レコメンド 今週、編集室が推薦するカルチャー

80年代初頭、ニューヨークのダンスクラブ・シーンに登場して以来「史上最も成功した女性アーテイスト」として、ギネス認定を受ける歌手・マドンナ。そんな彼女が、17日からヒューマントラストシネマ渋谷で公開を控える『ワンダーラスト』にて、映画監督デビューを果たす。
今回は『ワンダーラスト』の公開に合わせて、ミュージシャンたちがその才能を発揮する場としての映画に注目。映画とミュージシャンとの関わりに、様々な形が見えてきた。

©Dave Allocca/StarPix

プロデューサーとマドンナが意気投合し、短編企画から構想が膨らんだという『ワンダーラスト』。 登場するのは、ミュージシャンのAKとバレリーナのホリー、アフリカの子供を救うことを夢見るジュリエットの3人。しかし、夢を追いかける彼らの目の前の日常は、SMの調教師をしたり、ポールダンサーのオーディションを受けたり、仕事先の売り物を盗んだり…。 理想と現実の狭間に彷徨う毎日をリアルに伝えている本作だが、実はそんな日々は、子供の頃からバレエを習い、夢を追ってニューヨークに上京し、下積みを経て音楽活動へシフトしながら、モデルやウェイトレスなどの仕事で生計を立ててきた、マドンナ自身の半生にも重なっている。
また、ミュージシャンのAKを演じたのは、NYの音楽シーンでカリスマ的人気を誇るミュージシャン、ユージン・ハッツだ。チェルノブイリの原発事故で故郷ウクライナを離れ、ヨーロッパ各地を転々とした後、移住先のアメリカで多国籍のジプシーパンクバンド“ゴーゴル・ボルデロ”を結成。本作でも彼は、成功を夢見るミュージシャンとして、 “ゴーゴル・ボルデロ”のフロントマンを演じているのが面白い。

2008年/イギリス/83分/配給:ヘキサゴン・ピクチャーズ/©2007 Semtex films

タイトル:
ワンダーラスト
上映場所:
ヒューマントラストシネマ渋谷
上映期間:
2009年1月17日〜
11:00/13:05/15:10
/17:15/19:30
監  督:
マドンナ
出  演:
ユージン・ハッツ、ホリー・ウェストン、
ヴィッキー・マクルア

©Proline-film © Mikhail Lemkhin

ユーロスペースで公開中の『チェチェンへ アレクサンドラの旅』は、昭和天皇を主人公にしたヒット作『太陽』で知られるロシア人監督、アレクサンドロ・ソクーロフの最新作だ。
報道統制下にあるチェチェン共和国の首都にある、実際のロシア軍駐屯地とその周辺で、25日間をかけてオールロケされた本作。物語は、部隊の一将校のもとに、祖母アレクサンドラが会いに行く(ロシアでは家族が兵士を戦地まで訪ねるのは珍しくない)ところから始まるが、しかし、(『太陽』と同じく)作中には戦闘シーンが一切登場しない。ただ、蒸し暑さが滲み出すような赤茶けた画面から、長年の戦争に倦んだ土地の空気が伝わってくる。
そんな異様な雰囲気に包まれながら、「殺す」ことしかできない孫、敵国の女性に親しみを見せるチェチェン人女性、戦争に疲れたチェチェンの若者といった現場の様子が、祖母アレクサンドラの視点を通して、淡々と写し出されていく。
主人公アレクサンドラを演じたのは、世界的ソプラノ歌手であり、亡きチェリスト、ロストロポーヴィチ夫人としても知られているガリーナ・ヴィシネフスカヤ。ソクーロフは、偶然紹介されたヴィシネフスカヤについて「多彩な人生を生き抜いてきた彼女には精神力とおおらかで強い性格がみなぎり、光を放っていた」と語り、「彼女が主演の、彼女のための作品」を撮らなくてはならないと確信したという。一方、ロシアが社会主義国としてアメリカと冷戦体制にあった1970年、反体制派作家の擁護を理由に、国内外の演奏活動を妨害された経験もあるヴィシネフスカヤも、「この役は断れなかった」と話す。撮影当時、80歳だった彼女が、ソクーロフの思いに動かされ、気丈に駐屯地に赴いた本作。ソプラノ歌手として、激動の人生を謳歌したヴィシネフスカヤの、圧倒的な存在感に魅了されたい。

2007年/ロシア/92分/配給:パンドラ+太秦/©Proline-film © Mikhail Lemkhin

タイトル:
チェチェンへ アレクサンドラの旅
上映場所:
ユーロスペース
開催期間:
2008年12月20日〜2009年1月30日 12:20/14:30/
16:40/18:50
監  督:
アレクサンドル・ソクーロフ
出  演:
ガリーナ・ビシネフスカヤ、ワシーリー・シェフツォフ、ライーサ・ギチャエワ、エフゲーニー・トゥカチュク

©2008「大丈夫であるように」製作委員会

また、沖縄出身の女性シンガーソングライターCoccoの10周年ライブツアーと日常の風景を追ったドキュメンタリーが、ライズエックスで公開中の是枝裕和監督作『大丈夫であるように−Cocco 終わらない旅−』である。
『誰も知らない』(2004)『歩いても 歩いても』(2008)で知られる是枝監督は、ライブ・アースでジュゴンのことを唄うCoccoを見たことをきっかけに、「僕の中で何かが震えた」という。沖縄の米軍基地移設予定の海に2頭のジュゴンが現われたニュースから生まれた、Coccoの歌う「ジュゴンの見える丘」。それを聴き、「何かしたい」と思った彼は、今回の撮影を決定した。 作中では、全国ツアーを展開する中で、観客の「想い」を短冊にして持ち帰った新宿、 慰霊と復興のモニュメントを訪れた神戸、使用済み核燃料からプルトニウムを取り出す施設のある青森県六ヶ所村と、様々な場所でステージに立ち、悩み、笑い、歌い、祈るCoccoが写し取られている。
「この感情を一人でも多くの人たちと共有できたらいいなあ」とは、Coccoに同行し、彼女の歌への想いに魅了された是枝監督の言葉。ミュージシャンから映画作家へ伝わり、映画を通して観客へ繋がれる感情の広がり…。何かを表現するためには、その表現手段なんて本当は関係ないのかもしれない。

2008年/日本/107分/配給:クロックワークス/©2008「大丈夫であるように」製作委員会

タイトル:
大丈夫であるように−Cocco 終わらない旅−
上映場所:
ライズエックス
上映期間:
2008年12月20日〜
〜1/25(日)
9:40/12:00/14:20/
16:40/19:00
1/26(月)〜
9:40(土日のみ)/12:00/
14:20/16:40/19:00
監  督:
是枝裕和
出  演:
Cocco、長田進、大村達身、高桑圭、椎野恭一、堀江博久

©2008「大丈夫であるように」製作委員会


一覧へ