましたね。ドット、点の集まりで出来ているのが「アトム」(=原子)というところが面白かったですね。おそらくドット表現をブラック・ジャックやメルモちゃん、ジャングル大帝でやっても成立しないでしょうね。それに、ドット絵そのものが未来的というかデジタルな表現ですよね。アトムという未来のロボットが点だけで描かれている意味はとても大きいと思います。

--今回の展覧会全体の印象はいかがでしたか。

コラボレーションって、新しい価値観のものを生み出さなければ、あまり意味がないと思うんですよね。今回の展覧会は、手塚作品なしにはありえない展示であり、一方で手塚作品では絶対に見られない展示でもあったと思うんです。エンライトメントさんの作品も、ten_do_tenさんの作品も、あと、動物の凶暴性や本能を思い切り出した永戸鉄也さんの「ジャングル大帝」とか、手塚さんだったらオブラートに包んで表現するところを、それぞれのアーティストたちが意図を感じ取りながらストレートに表現しているところなど、ぶつかり合う中で生まれてきたものが伝わってきました。コラボレーションの面白さを感じましたね。

元をたどっていくと、どうしても手塚さんのところへ行き着く

--手塚作品との出会いについて聞かせて下さい。

ten_do_ten版の鉄腕アトムは、シンプルながらアトムだとすぐにわかるのが面白い。

僕は1976年生まれで32歳なんですが、思い出すのは、5歳か6歳の頃に、家にあった鉄腕アトムのカタログを見ていた記憶ですね。確か大判のやつでした。僕にとって最初のアニメ体験だったと思います。「手塚治虫」を意識して見るようになったのは、高校生や大学生の頃。僕はいわゆる『少年ジャンプ』世代で、「ドラゴンボール」とか「SLAM DUNK」とかを読んでたんですけど、マンガに興味を持ちだして良い作品を探していく中で、手塚作品に触れる機会も自然と増えました。別にマンガを語るわけじゃないんですけど、いわゆるマイナーな文化だったマンガをメーンな文化に持ち上げた人ですからね。アトムなどのロボット作品は、その後ガンダム、エヴァンゲリオンへと流れが出来ているし、ジャングル大帝はディズニー作品にも通じてますから。元を辿っていくと、どうしても手塚さんに行き着いちゃう、って気はしますよね。

--この展覧会を楽しむには、どうしたらいいでしょうか?

確か手塚さんが亡くなって1年後ぐらいだったかなぁ、東京国立近代美術館で回顧展があったんです。手塚さんの偉業を称えるっていう目的は同じでも、今回の企画展では単に手塚さんの作品を紹介するんじゃなく、若いアーティストが、手塚作品とコラボレーションするっていうアプローチをとっていますよね。手塚さんが遺したものを自分なりに消化して新たな作品にしてもらうことで、「手塚治虫」をどう見るのかという視点を探る展覧会だと思うんです。特に渋谷でそういう企画展をやることには意味がありますよね。例えば、観に来る人も普段は美術館とか行かないような若い方が多かったし。ひょっとしたら参加アーティストさんのファンというだけで、手塚さんを知らない人もいるかもしれない。でも、今回のような企画を通して、改めて手塚さんにも興味を持つきっかけになったらいいですね。名前とかキャラクターしか知らなくても、すごさって絶対伝わると思うんですよ。80年前に生まれた人が、今なおこんなに影響を与えていて、いま見てもすごい力を感じる。それに触れられるいい機会だと思いますね。会場はパルコ・ファクトリーだから、パルコに買い物に来たついでに上に昇って行けばいいだけですし、メルモちゃんのTシャツを、キティちゃんやミッキーと同じレベルでファッションとして身に着けてもいいと思います。そういう敷居の低いイベントだと思うので、皆さんも気軽に行ってみたらいいんじゃないですかね。

会場には、今回新たにデザインされたブックカバーが約100冊並ぶ。手にとってマンガを読む人の姿も。

■今回、梅中さんに鑑賞していただいた展覧会
「手塚治虫の遺伝子 闇の中の光」展

「手塚治虫の遺伝子 闇の中の光」展

© Tezuka Productions / Enlightenment

「手塚治虫の遺伝子 闇の中の光」展では、手塚治虫の生誕80周年を記念して、手塚作品をモチーフに、現在活躍中のアーティストやデザイナー35組がブックカバーやビデオインスタレーションなどを展示している。参加するのは、切り絵作家・福井利佐や、ペインター・MUSTONEなど。手塚作品が持つキャラクター、世界観、表現方法が、アーティストたちの手によって、新たな表現として蘇る。

開催期間:2008年10月24日(金)〜2008年11月10日(月)
開催場所:PARCO FACTORYLOGOS GALLERY

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