レコメンド 今週、編集室が推薦するカルチャー

いよいよ夏が迫っている。現在渋谷でも「インモラル 凍える死体」「DIVE!! ダイブ」など、季節を感じさせる映画が相次いで公開されている。今回は、その中でも特に多くの上映作がみられる「サーフ映画」の魅力について考えてみたい。

サーフィン映画を楽しむためのポイントは、大きく分けて4つあると思う。

まず、(どのスポーツ映画でもいえることだが)出演者のテクニックだ。出演者の波乗りシーンがロングショットだったり、波乗りシーンそのものが短すぎたりしたら、サーフィン映画としては迫力に欠けるものとなるだろう。しかし、大きな波に乗ってのアクションは、一朝一夕で習得できる技術ではない。だからこそ、サーフ映画には、プロのサーファーが出演者として登場する映画も多い。これが1つ目の見所。

次の見所は、波。波の見せる表情は、地形や時間帯によって、本当に様々。今回あげた作品だけでも、アメリカ・オーストラリア・アジアの小島といった各地の地形や海流によって、波は多彩な様相を呈する。ポイントによって波の質感は全く違うので、それを見分ける鑑賞もおもしろい。

そして、撮影スタッフや監督たちにも注目だ。サーフ映画のスタッフは、映画畑の人が担当していない、という場合もよくあること。彼らは、サーフビデオの撮影担当だったり、実際に自分自身がサーファーだったり。大きな波が間近で写し取られた映像からは、サーファーと同じだけの危険が撮影隊にもつきまとっている、ということが読み取れる。サーフィンが好きだから、かっこいいから、それを映像に残したいだけ、そんなシンプルな情熱は、観るものの胸に響いてくる。

最後に、音楽。撮影が行われた地元の音楽が使われたり、名曲のタイトルをそのまま映画のタイトルにしたり、サーフ映画と音楽の関わりは実はとても深い。サーフィンでは、天気や地形、潮流といった、人為ではコントロール不能な要素に、ある時は立ち向かい、ある時はゆったりと身を任せる。波という自然の営みがあって初めて可能になるサーフィンは、ひとつの生き様であり、自然と共存するためのカルチャーだと教えてくれるのが、映画の随所で流れてくる音楽である。

サーフィンのプロが多く関わるサーフ映画の中には、逆に言えば、映画として技術的につたない部分がある作品も多い。それが鼻について、「サーフ映画」というジャンルになじめない映画好きも、実は多いのではないかと思う。ただ、それでも、サーフ映画のスタッフたちは、すごいシーンを、すごい波を求めて旅立つ。「撮りたい」「記録したい」というそのピュアな衝動こそ、僕は「映画」らしさそのものだと思うのだ。

2007年/アメリカ/96分/配給:クロックワークス/©2007 One California Day, LLC, All rights reserved.

タイトル:
ワン カリフォルニアデイ
上映場所:
渋谷シネクイント
上映期間:
2008年6月21日〜
監  督:
ジェイソン・バッファ、マーク・ジェレミアス
出  演:
ジョー&トム・カレン、ランス・カーソン、スキップ・フライ、ジミー・カンボ ジア、タイラー・ハジーキアン、デヴォン・ハワード、アレックス・ノスト

サーフィン映画『singlefin: yellow』で高い評価を得たバッファと、TV制作を中心に活躍してきたジェレミアスの共同監督によるドキュメンタリー。様々な年代のサーファーたちがカリフォルニアで過ごす日常を描くことで、カリフォルニアという土地を巡る人々のライフサイクルを描き出している。グレッグ・ノール、ランス・カーソン、スキップ・フライといった旧世代の伝説のサーファーたちも登場。カリフォルニアにこだわり、音楽はUSインディー・ロックを中心に構成されている。

©2007 One California Day, LLC, All rights reserved.

©2007 Film Finance Corporation Australia Limited, 3DAP Japan LLC, Shadowfire Entertainment Pty Limited, Jour de Fete LLC and Newcastle Pictures Pty Limited

タイトル:
ブルー・ブルー・ブルー
上映場所:
シネセゾン渋谷
上映期間:
2008年6月7日〜2008年7月18日
監  督:
リチャード・ミカラク
出  演:
ラクラン・ブキャナン、バビエル・サミュエル、カーク・ジェンキンスほか

本作のロケ地は、オーストラリアのニューカッスル。広い水平線と、その奥に立ちはだかる大型タンカーが、本作に登場する若者たちの置かれた立場に重なっている。アンディを演じたカーク・ジェンキンスは、プロのサーファーで今回が映画初出演。 撮影監督は、サーフィン・ブランドの老舗のビデオ作品を手がけたティム・ボニーソンだ。音楽はオーストラリアの若手作曲家マイケル・イェツェルスキーが手がけ、ティーンの模索する心を切なく盛り上げる。

『ブルー・ブルー・ブルー』撮影現場より。ミュージシャンとしても参加したイスラエル・カナン(写真左)

画像:『Down The Barrel』(2007年/93分/アメリカ/配給:レイドバックコーポレーション)より

タイトル:
「Band on the Run」
5th SURF FILM FESTIVALより
上映場所:
Q?AXシネマ
上映期間:
2008年6月21日〜2008年6月27日
監  督:
ハリー・ホッジ
出  演:
ウェイン・“ラビット”・バーソロミュー、ポール・ニールセン、ブルース・レイモンド、ブライアン・クリーガン

現在、本作の監督のハリー・ホッジは、クイックシルバー・ヨーロッパのCEO、主演のウェイン“ラビット”バーソロミューがASP(Association of Surfing Professionals)の代表と、サーファーによって制作されたサーフ映画。さらに本作は、サーフィン映画としてはじめてカンヌ映画祭に出品され、多くの共感と支持を得たことでも知られている。サーフトリップの様子を描いた本編では、オーストラリア、アフリカ、フランス、カリフォルニア、ハワイの海岸の情景が楽しめる。主題歌はポールマッカートニー&ウィングスの同タイトル「Band on the Run」。

●「5th SURF FILM FESTIVAL2008」によせて
「オススメは「DOWN THEBARREL」!王者ケリー・スレーターを中心に、トップサーファーの大会前の姿や兄弟との関係など、普段は決して見られない姿を映し出す。海外超人気スポーツ番組の映画版「Ra-X boarders-」、ポールマッカートニーの音楽が心地よい80年代の名作「Band on the Run」も見逃せない!」(サーフフィルムフェスティバル実行委員会 永野さん)

『Band on the Run』1982年/オーストラリア/83分/配給:レイドバックコーポレーション

●もっと海の魅力を感じたい方へ
サーフィン映画ではないけれど、同じように海に魅せられた人物によるドキュメンタリー「シャークウォーター 神秘なる海の世界」が、6月28日よりQ-AXシネマにて公開を控えている。8歳のときにフリーダイビングを体験し、13歳から水中撮影を始めたという監督ロブ・スチュワートが、4年以上もかけて、15カ国以上を旅し、完成した本作。怖いイメージが先行してきた‘サメ’の、穏やかな魅力を存分に伝えている。

2006年/カナダ/89分/配給:グラッシィ/©2006 SHARKWATER PRODUCTIONS INC.

タイトル:
シャークウォーター 神秘なる海の世界
上映場所:
Q-AXシネマ
上映期間:
2008年6月28日〜
監  督:
ロブ・スチュワート

パームスプリングス国際映画祭最優秀作品賞、アトランティック国際映画祭観客賞など多数獲得、各国の映画祭を席巻した海洋ドキュメンタリーの誕生
『シャークウォーター 神秘なる海の世界』はサメが棲む世界各地の海域を、驚くほど美しい映像でとらえることに成功した海洋ドキュメンタリーである。 長い間、サメは我々人間に恐怖と不安をかきたててきた。ありとあらゆるメディアが、サメ=見境なく人を殺す怪物というイメージを植え付けたのだ。「実際は、サメのほうが人間を恐れている」監督のロブ・スチュワートは語った。そのことを証明するため、彼は4年以上の年月と何百時間にも及ぶ映像を作り、この映画を生み出した。


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