北アイルランド─映画で知る歴史と文化

ユーロスペースでは2月9日より、北アイルランドの映画を集めた『N. アイルランド・フィルム・フェスティバル 2008』を上映する。同映画祭で上映される作品には日本で未公開の作品が多く、同国の作品を集めた映画祭は日本初となる。北アイルランドと言えば、イギリスやアイルランドとの間で続く紛争やテロに注目が集まりがちだが、演劇や文学、そして映画の分野にも誇り高い伝統と文化を育んできた。まとめて見られる機会の少ない北アイルランドの映画には、その重い歴史や悲惨な事件も色濃く反映されているが、重厚さの中にも独特のユーモアや逞しい精神性が感じられるものも多い。

これまでにもユーロスペースでは、『アイスランド映画祭』『メキシコ・ドキュメンタリー映画祭』『キューバ映画祭2006』『ファンタスティック!チェコアニメ映画祭』『ハンガリアン・フォークテイルズ』など、一つの国の特集上映を通じて、その国が持つ固有の歴史や文化をユニークな切り口で紹介してきた。下に並ぶスチール写真からも、北アイルランドの日常の一端が垣間見られるが、映画を観れば景色だけでなくその国で流れている音楽も話されている言葉も伝わる。こういった特集上映からその国の歴史や文化の意外な側面を知り、そこに暮らす多様な人々の息吹を感じる意義は大きい。

「N. アイルランド・フィルム・フェスティバル 2008」より『キングス』

タイトル:
N. アイルランド・フィルム・フェスティバル 2008
開催場所:
ユーロスペース
開催期間:
2008年2月9日〜2008年2月15日
上映作品:
下記参照

日本未公開作品を中心に北アイルランドと映画を満喫する映画祭。北アイルランドがこれまで歩んできた歴史、育んできた文化、いま現在、そしてこれからの展望など、既存のイメージにだけに捕われない北アイルランドの新たな表現を紹介する。

「日本初の北アイルランド映画祭。北アイルランドに映画なんてあるの? そもそも面白いの?と思われた方にこそぜひ見てほしい。北アイルランドが騒がれたのはIRAの爆弾テロや“紛争”のニュース。そこで人がどう生きているのか? 生きていくのか? 暴力や分断の経験をふまえながらも、リアリズム追求への情熱、忘れることはないユーモア、様々なスタイル、実力派の俳優たち、重厚なストーリーラインから広がる北アイルランド映画にのめりこむこと間違いなしです。16作品中13本はまったくの日本初上映。1週間という短い期間ですが、お見逃しなく!」(「N. アイルランド・フィルム・フェスティバル2008」広報/浅川さん)

【上映作品】
『シェルショック・ロック』 Shellshock Rock (1979年/監督:ジョン・T・デイヴィス)
『7月、ある4日間』 4 Days in July (1984年/監督:マイク・リー)
『おやすみ、ベイビー』 Hush-a-Bye Baby (1990年/監督:マーゴ・ハーキン)
『12月の花嫁』 December Bride (1990年/監督:サディアス・オサリバン)
『銃弾の詩行』 Lines of Fire (2000年/監督:ブレンダン・J・バーン)
『ハリーに夢中』 Wild about Harry (2000年/監督:デクラン・ラウニー)
『眠れる野獣』 As the Beast Sleeps (2002/監督:ハリー・ブラッドビア)
『9人のゲイ、殺される』 9 Dead Guy Gays (2002年/監督:ラブ・カイ・モー)
『オマー』 Omagh (2004年/監督:ピート・トラヴィス)
『デリー・ダイアリー ブラディーサンデーのその後』 Bloody Sunday─A Derry Diary (2007年/監督:マーゴ・ハーキン)
『キングス』 Kings (2007年/監督:トム・コリンズ)
その他、短編作品なども上映予定。

「N. アイルランド・フィルム・フェスティバル 2008」より『キングス』
川魚が無限の可能性を秘める海に飛び込むように、70年代、アイルランドの西部コネマラを出た若い6人の親友らは、多くのアイルランド人移民と同じように、夢と希望を抱いて、いつか成功して帰ってこようと、ロンドンへ向かった。あることをきっかけに再び出会った仲間たち。彼らが話すアイルランド語がロンドンの大都会にこだまし、大切な共通の思い出がフラッシュバックする。アイルランド・イギリスを代表する錚々たる俳優人たちが競演。
「N. アイルランド・フィルム・フェスティバル 2008」より『デリー・ダイアリー ブラディーサンデーのその後』
時は解決しない。1500人が市民権を訴えたプロテスト・マーチ、1972年のブラディ・サンデーに学生だったマーゴ・ハーキン監督はいた。イギリス軍の発砲により13人が命を奪われ、そこにいた人々は心に期限なしの傷を負った。元兵士らの生の声とも対面し、当時を背負って今を生きる人々の声を集め、その記憶の道を一緒にたどる。真相を求め続ける遺族らの表情を丹念に描く胸に迫るパーソナル・ジャーニー。
「N. アイルランド・フィルム・フェスティバル 2008」より『ハリーに夢中』
料理トークショー番組のホスト =セレブシェフのハリーはみんなの人気者。しかし実生活は酒漬けと女グセの悪さから家族に三行半をつきつけられていた。離婚裁判前日、ハリーは暴漢に襲われ瀕死の重体に。奇跡的に回復して目覚めた時、彼には 18歳以前の記憶しかなかった。純真無垢なハート、妻へのフレッシュな愛を取り戻したハリーにとって人生は光り輝き、希望に満ちている……ように見えた。18歳の中年が愛奪還に奮闘! 涙なしには見れないロマンティック・コメディー。
「N. アイルランド・フィルム・フェスティバル 2008」より『オマー』
北アイルランドにとって歴史的な和平進展となったグッド・フライデー合意後、 1998年8月15日、「真のIRA」により仕掛けられた爆弾により29人が殺された。突然息子を奪われたマイケルは他の犠牲者の家族たちと共にサポート・グループを立ち上げ、独自に犯人と真実を追い始める。次第に巻き込まれていく深い政治の闇とメディアの騒乱。そしてバラバラになりかけた家族の再生の物語を力強いドキュメンタリー・タッチで克明に描く。
「N. アイルランド・フィルム・フェスティバル 2008」より『9人のゲイ、殺される』
ベルファストから親友のバイロンを頼って「前向きに職を求めて」ロンドンにやってきたケニー。ひとまずまっとうな仕事 =ブロウ・ジョブということで、裏通りや隠れ部屋をクルーズ。しかし2人の前でバタバタと増えていくゲイの死体。死因の謎と大金のありかを握る 9センチの“ウィリー”を求め、年配の紳士、正統派ユダヤ教徒、小人……ヘンなゲイいっぱいワールドに立ち向かう。挑発的でユーモア溢れる悪ガキな世界にようこそ !

「N. アイルランド・フィルム・フェスティバル 2008」より『12月の花嫁』

「N. アイルランド・フィルム・フェスティバル 2008」より『おやすみ、ベイビー』

「N. アイルランド・フィルム・フェスティバル 2008」より『銃弾の詩行』

「N. アイルランド・フィルム・フェスティバル 2008」より『シェルショック・ロック』

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