レコメンド 今週、編集室が推薦するカルチャー

現在、東京では長かった夏がようやく終わりそうだが、一方のシドニーでは、春を迎える準備に追われている。これは、シドニーが赤道を境に日本とほぼ対称の緯度に位置しているため。つまり東京とシドニーでは、そこに住む人々はまったく正反対の季節に育つことになるのだ。さて、そんな季節の違いから始まって、宗教も言葉も生活様式も異なる日本とオーストラリアの2国。渋谷では、その両国を「アート」で結ぶ展覧会が開催されている。それぞれが挑んだアプローチから、異文化交流の醍醐味を探ってみたい。

『空飛ぶキルト』展示風景

ギャラリーTOMでは、9月13日(土)から10月19日(日)まで、『空飛ぶキルト 40点のキルトの物語』と題して、キルト作品を展示している。この展覧会には、日本から20名、オーストラリアから20名のキルト作家が参加。1点の作品を作り上げるにあたっては、それぞれの国から2名ずつ、計4名が1つのグループとなり、順番にキルトに手を加えていく「ラウンドロビンキルト」の手法が用いられている。作品作りにあたっては、作家は残りのメンバーの写真と名前を与えられるだけで、それ以外の情報は一切知らされなかったという。「最初に自分がモチーフを作ったキルトに、3人の作家の手が加わり、最後に自分の手元に戻ってきた状態を見たときは、予想外な配色に鳥肌が立ちましたね」とは、今回作品作りに参加したキルト作家・鈴木雅子さん。さらに、「いろんな人の手が加わって、いろんな可能性が生まれ、自分の中で固まっていたイメージが押し広げられました」と、今回の参加を喜ぶ。4名の作家たちの共同作業で仕上がった1点1点は、個人の作家の個性を拒否する一方で、それぞれの色、モチーフ、バランスは実に多彩。きらめくオリジナリティは、個人の偉業ではなく、無言のキルト・コミュニケーションの軌跡なのだ。

「Eyes Wall One」(2008)より、一部
アレックス・ガヴロンスキ
木材、ナイロン、写真

また、トーキョーワンダーサイト・渋谷では、同じく9月13日(土)より『都市のディオラマ:Between Site &Space』と題された展覧会が行われている。こちらの展覧会には、日本から5名、オーストラリアから3名の若手アーティストが参加している。メンバーは、それぞれトーキョーワンダーサイト(日本)と、ARTSPACE Visual Arts Centre(オーストラリア)にて支援を受ける若手クリエイターたち。今回の展覧会では、オーストラリアのアーティストたちは、一定期間東京に滞在し、その間に集めた素材を使ったインスタレーションを発表している。会場に並ぶのは、アーティスト自ら幽霊に扮して、『呪怨』や『リング』を思わせるジャパニーズホラー映画のワンシーンを再現する作品(「Untitled(shooting tadpoles at the moon )」)や、街で見つけた広告から、キャラクターの「目」だけを切り取ったインスタレーション(「Eyes Wall One」)など。巷に氾濫するイメージに思いがけない光を当てたそれぞれの作品たちは、日本に住む僕らに新鮮な発見をもたらしてくれる。また、今回一緒に作品を展示した日本人アーティスト5名は、来年の3月にはオーストラリア・シドニーでの作品制作・発表が決まっている。今度は彼らが、オーストラリアの住人たちに新しい「シドニー」を伝える仕掛けとなる。

さて、今回の異文化交流に興味を持ったアーティストに朗報。トーキョーワンダーサイトでは、2008年11月1日まで、「二国間交流プログラム」と題して、台北、ソウルへ3ヵ月間派遣されるクリエーター候補を募集している。派遣先は、韓国アート界で最も大きな影響力を持つスペースの1つ「サムジスペース」(ソウル)と、台北発の国際的なアーティスト・イン・レジデンスである「台北国際芸術村」(台北)。あなたも、両国から新しい魅力を拾い上げてみては? ※詳細は、トーキョーワンダーサイトをご参照下さい。

『空飛ぶキルト』より、「集いの場」作・鈴木雅子さん他3名

『空飛ぶキルト』フライヤーより

タイトル:
空飛ぶキルト 40点のキルトの物語
上映場所:
ギャラリーTOM
上映期間:
2008年9月13日〜2008年10月19日
10:30〜18:00
休館日:月曜日(9/15、10/13、開館)

日本とオーストラリアの見知らぬ作り手たちが、生活や習慣、あるいはものの見方など異なるお互いの感性を尊重しながら、キルトを通じた初めての出会いを大切にし、自己を抑制しながらも、自己表現を重ね合わせて制作した40点の作品が並ぶキルト展です。一枚のキルトの中に、制作にかかわる4人の形とさまざまな感性が意図的に表され、あるいは偶然に出会った結果、完成作品が出来上がるのです。

「無限会社パラモデルパイプライン」(2008)
パラモデル
塩化ビニールパイプ、ランバーコア、材木、玩具

タイトル:
都市のディオラマ:Between Site &Space
上映場所:
トーキョーワンダーサイト・渋谷
上映期間:
2008年9月13日〜2008年10月13日
11:00〜19:00(入場は閉館の30分前まで)
休館日:月曜日(祝日の場合は翌火曜日)

都市を構成するのは私たちひとりひとりです。そして、個々の思考や行動などはそれぞれに影響を与え合い、交差あるいは連鎖しながら都市をつくりあげていると言えるでしょう。それぞれから出てくる一本の線をたどっていくと、位相を超えて、ノンリニアに増殖しながら個の領域を拡張したり、狭めたりしながら都市の一部となり複雑な構造をつくりだしています。今回のプロジェクトでは、東京とシドニーという都市と人との間を往き来しながら、各会場に複数のレイヤーが入り組んだ都市のディオラマを出現させます。

大巻伸嗣 サムジスペースでのスタジオ

タイトル:
二国間交流事業プログラム
派遣先 :
ソウル サムジスペース
台北 台北国際芸術村
派遣期間:
2009年1月6日〜3月31日
派遣人数:
各1名
支援内容:
制作スタジオ及び住居の提供
渡航費、滞在費、制作費
※TWSの規定による。詳細は応募要項をご確認下さい。
対  象:
2009年3月末時点で45歳以下の、日本国籍をもつクリエーター(学生不可)。
※応募資格の詳細はTWSホームページより、「二国間交流事業応募要項」をご確認下さい。
募集締切:
2008年11月1日(土)

 

『都市のディオラマ』より、「Untitled(shooting tadpoles at the moon )」
ティム・シルバー ビデオ・インスタレーション


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