レコメンド 今週、編集室が推薦するカルチャー

1977年から続く自主映画の祭典『ぴあフィルムフェスティバル(以下、PFF)』が、今年で30回目を迎える。PFFは、「ぴあ」が主体となって「今はまったく無名だけど、もしかしたら将来もの凄い巨匠になるかもしれない人たちの、全く何かわからないもの」(PFFディレクター 荒木さん)を発掘する映画祭。入賞者に対しては、PFFが製作から劇場公開までをトータルプロデュースする長編映画製作援助システムも用意されており、日本映画界への登竜門として、現在日本でもっとも有名なインディペンデント映画祭だ。これまでに16,386作品の応募、475作品の“新しい才能”が紹介されてきた。今回は、現在渋谷で公開されている作品に絞って、そんなPFFによって見出された才能が、どんな変遷を遂げてきたのか追ってみたい。

 

タイトル:
第30回ぴあフィルムフェスティバル
上映場所:
渋谷東急
上映期間:
○2008年7月19日〜2008年7月24日
PFF入賞作品の上映
○2008年7月25日
PFFアワード授賞式
○2008年7月26日〜2008年8月1日
招待作品部門
巨匠ミロス・フォアマンの世界/ダグラス・サーク特集

上映スケジュールは、公式サイトをご覧下さい。

1989年『夕辺の秘密』がPFFグランプリ&最優秀女優賞を獲得した橋口亮輔は、その後PFFスカラシップを得て1993年に第一回監督作品『二十才の微熱』を発表した。『二十才の微熱』は、それまで日本映画界でまともに扱われてこなかった「ゲイ」をテーマとした作品。公開に合わせて、橋口監督は自らも「ゲイである」ことを公表した。低予算で無名の俳優・監督ながら異例のヒットを記録した『二十歳の微熱』は、その後の『渚のシンドバッド』(1995)『ハッシュ!』(2001)と合わせて「ゲイ三部作」と呼ばれ、イメージが先行しがちな「ゲイ」の悩みや喜びを真摯に伝える良作となっている。現在シネマライズにて公開中の『ぐるりのこと。』は、一転して男女の関係が主軸となっているが、共通するのは、人と人とのささやかな気持ちの行き違いや触れ合いといった日常を丹念に積み上げていく描写力である。自分の悩みを「映画を撮ること」で克服していったという橋口監督。『ぐるりのこと。』では、橋口自身も体験した「うつ病」の女性が登場し、法廷画家を務める夫の回りでは実際にあった数多くの事件の架空の裁判の様子が描かれている。混沌の時代だからこそ、身近にある夫婦での日常が、掛け替えのない宝物だと教えてくれるさわやかな快作だ。

2007年/日本/140分/配給:ビターズ・エンド/©2008『ぐるりのこと。』プロデューサーズ

タイトル:
ぐるりのこと。
上映場所:
シネマライズ
上映期間:
2008年6月7日〜2008年8月1日
土・日・祝・映画の日
9:00/11:55/14:50/17:45/20:40
平日
10:30/13:25/16:20/19:15

1997年『home sweet movie』でPFF脚本賞を受賞した古澤健監督は、受賞後、黒沢清監督の作品『大いなる幻影Barren Illusion』(1999)と『回路』(2000)にて演出助手を、同じく黒沢監督の『ドッペルゲンガー』(2002)にて共同脚本を務めた、ぴあ出身でありながら別の映画監督に指事した数少ない監督の1人だ。黒沢清という日本ホラー映画の偉大なる騎手の下で学んだ古澤監督の初商業長編監督作は、落とし物を拾った者が次々と姿を消していく『オトシモノ』(2006)。沢尻エリカ主演で話題になった。さて、その古澤監督の最新作が、8月2日から、シアターN渋谷にて公開予定の『トワイライトシンドローム デッドクルーズ』である。今回は海上の船を舞台に、「リセットするたびに違う死が訪れる」という不条理な世界を描く。「死」が終着点ではなくなった世界で、一体どんな「恐怖」があり得るのか。古澤監督の用意した仕掛けに、ぜひ注目したい。

2008年/日本/80分/配給:ジョリー・ロジャー

タイトル:
トワイライトシンドローム デッドクルーズ
上映場所:
シアターN 渋谷
上映期間:
2008年8月2日〜2008年8月15日
21:10〜
監  督:
古澤 健
出  演:
関めぐみ、野久保直樹

ほかにも、『モル』で2001年のグランプリを獲得したタナダユキ監督は、7月19日よりシネセゾン渋谷にて『百万円と苦虫女』を公開。高田渡のドキュメンタリー『タカダワタル的』(2003年)から、女性の愛とエロスを撮ったR15指定作品『月とチェリー』(2004年)まで、多彩な企画を自在にこなすタナダユキ監督。最新作では、日本映画の宝・蒼井優が「地味なヒロイン」を演じる。タナダ監督は、「根本で嘘をつかないこと」を信条に脚本を書き上げるとのことだが、一見共通点の見当たらない作品群に、どんな「タナダ」らしさが潜んでいるのか、発見してみるのも楽しい。また、2002年『WEEKEND BLUES』が企画賞を獲得し、第14回PFFスカラシップにて『運命じゃない人』を監督した内田けんじの最新作は、『アフタースクール』である。『運命じゃない人』で自在に時間軸を操った、緻密な脚本力に更に磨きがかかった本作は、5月後半から上映をスタートして、ロングランを記録している。

今後も「パコと魔法の絵本」監督:中島哲也、「グーグーだって猫である」監督:犬童一心、「ホームレス中学生」監督:古厩智之と、続々とぴあ出身監督の新作公開が控えており、1年でPFF関連の作品を見ない日はないと言っても過言ではないほど。30周年を迎え、いよいよ存在感を増してきた「PFF」。映画祭には、15本の入選作品の中から誰でも投票に参加できる「観客賞」も用意されている。25日の授賞式まであと2日。あなたも一票いかがだろうか? それが、日本映画界の未来へ向けた重要な「一票」となることは、前述の通りである。

2007年/日本/カラー/121分/配給:日活/©2008「百万円と苦虫女」製作委員会

タイトル:
百万円と苦虫女
上映場所:
シネセゾン渋谷
上映期間:
2008年7月19日〜
10:40/13:20/16:00/18:40/21:20
監  督:
タナダユキ
出  演:
蒼井優、森山未來、ピエール瀧、
竹財輝之介、齋藤隆成、笹野高史

就職浪人中の鈴子(蒼井優)は、アルバイトをしながら実家で暮らしていた。彼女は仲間とルームシェアを始めるが、それが思いも寄らぬ事件に発展し、警察の世話になる。中学受験を控えた弟(齋藤隆成)にも責められ家に居づらくなった彼女は家を出て、1か所で100万円貯まったら次の場所に引っ越すという根無し草のような生活を始める。

©2008「百万円と苦虫女」製作委員会

2008年/日本/配給:クロックワークス/©2008「アフタースクール」製作委員会

タイトル:
アフタースクール
上映場所:
シネ・アミューズ・イースト&ウエスト
上映期間:
2008年7月26日〜2008年8月8日
13:30/15:55/18:45
監  督:
内田けんじ
出  演:
大泉洋、佐々木蔵之介、堺雅人、
常盤貴子、田畑智子、伊武雅刀、
山本圭、北見敏之

母校の中学校で働く神野良太郎(大泉洋)の元に、かつての同級生だと名乗る探偵・北沢雅之(佐々木蔵之介)が訪ねてくる。北沢は神野の親友、木村一樹(堺雅人)の行方を追っていた。心ならずも木村探しに巻き込まれる神野。ドタバタ捜索劇は、誰もが予想しない展開に向かっていく。

©2008「アフタースクール」製作委員会


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