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9月19日、映画監督の市川準が59歳で逝去された。市川監督は、1980年代にはCMディレクターとして活躍し、金鳥の「タンスにゴン」や、マルマンの「禁煙パイポ」、エバラの「焼肉のたれ」など、庶民の生活を生き生きと伝えるCMの演出を数多く演出した。その後、1987年『BU・SU』で映画界に転向し、都電が走る東京の街並とそこでの一組の兄妹の生活をスケッチのように切り取った『東京兄弟』や、大阪を舞台に、売れない漫才師夫婦の子どもたちの成長から別れ、再会まで描いた『大阪物語』などを監督。CM演出にも見られた庶民のささやかな生活のライブ感に、彼らが息づく土地を添えて描きとる、独特の空気感を持つ映画監督として印象的だった。今回は、CMと映画を渡り歩く監督たちとその魅力を探るなかで、映画業界へ新しい感性をもたらした市川監督の業績を称えたい。

©Newline Productions/Junkyard Productions

ミシェル・ゴンドリーは、リーバイスのCMで2003年のカンヌ国際広告賞を受賞したCMディレクターだ。他にも、GAP、Nikeなど大企業のCMを数多く手掛けている。映像業界参入へのきっかけは、ミュージカル好きが興じてビョークなどのミュージシャンのミュージッククリップの製作を始めたことから。セット撮影とロケ撮影を融合させ、作りものとも現実ともとれるイメージ作りが特徴である。映画界では、夢と現実を行き来する「エターナル・サンシャイン」や「恋愛睡眠のすすめ」などで、その才能を存分に発揮している。現在渋谷シネマライズでは、そのミシェル・ゴンドリーの短編「インテリア・デザイン」を含む三部作『TOKYO !』が公開中だ。フランス・韓国・アメリカの気鋭の映画監督3名が、東京を舞台に作品を取り上げたことで、話題の作品である。また、10月11日からは、同じくシネマライズにて、『僕らのミライへ逆回転』が公開予定。この作品では、レンタルビデオ屋を舞台に、『ゴーストバスターズ』『ライオン・キング』などの過去の名作を独自の遊び心でリメイクするという。

©2006 Googly Films, LLC. ALL Rights Reserved

また、DGA賞CM監督賞(1997年)を受賞するなど、リーバイスやNike、ペプシなどのCMディレクターとして活躍するターセムが、撮影期間4年をかけて完成させたのが、『落下の王国』である。ターセムは、異常殺人犯の脳内世界に入り込む奇想天外なサイコ・スリラー『ザ・セル』(2000)で監督デビュー。2作目となる今回の『落下の王国』は、スタントマンのロイが、映画の撮影中に大けがを負い病院に収容され、そこで知り合った5歳の少女に、空想の物語を話して聞かせる…というストーリーだ。構想26年、CMの撮影などで訪れたという世界24カ国以上、13の世界遺産を含む美しいロケーションで撮られた、様式を追求した禁欲的な映像美がスクリーンに息づく。また、ラスト・シークエンスは、サイレント活劇のスタント・シーンで構成。チャールズ・チャップリン、バスター・キートン、ハロルド・ロイドなどの有名なフィルムの数々がサンプリングされている。

2008 ©「パコと魔法の絵本」製作委員会

そして、『下妻物語』に『嫌われ松子の一生』と、屈折した女性の魅力をポップに引き出した映画監督・中島哲也も、山口美江の「しば漬け食べたい!」というセリフが印象的だったフジッコ「漬物百選」でデビューして、 小泉今日子の主演でのクノール カップスープ、豊川悦司&山崎努によるサッポロの「黒ラベル」など、今でなお深く記憶に刻まれているCMを数多く生み出したディレクターの1人である。今回そんな中島監督が手掛けたのが、一代で会社を築きワガママ放題生きてきた大貫と交通事故の後遺症で一日しか記憶を持てない少女パコの交流を描いた『パコと魔法の絵本』。映画のクライマックスでは登場人物はCGキャラクターに変身し、生の演技とCGを連動させていくという映像が用意されている。

アナログな雰囲気を保ちつつ、時間も空間も自由に行き来するミシェル・ゴンドリー。禁欲的な様式美で、独自の映像センスを壮大に展開するターセム。そして登場人物をCGで豪快にデフォルメする中島哲也。これまでの映画界にとらわれない、独自の路線を駆け抜けていく彼らに、市川監督の心意気が息づいているに違いない。

『落下の王国』より ©2006 Googly Films, LLC. ALL Rights Reserved

2008年/アメリカ/101分/配給:東北新社/©Newline Productions/Junkyard Productions

タイトル:
僕らのミライへ逆回転
上映場所:
シネマライズ
上映期間:
2008年10月11日〜
10:40/13:00/15:20
/17:40/20:00
監  督:
ミシェル・ゴンドリー
出  演:
ジャック・ブラック、モス・デフ、ダニー・グローヴァー、ミア・ファロー、シガーニー・ウィーヴァー

 

『TOKYO!』 2008年/日本・韓国・フランス・ドイツ/110分/配給:ビターズ・エンド/©2008 『TOKYO!』 

タイトル:
インテリア・デザイン(「TOKYO!」より)
上映場所:
シネマライズ
上映期間:
2008年8月16日〜2008年10月10日
13:00/15:20
/17:40/20:00
監  督:
ミシェル・ゴンドリー
出  演:
藤谷文子、加瀬亮、伊藤歩、大森南朋、妻夫木聡、でんでん 他

 

2006年/アメリカ/118分/配給:ムービーアイ・エンタテインメント/©2006 Googly Films, LLC. ALL Rights Reserved

タイトル:
落下の王国
上映場所:
アミューズCQN
上映期間:
2008年9月6日〜2008年10月24日
〜10/3(金)
11:00/13:40
/16:20/19:00
〜10/24(金)
10:15
監  督:
ターセム
出  演:
リー・ペイス、カティンカ・アンタルー、ジャスティン・ワデル

 

2008年/日本/105分/配給:東宝/©2008 「パコと魔法の絵本」製作委員会

タイトル:
パコと魔法の絵本
上映場所:
シネフロント
上映期間:
2008年9月13日〜
10:50/13:30
/16:10/18:50
監  督:
中島哲也
出  演:
役所広司、アヤカ・ウィルソン、妻夫木聡、土屋アンナ、阿部サダヲ、加瀬亮、小池栄子、劇団ひとり、山内圭哉、國村隼、上川隆也

 

『パコと魔法の絵本』より土屋アンナと阿部サダヲ ©2008 「パコと魔法の絵本」製作委員会


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