レコメンド 今週、編集室が推薦するカルチャー

格差社会が問題視されている昨今。自宅を持てない「ネットカフェ難民」もしんどいけれど、だからといってサラリーマンの一生分を一ヵ月で稼ぎ出す「富裕層」が幸せだとも思えない…。昔、生まれて初めてのバイトで感じたのは、「仕事をしていると月に一回なんとなくお金が手元に入ってくる」ことに対する新鮮な喜びだった。そうやって僕は、自分の労働が賃金に変換されるという当然のルールを肌で覚えていったのだ。

シネ・アミューズ・イースト&ウエストで公開中の『この自由な世界で』は、イギリスを代表する社会派映画監督ケン・ローチの最新作である。シングルマザーのアンジーは、務めていた職業紹介所を不当な理由で解雇されてしまう。その後、持ち前のガッツで派遣会社を自ら設立したアンジーは、今度は自分自身が雇用主となり、 移民たちを食い物に。しかし、そのアンフェアな仕事ぶりの一方で、アンジーの望みは、自分の息子と暮らすというささやかなものだった。本作は、アンジーの視点を通して、「シングルマザー」や「移民」たちの尊厳が、「競争によってより大きな利益を追う」ことを認める「自由市場」によって、いとも簡単に踏みにじられていく様子を伝える。

シネセゾン渋谷で公開中の『百万円と苦虫女』の主人公は、各地で転々とバイト生活を送る鈴子。「まぁ百万円あったら、とりあえず生活に困ることはないだろう」と、彼女は、百万円が貯まるごとにバイトを辞め引っ越すことに決めているのだ。一見むちゃくちゃなルールだが、実はそれは、「長く一緒にいることによって人と深く関わる」ことを避けたいという彼女の繊細な考え方によるもの。とはいいつつ、やがて鈴子はバイト先で知り合った中島に恋心を抱くように。しかし、そんな彼女から次々とお金を借りる中島。「百万円」は、あるときは感情を抑制する道具となり、あるときはその感情を荒立てる元凶となる。お金の持つ危険な2面性に、改めて気がつかされる作品だ。

また、ラスベガスのカジノで偶然に手にした300万ドルの所有権を巡って、仮面夫婦として結婚生活を営むはめになったカップルを描くコメディが、渋東シネタワーシネフロントにて公開中の『べガスの恋に勝つルール』である。相手を悪者に仕立て上げ離婚に持ち込んで、300万ドルを独り占めしようと企む2人。しかし、生活を共にしていくなかで、やがて相手が気になる存在に…。

「資本」の有無が「力」の大小へと直接結びつく「資本主義社会」では、資本は、あるときは僕たちに幸せの絶頂をもたらし、あるときは犯罪へも駆り立てる。そんな逃れようもない社会システムのなかで、それでも僕らは「自由」を、「信頼」を、「愛」を求める。力強く生きるためには、お金だけじゃ満足できない。

2007年/イギリス/96分/配給:シネカノン/© Sixteen Films Ltd, BIM Distribuzione, EMC GmbH and Tornasol Films S.A.MMVII

タイトル:
この自由な世界で
上映場所:
シネ・アミューズ・イースト&ウエスト
上映期間:
2008年8月16日〜
10:30/12:30/14:45/
17:00/19:15
監  督:
ケン・ローチ
出  演:
キルストン・ウェアリング、ジュリエット・エリス、レズワフ・ジュリック

『麦の穂をゆらす風』でカンヌ映画祭パルムドール大賞に輝いた英国の至宝ケン・ローチ監督の最新作。ロンドンを舞台に名もなき者の営みに世界を見い出す、これぞローチの真髄といえる感動作。

2007年/日本/カラー/121分/配給:日活/©2008「百万円と苦虫女」製作委員会

タイトル:
百万円と苦虫女
上映場所:
シネセゾン渋谷
上映期間:
2008年7月19日〜
10:40/13:20/16:00/
18:40/21:20
監  督:
タナダユキ
出  演:
蒼井優、森山未來、ピエール瀧、竹財輝之介、齋藤隆成、笹野高史

蒼井優が『ニライカナイからの手紙』以来、3年ぶりに主演を務めた、ほろ苦い青春ロードムービー。ひょんなことから各地を転々とすることになるヒロインの出会いと別れ、そして不器用な恋を丹念に映し出す。監督は『赤い文化住宅の初子』のタナダユキ。共演者も『スマイル聖夜の奇跡』の森山未來をはじめ、『ワルボロ』のピエール瀧や『転々』の笹野高史ら個性派が脇を固める。転居を繰り返しながら、少しずつ成長して行く主人公の姿に共感する。

2008年/アメリカ/99分/配給:20世紀フォックス映画/TM and © 2007 Twentieth Century Fox and Regency Entertainment. All rights reserved.

タイトル:
ベガスの恋に勝つルール
上映場所:
渋東シネタワー
シネフロント
上映期間:
渋東シネタワー
2008年8月13日〜2008年8月29日
20:50
シネフロント
2008年8月16日〜
11:00/13:40/16:20/19:00
監  督:
トム・ヴォーン
出  演:
キャメロン・ディアス、アシュトン・カッチャー、クイーン・ラティファ、ミシェル・クルージ、レイク・ベル

「旅の恥はかき捨て(“What happens in Vegas, stays in Vegas”)」という有名なことわざで思い浮かべるのは、理性の殻を脱ぎ捨てて、究極の快楽を味わい、大騒ぎをして一攫千金を手にする夢を見るひととき、だろう。しかし、ひとときの夢であるはずの出来事を少しでも覚えていたとしたら、もしかしてそれは単なる「夢」では片付けられないかもしれない……。

 


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