レコメンド 今週、編集室が推薦するカルチャー

6月21日(土)〜8月17日(日)まで、Bunkamura ザ・ミュージアムにて「青春のロシア・アヴァンギャルド シャガールからマレーヴィチまで」が開催中である。本展は、1910年代のロシアで、社会主義革命運動と連動して起こった総合芸術運動「ロシア・アヴァンギャルド」を、モスクワ市近代美術館の所蔵作品から並べ上げた展覧会。20世紀ロシア美術が、西洋の影響に直面しつつ、独自の前衛芸術をラディカルに発展させていった流れを、70点の作品群によって知ることができる。

さて、そんなロシア・アヴァンギャルドの流れにちゃっかりと便乗して展示されているのが、モスクワ市近代美術館の館長さんが好んで収集したというグルジアの画家ニコ・ピロスマニの作品10点だ。グルジアを漂流しながら絵を描き、その日暮らしを続けた彼の作品は、西洋的な影響や、他の作家の傾向からは一線を介し、「純粋に描きたいものを描く」素朴な味わいに満ちている。彼が特に好んで描いたと言われる動物たちの作品群を見ると、白く光る毛並みや、力強い大きな瞳など、動物を孤高の存在として敬意を持って描いた様子が感じ取られる。ロシア・アヴァンギャルドという、絵画の様式を体系化するようなラディカルな運動の中にあって、彼の作品の、素朴さー「絵を描くこと」への熱?に足下を救われる思いがするのは、僕だけではないだろう。

7月13日(日)〜19日(土)まで、アップリンク・ファクトリーでは、日本のアウトサイダーアートの作家たちを記録したドキュメンタリー5作品が上映される。アウトサイダーアートとは、「美術教育を受けない人たちが、既成の芸術や傾向にとらわれず、自然に作り上げた絵画・造形」をさしている。そこから、それを知的障がい者のアートとみて差別的だと呼びかける意見もあり、「エイブルアート」と呼び変えて、社会につながりを持つための手がかりとして支援しようとする動きもでている。しかし、「アウトサイダーアート」であろうと、「エイブルアート」であろうと、もしくは「アート」ですらあろうとなかろうと、作家たちは、いつでもそういった論争の外側で、ただ黙々と手を動かし、膨大な作品を積み上げていく。純粋な自我の欲求に突き動かされて。

ライズエックスでは、8月8日まで、「非現実の王国で ヘンリー・ダーガーの謎」がロングラン上映中だ。ヘンリー・ダーガーは、誰に見せる訳でもなく、半世紀以上に渡って自分の妄想世界を物語と絵に描き綴った氏。死後、膨大な量の作品群が発見されて、現在ではアウトサイダー・アートの代表的な作家の一人として「評価」されている。

「美術とは何だろう?」「表現とは何だろう?」「そんなカテゴライズにこだわっている、自分自身とは何だろう?」…彼らの作品を観て、昨日まで確かだった自分にとっての「当たり前」が、グラリと揺さぶられることは間違いない。それに立ち向かう勇気が、はたして僕にあるだろうか?

カジミール・マレーヴィチ
《農婦、スーパーナチュラリズム》
1920年代初頭 油彩、キャンヴァス
©texts, photos, The Moscow Museum of Modern Art, 2008, Moscow

タイトル:
『青春のロシア・アヴァンギャルド シャガールからマレーヴィチまで』より
「見出された画家ピロスマニ」
開催場所:
Bunkamura ザ・ミュージアム
開催期間:
2008年6月21日〜2008年8月17日
日〜木曜日10:00−19:00(入館は18:30まで
金・土曜日10:00ー21:00(入館は20:30まで)
開催期間中無休

ニコ・ピロスマニとは、現在ではグルジアの国民的画家であり、彼の肖像画はグルジアの紙幣にも使用されている。また、加藤登紀子の歌った「百万本のバラ」にある貧しい画家は、彼をモデルとしたと言われている。彼の名を冠したグルジアワイン「ピロスマニ」も有名。彼の作品はワインラベルにも用いられ、現在でも人々から敬愛されています。

ニコ・ピロスマニ ≪小熊を連れた母白熊≫  1910年代 油彩、厚紙
©texts, photos, The Moscow Museum of Modern Art, 2008,Moscow

画像: 『人のカタチ』(2008年/59分)出演の、玉井ケントさんによるアルミホイルの作品

タイトル:
日本のアウトサイダーアート・特集上映
上映場所:
UPLINK FACTORY
上映期間:
2008年7月13日〜2008年7月19日
18:30/21:00
監  督:
代島治彦 
出  演:
『人のカタチ』小幡正雄, 久保田洋子, 玉井ケント
『文字という快楽』富塚純光, 喜舎場盛也, 戸來貴規
『都市の夢』辻勇二, 本岡秀則
『想像の王国』上田志保, 澤田真一, 西川智之
『不思議のカタチ』木村茜, 舛次崇, 西村真智子, 畑名祐孝, M・K

2008年5月24日(土)〜7月20日(日)まで、『アート・ブリュット/交差する魂』と題して、松下電工汐留ミュージアムで日本初の規模でアウトサイダーアートの展覧会が開催中。タイミングを同じくして、アップリンク・ファクトリーでは、日本のアウトサイダーアートの作家たち16人の製作の風景に未着したドキュメンタリー、5作品を一挙特集し、様々なジャンルのゲストを呼んで、クロス・トークを開催する。各日の上映作品、トークショーの出演者の詳細は、作品紹介ページをご参照ください。

澤田真一 <無題> 2006〜2007年  NPO法人 はれたりくもったり 蔵

2004年/アメリカ/82分/配給:トルネード・フィルム/©Diorama Films LLC. All

タイトル:
非現実の王国で ヘンリー・ダーガーの謎
上映場所:
ライズエックス
上映期間:
2008年4月19日〜2008年8月8日
〜7/18(金) 10:50/21:30
〜8/8(金) 11:30/14:50/18:10
監  督:
ジェシカ・ユー
ナレーション:
ラリー・パイン、ダコタ・ファニング

親類も友人もなく、雑役夫として働いた病院と教会のミサを行き来するだけの貧しい生活を送った孤高のアウトサイダーアーティスト、ヘンリー・ダーガー。身寄りもないまま1973年にシカゴでひっそりと息を引き取った後、40年間を孤独に暮らしたアパートの部屋から「非現実の王国で」と題した15,000 ページを超える小説の原稿と数百枚の挿絵が発見された。孤独の中にたてこもり、妄想を綴り、生涯をかけて描いた作品は、死後、急速に評価を得て、今、もっとも注目を浴びる話題のアーティストでありながら、その生涯はべールに包まれている。


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