レコメンド 今週、編集室が推薦するカルチャー

想像力が生命力となる時

現在、アミューズCQNにて上映中の『潜水服は蝶の夢を見る』は、実在したフランス版ELLE誌の名編集長ジャン=ドミニク・ボビー原作の映画版。ボビーは、脳梗塞で倒れ、ロックト・インシンドローム(意識は元のままなのに、身体的自由だけ奪われた状態)で闘病中に、2万回の瞬きだけで本作品を書き上げた。この映画では、不自由な体を「潜水服」になぞらえて、記憶と想像の世界に「蝶」のように自由に羽ばたいていくボビーの様子が、丁寧かつ斬新な映像で描かれていく。

また、シネマライズでは、『非現実の王国で ヘンリー・ダーガーの謎』が公開中である。親類も友人もなく、アパートの一室で一人黙々と15,000ページを超える小説の原稿と数百枚の挿絵を書きしたためたヘンリー・ダーガー。残された小説に刻まれた圧倒的なファンタジーとは対照的に、その生涯は謎に包まれており、本作は、ダーガーの残した挿絵を使ったアニメーションを交え、おぼろげなダーガーの実像を探る。

体は一切動かなくとも、華やかに豪奢に皮肉っぽくあろうとしたボビーと、誰にも知られずに、貧乏でひっそりと生涯を閉じたヘンリー・ダーガー。局地的な状況に追い込まれた2人を、それでも粘り強く「生き続けること」へと駆り立てたエネルギーとは何か。 そう考えたとき、きっと僕らは「想像力」と呼ばれるものの底力を、見せつけられるに違いない。

潤・oathe Renn Production-France 3

タイトル:
潜水服は蝶の夢を見る
上映場所:
アミューズCQN(3/29〜4/11)、シネ・アミューズ・イースト&ウエスト(4/12〜4/18)
上映期間:
アミューズCQN:10:30/13:05/15:40/18:45、シネ・アミューズ・イースト&ウエスト:11:15/13:45/16:15/19:00
監  督:
ジュリアン・シュナーベル
出  演:
マチュー・アマルリック、エマニュエル・セニエ、マリ=ジョゼ・クローズ、アンヌ・コンシニ、マリナ・ハンズ、マックス・フォン・シドー

『夜になるまえに』『バスキア』ジュリアン・シュナーベル監督最新作
20万回の瞬きで自伝を綴った驚異の実話を完全映画化!
溢れる色彩と映像美で描く、きらめく愛の感動作 僕は生きている。

話せず、身体も動かないが、確実に生きている。突然脳梗塞で倒れ、身体の自由を失った主人公が、左眼まぶたの瞬きだけで綴ったベストセラー自伝「潜水服は蝶の夢を見る」をジュリアン・シュナーベル監督(『夜になるまえに』『バスキア』)が溢れる色彩と映像美で完全映画化。2007年のカンヌ国際映画祭で見事に監督賞、高等技術賞を受賞。世界中で感動を呼び起こした奇跡の実話。

「潜水服は蝶の夢を見る」より

©Diorama Films LLC. All rights reserved

タイトル:
非現実の王国で ヘンリー・ターガーの謎
上映場所:
シネマライズ(3/29〜4/18)、ライズエックス (4/19〜)
上映期間:
シネマライズ:11:15/13:15/15:15/17:15/19:15、ライズエックス:詳細は劇場まで
監  督:
ジェシカ・ユー
ナレーション:
ラリー・パイン、ダコタ・ファニング

親類も友人もなく、雑役夫として働いた病院と教会のミサを行き来するだけの貧しい生活を送った孤高のアウトサイダーアーティスト、ヘンリー・ダーガー。身寄りもないまま1973年にシカゴでひっそりと息を引き取った後、40年間を孤独に暮らしたアパートの部屋から「非現実の王国で」と題した15,000 ページを超える小説の原稿と数百枚の挿絵が発見された。孤独の中にたてこもり、妄想を綴り、生涯をかけて描いた作品は、死後、急速に評価を得て、今、もっとも注目を浴びる話題のアーティストでありながら、その生涯はべールに包まれている。

ダーガー自身の写真は、知られているだけで3点しかなく、もちろんホームビデオもなければ、生前の彼を知る人間もほとんどいなかった。そもそも、彼の名字が「ダーガー」であるのか「ダージャー」と発音されるべきなのか、それすら定かではない。1997年にはアカデミー賞も受賞したことのある監督ジェシカ・ユーは、長期にわたる入念なリサーチをもとに、大家であったキヨコ・ラーナー、アパートの住人、教会の合唱団の男の子ら、実際にダーガー本人を知っていた人たちによる証言を入れ込み、自伝を引用しながら伝説化するダーガーの生涯と創作の秘密を丹念に炙り出す異色のドキュメンタリーを完成させた。


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