世界各地の映画祭を輝かせた作品群

現在、Bunkamuraなどで行われている東京国際映画祭は20年目という節目の年を迎えた。今やカンヌ・ヴェネツィア・ベルリンの三大映画祭を筆頭に、規模の大小を問わず世界各地で映画祭が催され、熱気とともに無数の作品がスクリーンに映し出されている。そこで、様々な映画祭で賞を受賞した作品、話題になった作品などの中から、現在渋谷で公開中のものをいくつか取り上げて紹介する。

ベルリン国際映画祭の少年映画部門でグランプリを受賞した『この道は母へとつづく』、同映画祭で芸術貢献賞が贈られた『グッド・シェパード』、同映画祭キンダーフィルムフェストで特別賞を受賞した『僕がいない場所 I Am / Jestem』は、それぞれ”家族””人間””心”といった万国共通の普遍的なテーマを扱った作品。話題性の高い映画としては、トロント国際映画祭で国際批評家賞を受賞した『大統領暗殺』、昨年の東京国際映画祭<日本映画・ある視点>部門で最優秀作品賞に選ばれた『ミリキタニの猫』、ベルリン国際映画祭で最優秀映画賞を受賞した『パラダイス・ナウ』など、政治的なメッセージが強いものが挙げられるだろう。今年のカンヌ国際映画祭でグランプリ(大賞)を受賞した河瀬直美監督の『殯(もがり)の森』の公開も記憶に新しいが、これらの作品は世界中の映画ファンやプロの視線から選ばれたもの。受賞に値するその確かな表現方法や審査員による受賞意図をこの機会に受け止めてみよう。

©2004 Filmofond Lenfilm Studio

タイトル:
この道は母へとつづく
上映場所:
Bunkamura ル・シネマ
上映期間:
2007年10月27日〜
監  督:
アンドレイ・クラフチュク
出  演:
コーリャ・スピリドノフ、マリア・クズネツォーワ、ダーリヤ・レスニコーワ、ユーリイ・イツコーフ、ニコライ・レウトフ
極寒のロシア。凍てつく辺境の土地に寂しく佇む孤児院で育てられる子供たちの希望は、裕福な外国人の養父母に引き取られていくこと。6歳の少年ワーニャは、幸運にもイタリア人夫婦に気に入られ、養子として院を出ていくことになる。しかしある日、すでに養子として引き取られていった友達の母親が孤児院に突然現れたことで、自分を産んでくれた母親の存在を意識し始める。「一度でいいから、ほんとうのママに会いたい──」。そして遂に孤児院を脱走、養子縁組で金儲けをする仲介業者の追跡を逃れ、独り列車に飛び乗る。ほんとうのママに会うために…。
【ベルリン国際映画祭・少年映画部門グランプリ(2005年)】

「本作は愛・自尊心・気高さの物語です。どんな状況であれ、自分の心と人の道に従って行動する限り、その人間は間違いなく勝者です。また、混迷する国の物語でもあります。主人公のワーニャのように、あれだけの偉業をやり遂げられる小さな英雄がいるなら、ロシアの前途有望な未来を望み、語ることができるでしょう。本作に潜む普遍的なテーマの数々が、ロシアのみならず、他国の観客の皆様にも理解されることを心から望んでやみません。」─アンドレイ・クラフチュク監督(コメント抜粋)

映画『この道は母へとつづく』』より

©2006 Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED

タイトル:
グッド・シェパード
上映場所:
渋東シネタワー
上映期間:
2007年10月20日〜
監  督:
ロバート・デ・ニーロ
出  演:
マット・デイモン、アンジェリーナ・ジョリー、アレック・ボールドウィン、ウィリアム・ハート、マイケル・ガンボン
ジョン・F・ケネディ暗殺の遠因とも言われているピッグス湾事件。その背景に潜む、ひとりのベテラン諜報員の家族の秘密。いまだに多くの謎を残す事件の真相を推理するサスペンスの醍醐味に満ちたドラマは、主人公エドワードの20数年におよぶ波瀾万丈の人生を、現代アメリカの裏面史と共に振り返る形で展開。CIAと自分自身の家族。ふたつの「ファミリー」の間で心を引き裂かれていくエドワードの苦悩を、壮大なスケールの格調高い人間ドラマとして描き、観る者に深い感慨を与える。
【ベルリン国際映画祭・芸術貢献賞(2007年)】

©2005 Dream Entertainment Inc. All Rights Reserved.

タイトル:
僕がいない場所 I Am / Jestem
上映場所:
シネマ・アンジェリカ
上映期間:
2007年10月13日〜
監  督:
ドロタ・ケンジェルザヴスカ
出  演:
ピョトル・ヤギェルスキ、アグニェシカ・ナゴジツカ、エディタ・ユゴフスカ、パヴェウ・ヴィルチャック
国立孤児院にわけあって預けられている少年クンデルは、将来、詩人になりたいと思う多感な子供だったが、先生から怒られ、他の子供たちとも仲良くしようとしなかった。そんな場所を嫌ったクンデルは、孤児院を抜け出し、母親がいる町に帰ることを決心する。だが、家に帰ってみると、母親は見知らぬ男とベッドで寝ていた。母親の愛を渇望しながらも、町の男たちと乱れた生活をしている母親の姿に嫌悪したクンデルは、一人で生きて行く決意をして、町はずれの川べりに打ち捨てられた艀舟に住みつく。
【ベルリン国際映画祭・キンダーフィルムフェスト特別賞(2006年)】
タイトル:
大統領暗殺
上映場所:
シネ・アミューズ・イースト&ウエスト
上映期間:
2007年10月20日〜11月2日
監  督:
ガブリエル・レンジ
出  演:
ジョージ・W・ブッシュ、ヘンド・アヨウブ、ブライアン・ボーランド、ベッキー・アン・ベイカー
なぜブッシュ大統領は暗殺されたのか。これはアメリカの悪夢なのか、それとも潜在的にアメリカが持っている欲望の実現なのか。野心的な問題提起と斬新なエンタテインメント性を共存させる稀有な作品『大統領暗殺』から見えてくる、アメリカ、さらには私たちが生きる世界の現在と未来とは?
【トロント国際映画祭・国際批評家賞(2006年)】

©lucid dreaming inc.

タイトル:
ミリキタニの猫
上映場所:
ユーロスペース
上映期間:
2007年9月8日〜11月9日
監  督:
リンダ・ハッテンドーフ
出  演:
ジミー・ミリキタニ、リンダ・ハッテンドーフ、ロジャー・シモムラ、ジャニス・ミリキタニ

2001年9月11日、世界貿易センターが瓦解する緊張状態のニューヨークの路上。騒然として周囲をよそに、いつもと同じように平然と絵筆を動かしている男がいた。彼の名はジミー・ミリキタニ、80歳。カリフォルニアで生まれたが、第二次世界大戦中、日系人強制収容所に送られ、アメリカに抵抗して自ら市民権を捨てた。その時から彼の反骨の人生が始まった。彼の80年間には何があったのか…、そして彼の描く猫の絵に込められているものとは…。
【東京国際映画祭<日本映画・ある視点>部門・最優秀作品賞(2006年)/トライベッカ映画祭・観客賞(2006年)ほか】

「国境を越えて数奇な運命を生きた日系人路上画家、ジミー・ミリキタニ。本作は、ジミーと彼の描く絵に魅せられたフィルムメーカー・リンダとの偶然の出会いから生まれた、奇跡のようなドキュメンタリーです。リンダ監督の尽力により、戦争への怒りに満ちたジミーさんのこころは解きほぐされていきます。フィルムに綴られたたくさんの奇跡、その目撃者になるべくぜひ劇場へいらして下さい。」(アステア/天野さん)

映画『ミリキタニの猫』より

タイトル:
パラダイス・ナウ
上映場所:
UPLINK X
上映期間:
2007年9月29日〜
監  督:
ハニ・アブ・アサド
出  演:
カイス・ナシフ、アリ・スリマン、ルブナ・アザバル
イスラエル占領地のヨルダン川西岸地区の町ナブルス。貧困で人々は苦しみ、時折ロケット爆弾が飛んでくる。幼馴染みのサイードとハーレドは自動車修理工として働いているものの、そこには未来も希望もなく、貧しい家族の生活を助けるためにできることは何もない。閉塞感とフラストレーションと絶望がないまぜになった、どん底の生活。占領下に生まれ、占領下で暮らしている。ある日、サイードは自爆志願者をつのるパレスチナ人組織の交渉代表者ジャマルに、「君とハーレドはテルアビブで自爆攻撃を遂行することになる」と告げられる…。
【ベルリン国際映画祭・観客賞ほか(2005年)】

「現地でごく当たり前の日常となってる自爆攻撃の是非を問う前に、僕らは真実をはっきりと認識しなけば。この映画に参加できたことを誇りに思う。」(ARATA)
「等身大の『パレスチナ』の現実がある。今はまだ「日本」の空に爆弾は降っていないが…、文化が違えども願う幸せは同じだ。」(窪塚洋介)
※二人ともDVD版日本語吹替えを担当・オフィシャルサイトより

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