レコメンド 今週、編集室が推薦するカルチャー

いよいよ秋も深まり肌寒い季節になってきた。今回は「芸術の秋」の始まりを感じながら、渋谷で始まった映画の中から、「画家」を扱った作品たちを特集したい。17世紀のオランダの風俗画家ヨハネス・フェルメールから、18世紀スペインに生まれた宮廷画家フランシス・デ・ゴヤまで、今なお僕らの心を打つ彼ら。そこに隠された秘密とはなんだろう?

©2008『アキレスと亀』製作委員会

9月20日より、シネ・アミューズ・イースト&ウエストでは、北野武監督最新作『アキレスと亀』が公開中だ。製作発表会で「当たる映画を真面目にやった」と北野監督が意気込みを語った今回の主人公は、フランスの画家アンリ・マティスを連想させる真知寿(まちす)。画家を目指した少年期から、芸術に明け暮れた青年期、創作活動を通して夫婦の絆を深めていった中年期まで、成功がつかめなかった不器用な画家の人生を、客観的に、その一方なぜか温もりが伝わる、独特の視点で撮り上げている。北野監督は、これまでも『HANA-BI』(98)などで自作の絵画を効果的に映画に挿入してきたが、今回は、200点あまりも描き溜めたという絵画作品に、新たに本作のために描き下ろしたものを加えて、多数の絵画が登場する。描かれた絵画は、アンディ・ウォーホルやロイ・リキテンスタインなど、ポップ・アートの代表的な作家たちをパロディ化したような作品が多く見られ、北野武の画家としての技量を伝えている。

イザベラ・スチュワート・ガードナー美術館から強盗された『合奏』

1990年にフェルメールの『合奏』を含む美術品計13点が、イザベラ・スチュワート・ガードナー美術館(ボストン)から強盗された。現在も行方知れずのこの『合奏』を捜索するドキュメンタリーが、9月27日からUPLINK FACTORYXにて公開されている『消えたフェルメールを探して / 絵画探偵ハロルド・スミス』である。本作を監督したのは、「少女の頃に『合奏』に出会い、その神秘的な美しさに圧倒された」というレベッカ・ドレイファス。本編では世界的にも有名な絵画探偵ハロルド・スミスが、2年間に渡って『合奏』の行く手を追う様子が記録されている。2008年現在『合奏』は未発見のままだが、本作を通して明らかになるのは、「偉大な芸術作品は、世紀と大陸によって引き離されていた人々をひとつにする力を持っている」ということ。また、東京都写真美術館では、10月13日(月)まで「液晶絵画/Still Motion」展の一部として、フェルメールの代表作「真珠の耳飾の少女」に自分自身がなりきるという現代芸術家・森村泰昌の作品も展示されている。17世紀オランダの画家フェルメールの影響は、彼が亡くなった今なお、人々の心にしっかりと受け継がれているのだ。

©2006 Xuxa Producciones SL - All Rights Reserved

また、渋谷東急では10月4日(土)から、『カッコーの巣の上で』(1975)と『アマデウス』(1984)で2度のアカデミー監督賞に輝いたミロス・フォアマンによる最新作『宮廷画家ゴヤは見た』が公開される。1746年のスペインに生まれたゴヤは、1789年、当時の芸術家に与えられる最高位であった宮廷画家に任命された。しかし、権威ある評価を受ける一方で、貧しい人々を描き続け、権力や社会を批判する絵画や版画を制作。戦争の悲劇のディテールを生き生きと描いた版画集『戦争の惨禍』は、1808年のナポレオンによるスペイン侵攻に基づいており、無言で死んでいったスペイン人の代弁者となった。本作『宮廷画家ゴヤは見た』は、そんなゴヤの視点を通して、18世紀末から19世紀初め、内外の動乱に揺れるスペインで、王政と民衆という2つの世界に生きる人たちを見つめている。フォアマン監督は、「彼の絵画に圧倒され、頭から追い払えなくなった」と、今回の映画化を決意したそうだ。また、ゴダールやルイ・マルとも映画を作ってきたジャン=クロード・カリエールは「ゴヤの時代のスペインが、私が生きて来た時代と非常に似ているから」と、本作の脚本を引き受けた。ゴヤは、混乱の時代に「人間の真実」を探した。もしいまゴヤが生きていれば「現代」にどんな真実を描き出すのか?

『アキレスと亀』より©2008『アキレスと亀』製作委員会

2008年/日本/119分/配給:東京テアトル+オフィス北野/©2008『アキレスと亀』製作委員会

タイトル:
アキレスと亀
上映場所:
シネ・アミューズ・イースト&ウエスト
上映期間:
2008年9月20日〜
〜9/26(金)
11:15/13:50
/16:25/19:00
9/27(土)〜
11:35/13:50
/16:25/19:00
監  督:
北野 武
出  演:
ビートたけし、樋口可南子、柳憂怜、麻生久美子

 

2005年/アメリカ/83分/配給:アップリンク

タイトル:
消えたフェルメールを探して / 絵画探偵ハロルド・スミス
上映場所:
UPLINK XUPLINK FACTORY
上映期間:
2008年9月27日〜
10:30
監  督:
レベッカ・ドレイファス
出  演:
ハロルド・スミス、グレッグ・スミス

 

2006年/アメリカ/114分/配給:株式会社ゴー・シネマ/©2006 Xuxa Producciones SL - All Rights Reserved

タイトル:
宮廷画家ゴヤは見た
上映場所:
渋谷東急
上映期間:
2008年10月4日〜
上映時間の詳細は、劇場まで問い合わせ
監  督:
ミロス・フォアマン
出  演:
ハビエル・バルデム、ナタリー・ポートマン、ステラン・スカルスガルド、ランディ・クエイド、ホセ・ルイス・ゴメス、ミシェル・ロンズデール、マベル・リベラ

 


「消えたフェルメールを探して / 絵画探偵ハロルド・スミス」より
かつて盗まれた作品のあったスペースには、現在空の額縁がかけられている。


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