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近年、日本映画界でも往年の名作のリメイクが盛んである。ひと言に「リメイク」と言えども、個々にスポットを当ててみると、市川崑が自身の旧作を再映画化して話題になった『犬神家の一族』(2006)、原作では威圧的だった三十郎に協調性をプラスした森田芳光版『椿三十郎』(2007)など、その「リメイク」方法は、作品ごとに実に多様。「歴史に残る名作をどのように現在に蘇らせるのか」というのは大変な難問だが、それぞれの作品に監督たちの産みの苦しみを垣間見られるのは、リメイクならではの楽しみの一つといえる。

渋東シネタワーでは、5月10日より、『隠し砦の三悪人 THE LAST PRINCESS』が上映中だ。こちらの原作は、日本映画界の巨匠・黒澤明監督による『隠し砦の三悪人』(1958)。同作は、ルーカス監督の『スターウォーズ』にも強く影響を与えていると言われ、主人公の侍大将に巻き込まれる農民は『スターウォーズ』のC−3POとR2−D2のモデルとなったともされている。その農民の設定を「山の民」と変更し、内の1人を主人公に据えたのが、今回の『隠し砦の三悪人 THE LAST PRINCESS』である。本作にはCGによる特殊効果も駆使されいるので、『スター・ウォーズ』と比べて観るのもおもしろい。

また、5月24日からは、アミューズCQNにて『山のあなた〜徳市の恋〜』が公開を控えている。原作『按摩と女』を監督した清水宏は、日本で初めて全編のロケ撮影を敢行したといわれる、日本リアリズム映画の幻の名監督だ。『按摩と女』でも、思いつきのセリフ回しや瞬間的な自然の情景をじっくりと味わうことができる。今回の『山のあなた〜徳市の恋〜』では、その清水作品の忠実な再現が目指されているという。偶然性に美を見出すリアリズムを、作り込んで再現するという逆説的な試みには、石井監督ならではのウイットに満ちているといえるだろう。

原作をもう一度作り直す「リメイク」という試み。本作と原作との関係は様々であるが、両方を見てみることで、より重層的に作品そのものを楽しむことができるのは間違いない。幸いにも渋谷には、ソフトも品揃えも日本最大規模のレンタルビデオショップ「TSUTAYA」も存在している。ちなみに、どちらの原作も取り扱い中なことは確認済みだ。

©2008『隠し砦の三悪人』製作委員会

タイトル:
隠し砦の三悪人
開催場所:
渋東シネタワー
開催期間:
2008年5月10日〜
9:50/12:30/15:10/17:50/20:30
監  督:
樋口真嗣
出  演:
松本潤 長澤まさみ 椎名桔平 宮川大輔 國村隼 阿部寛

1958年、黒澤明は、全くのオリジナル映画『隠し砦の三悪人』を創り上げ、その語り口とダイナミックなスピード感は“エンタテインメント映画の傑作”と評価され、数々の映像作家に様々な影響を与えた。
1978年、『隠し砦の三悪人』を見て感銘を受けたジョージ・ルーカスは、『STAR WARS』という世紀の傑作を作り上げ、世界中のクリエイターに多大な影響を与えた。
2008年5月『隠し砦の三悪人 THE LAST PRINCESS』公開……『STAR WARS』公開から30年。『隠し砦の三悪人』公開から半世紀。 日本が世界に誇るクリエイターが集結し、エンタテインメント映画の金字塔を21世紀の今に甦らせる。

©2008『隠し砦の三悪人』製作委員会

©2008 フジテレビジョン・J-dream・東北新社・東宝

タイトル:
山のあなた〜徳市の恋〜
開催場所:
アミューズCQN
開催期間:

2008年5月24日〜
10:00/12:15/14:30/16:45/19:00

監  督:
石井克人
出  演:
草なぎ剛 加瀬亮 マイコ 堤真一 広田亮平 三浦友和

石井克人監督は、『茶の味』を観た盟友・長尾監督に薦められて名匠・清水宏作品と出会う。清水作品に『茶の味』で目指した演出法との接点を見つけた石井監督は、特に印象的だった「按摩と女」をカラー&現代の高音質で観たいと、自ら完全カヴァー作品を作ることに。 脚本も絵コンテもほぼ忠実で、石井監督は、自分の主観を入れるのではなく、清水作品で足りなかったディテールを埋めて原点の完成度を高める作業なので、リメイクと言うよりカヴァーだと断言する。

©2008 フジテレビジョン・J-dream・東北新社・東宝

「隠し砦の三悪人<普及版>」DVD発売中
¥3,990(税込) 発売・販売元:東宝

タイトル:
隠し砦の三悪人(1958)

1958/日本/139分/配給:東宝

監  督:
黒澤明
出  演:
三船敏郎 上原美佐 千秋実 藤原釜足 藤田進

戦国時代を舞台にした、娯楽活劇。作中では、登場人物たちが脱出不可能な状況に追い込まれ、次々とやってくるピンチをなんとか切り抜けるという、手に汗握る状況が続く。本作がデビュー作であった上原美佐は、素人臭さをそのままに、ぶっきらぼうで男勝りな雪姫を演じ、圧倒的な存在感を見せつけている。この雪姫のキャラクターが、後に『スター・ウォーズ』のレイア姫に反映されているのは有名。また、終盤の三船敏郎と藤田進による殺陣は、圧倒的な迫力で今に語り継がれている。

「按摩と女」DVD発売中
¥3,990(税込) 発売・販売元 松竹(株)映像商品部

タイトル:
按摩と女(1938)

1938/日本/66分/配給:松竹

監  督:
清水宏
出  演:
高峰三枝子 徳大寺伸 日守新一 爆弾小僧 佐分利信

徳市と福市は盲目の按摩師で、一年を通し、温泉街の各地を巡りながら按摩をして生活している。本作の舞台は、初夏のとある温泉地。映画の中では、徳市と子どもが川で水浴びをするシーンや、夕立に傘をさすシーン、見えない蚊にイライラするシーンなど、暑い夏が徐々に近づいてくる時期の日常が丁寧に描写されている。1人の女が温泉街にやって来て去っていくまでの数日間の出来事を示す一時間強の本編だが、盲目の徳市・東京の女・暇を持て余す子どもと、それぞれの立場を風景のように切り取って伝えてくれる視点は、さりげなく、心地がいい。


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