レコメンド 今週、編集室が推薦するカルチャー

2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ事件から、間もなく7年目になる。アメリカの4機の旅客機がほぼ同時にハイジャックされ、その内の2機が、アメリカ経済の象徴だった「世界貿易センタービル」に突っ込み炎上したこの事件は、当時アメリカ合衆国を始めとする先進国に大きなショックを与えた。9.11以降、普段の生活の中に死を招く危険が忍び寄っているかもしれないという漠然とした不安が、先進国の住人の意識に深く根付くようになったと感じるのは、僕だけではないだろう。

©2007 Captured Films,LLC

現在、そんな犯罪の予防・摘発を狙いに、アメリカ国内には3000万台以上の監視カメラが設置されている。平均的なアメリカ人は、1日200回以上監視カメラに撮影され、37の州では、試着室やトイレに監視カメラを設置することを許可しているという。人々は、安全と引き換えにプライバシーを捨てた。9月6日からシネセゾン渋谷で公開されている映画『LOOK』は、そんな監視カメラの映像を並べていくことで、人目を意識しない人々の衝撃の行動から人間の本質を浮かび上がらせる。他人のプライバシーを覗き込む快楽と、自身のプライバシーを侵される居心地の悪さの両てんびん。あなたはどちらを選ぶだろう?

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また、監視カメラと同じく現代社会に欠かせないツールの1つに、携帯電話がある。どんなに仲良しで長い付き合いの相手でも、どんなに重要な取引先でも、あの11ケタのケータイ番号を無くしてしまったらもう一生会えなくなる相手は結構たくさんいる。だからこそ僕らは絶対にケータイを手放せないのだが、そんな僕らをあざ笑うかのように、その「ケータイ」を凶器として登場させたホラー映画が、2004年日本で公開され大ヒットとなった『着信アリ』である。アミューズCQNにて9月19日まで公開中の『ワン・ミス・コール』は、その『着信アリ』のハリウッド・リメイク版。本作では、ケータイのメモリー・アドレスから「呪い」が次々と伝播していく内容は変わらずに、ビジュアル面での恐怖がさらに増幅されている。

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他にも、渋谷シネパレスでは、Eメールを使って仕事をする引きこもり小説家を主人公にした映画『幸せの1ページ』が公開中だ。パソコンネットワークも、もちろん現代には必要不可欠なアイテムの1つ。対人恐怖症で外出恐怖症で潔癖症の主人公のアレクサンドラは、自ら望んでそんな生き方を選んでいるのだが、しかしあるとき、南の島で自分とは全く異なる生活を送る少女とのメールでのやり取りをきっかけに、とうとう家の外に出ることに。家の中にいるだけでは得られなかった様々な刺激が、彼女を徐々に強く成長させていく。

監視カメラの不気味を伝える『LOOK』、人々のケータイ依存を鋭く捉えた『ワン・ミス・コール』、そしてネットの世界に引きこもっている主人公に外へ飛び出す意味を伝える『幸せの1ページ』…。監視カメラもケータイもネットも、安全・便利を追求した末に僕らが発展させて来た先端技術の集大成だ。しかし、それら全てを手に入れた今になって、その代償に手放してきたものたちの大切さに、ようやく僕らは少しずつ気がつき始めているのだ。

『LOOK』より、食料品店の監視カメラを思わせる固定アングル©2007 Captured Films,LLC

2007年/アメリカ/102分/配給:トルネード・フィルム、AMGエンタテインメント/©2007 Captured Films,LLC

タイトル:
LOOK
上映場所:
シネセゾン渋谷
上映期間:
2008年9月6日〜
21:20
監  督:
アダム・リフキン

アメリカ某都市。強盗、殺人、幼児誘拐、セクハラ、不倫、淫行、いじめ、噂話、悪口、衝突事故、追跡中継、爆弾処理、映画撮影…。警官を殺し、逃亡しながらさらに犯罪を続ける2人組の強盗。職場の女性従業員たちを手当たり次第誘惑し、セクハラを行うデパートのマネージャー。幸福な家庭を持ちながら、同性愛の恋人との情事を楽しむ弁護士。ロック・スターを夢見ながら深夜に働くコンビニの店員。愛憎と欲望が交錯する大都会は今日も眠らない。そこではすべてが起こり、すべてが監視カメラで記録されている。

2008年/日米合作/88分/配給:角川映画

タイトル:
ワン・ミス・コール
上映場所:
アミューズCQN
上映期間:
2008年9月6日〜2008年9月19日
10:45/12:55/15:05/
17:15/19:30
監  督:
エリック・ヴァレット
出  演:
シャニン・ソサモン、エド・バーンズ、レイ・ワイズ

心理学専攻の女子大生ベス・レイモンドは、数日のあいだにふたりの友人の怪死を目撃する。一方、妹の変死をきっかけにその謎を探るジャック・アンドリュース刑事は、やがてベスと出会う。死んだ彼らに共通した事実、それは、死の数日前に携帯電話に着信を受け、留守電に残された自らの断末魔を聞いていたことだ。そして同じ叫びをあげて死んでいった。やっと手がかりをつかんだ彼らだが、まもなくベス自身が<死の予告=呪いの着信>を受けてしまう・・・。

2008年/アメリカ/96分/配給:角川映画/©Copyright Walden Media, LLC. All Rights Reserved.

タイトル:
幸せの1ページ
上映場所:
渋谷シネパレス1・2
上映期間:
2008年9月6日〜
10:05/12:10/14:15/
16:20/18:25
監  督:
マーク・レヴィン/ジェニファー・フラケット
出  演:
ジョディ・フォスター、アビゲイル・ブレスリン、ジェラルド・バトラー

最高にハッピーでチャーミングな冒険(アドベンチャー)をあなたに! ベストセラー冒険小説家のアレクサンドラには秘密がある。自分が書くヒーローとは正反対で、神経質なひきこもりだったのだ。しかし、南の島の少女ニムからのSOSメールで、彼女の人生は一変する・・・!

『ワン・ミス・コール』より、本作でハリウッド・デビューを果たしたデーブ・スペクター
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