レコメンド 今週、編集室が推薦するカルチャー

今週末の渋谷では、パリを舞台に撮影された映画が目白押し。

まず、シネスイッチ銀座で7月26日から公開されてきた『赤い風船』が、9月6日から渋谷シネアミューズイースト&ウエストでいよいよ上映を開始する。『赤い風船』は、1956年に公開され、同年のカンヌ映画祭でパルム・ドールを受賞した作品だが、これまで権利を巡る問題から日本での上映が限られてきた。

『ホウ・シャオシェンのレッド・バルーン』©3H PRODUCTIONS-MARGO FILMS-LES FIMS DU LENDEMAIN-ARTE France Cinema

内容は、主人公の男の子の後を真っ赤な風船が追いかけてくるという35分の短いファンタジー。コンクリートとレンガに囲まれたモノトーンの街並と、ふわりと浮かぶ真っ赤な風船とのコントラストが美しく叙情的なことから、映画史上でも高く評価されてきた。舞台となった20区はパリ右岸の東部の小高い丘の上にあり、映画の中でも、空飛ぶ風船の背景にパリの街並が広がるのを観ることができる。

また、その『赤い風船』にオマージュを捧げているのが、同じ9月6日からユーロスペースにて公開される『ホウ・シャオシェンのレッド・バルーン』だ。ホウ・シャオシェンは、日本では、浅野忠信と一青窈を主演に2003年に『珈琲時光』を監督した人物。海外2回目の映画製作となる今回は『赤い風船』の舞台となったパリ20区のほか、リュクサンブルク公園やバスティーユ駅など、映画や書籍でよく目にするパリの風景を、観光客のような客観的な視点で切り取っていく。一方、そこで暮らす留学生や子供といった登場人物たちのエピソードを積み重ね、視点によって様々に変化する街並の表情を重層的に伝える。

『パリのランデブー』1995年/フランス/95分/配給:日活

他にも、同日ユーロスペースでは『ロメールの季節』と題して、ヌーベル・バーグ時代以来のエリック・ロメール監督の22作品を一挙に公開する特別上映会を開催する。ヌーベル・バーグとは、『勝手にしやがれ』のジャン・リュック・ゴダールや『大人は判ってくれない』のフランソワ・トリュフォーらとともに進められた映画の革新運動。<少人数><ロケ撮影><同時録音><即興演出>が特色で、これをきっかけに、フランス映画のスタイルは一新。まるでドキュメンタリー映画のようなリアリティを伝える名作が数多く誕生した。その中でもロメールは、時間の変化によって様相を変えていく街の風景を丁寧に記録した監督として有名で、今回上映される作品群でも、沈む太陽の一瞬の表情を捉えた『緑の光線』や、夜と朝が切り替わる瞬間を探した「青い時間」(『レネットとミラベル四つの冒険』より)などで、太陽に美しく縁取られた街の豊かな情景を今に残している。

1956年の『赤い風船』、1959年から1995年までのエリック・ロメール作品群、そして2007年の『レッド・バルーン』。それぞれの作品に共通するのは、全てフランス・パリを舞台に撮影されている、ということ。 渋谷に一挙に集結したパリが、失ったもの・残したものを、あなたも探してみませんか?

『赤い風船』より、眼下に広がるパリ©Copyright Films Montsouris 1956

1956年/フランス/35分/配給:カフェグルーヴ=クレストインターナショナル/©Copyright Films Montsouris 1956

タイトル:
赤い風船(『赤い風船/白い馬』より)
上映場所:
シネ・アミューズ・イースト&ウエスト
上映期間:
2008年9月6日〜2008年9月19日
10:15/12:10
監  督:
アルベール・ラモリス
出  演:
パスカル・ラモリス、サビーヌ・ラモリス、ジョルジュ・セリエ

1950年代、パリ。少年パスカルは街灯に結ばれた赤い風船を見つける。よじ登って風船を手にすると、どうやらその風船には意思があるらしい。手を放してもパスカルになついて後をついてくる。ある日、パスカルと風船の仲の良さを妬んだいたずらっこ達が追いかけてきて…。

2007年/フランス/113分/配給:カフェグルーヴ、クレストインターナショナル/©3H PRODUCTIONS-MARGO FILMS-LES FIMS DU LENDEMAIN-ARTE France Cinema

タイトル:
ホウ・シャオシェンのレッド・バルーン
上映場所:
ユーロスペース
上映期間:
2008年9月6日〜2008年9月19日
16:00/18:30
監  督:
ホウ・シャオシェン
出  演:
ジュリエット・ビノシュ、イポリット・ジラルド、シモン・イテアニュ、ソン・ファン、ルイーズ・マルゴラン

人形劇作家であり、優れた人形劇師でもあるスザンヌは、7歳になる息子サイモンと暮らしている。シングルマザーの彼女は新作劇の準備に追われる毎日。下の住人とのトラブルや、別れた夫とのやりとりなど、日々の煩わしさから非常にナーバスになっていた。スザンヌはサイモンをベビーシッターに任せることに決め、映画学校の生徒である台湾人のソンを雇う。孤独なサイモンをじっと見つめていたのは、パリの街を漂う赤い風船だった。

2008年/アメリカ/99分/配給:20世紀フォックス映画/TM and © 2007 Twentieth Century Fox and Regency Entertainment. All rights reserved.

タイトル:
特集「ロメールの季節:エリック・ロメール監督作品日本最終上映」
上映場所:
ユーロスペース
上映期間:
2008年9月6日〜2008年9月19日
12:05/14:20
/16:35(14日、18日のみ16:55)/18:50
監  督:
トム・ヴォーン
出  演:
キャメロン・ディアス、アシュトン・カッチャー、クイーン・ラティファ、ミシェル・クルージ、レイク・ベル

ユーロスペースでは、エリック・ロメール監督作の日本における上映権利が本年度相次いで終了するのを受け、22作品を回顧上映する。1年を通して変化していく季節の空気感を4つの作品で撮りわけた<四季の物語>シリーズや、女性を主人公に、不器用な恋愛観を巧みな会話劇で伝える<喜劇と格言劇集>シリーズ、男性の心の内を小気味いいリズムで素直に語る<六つの教訓物語>シリーズなど。どの作品にもフランスの街並が様々な表情で写し取られている。

『ホウ・シャオシェンのレッド・バルーン』より、フランス映画でおなじみの回転木馬©3H PRODUCTIONS-MARGO FILMS-LES FIMS DU LENDEMAIN-ARTE France Cinema


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