レコメンド 今週、編集室が推薦するカルチャー

2009年の新成人は全国でおよそ133万人。手に入れた「大人」らしさは成長としてお祝いしたいが、一方で、失われた「子供」心に目を向けるのは難しいのでは?
そんな私もすでに「成人」を終え長年が経過した立派な大人の1人。今回は、渋谷で上映される作品の中から、「子供」が出てくる映画を探した。忘れていたあの頃の感覚が、いろんなシーンに溢れていた。

©2008Groupe Deux

渋谷シアターTSUTAYAでは、1月24日から『ジョッキーを夢見る子供たち』を上映中だ。本作は、フランス唯一の騎手・厩務員養成寄宿学校「ル・ムーラン・ナ・ヴォン」に通う子供たちを追ったドキュメンタリー。「ル・ムーラン・ナ・ヴォン」の子供たちは、3年間で、優れた子供は騎手に、それ以外の子供は厩務員になるためのプロフェッショナル教育を受ける。本作は、2006年9月、14歳で本校に入学した子供たちを10ヵ月に渡って記録。作中では、ある子は指導員に高い評価を受け、ある子は女のコのことで頭がいっぱいで、またある子は恐怖で馬を上手く操ることができない。そんな彼らが、朝5時から厩舎に出て馬の世話をして、厳しい乗馬訓練をこなしながら、一年をかけて馬との信頼関係を深めて行く。そして検定試験。凱旋門賞の出場を夢見て集まった30人の子供たちの中で、騎乗を許さるのは一握りの選ばれた者たち。しかし、検定とは無関係に、全ての子供たちの肉体には、逞しい筋肉が備わっている。
本作では、14歳〜15歳という青春時代、乗馬訓練と言う特殊な体験を経た子供たちが、成功・失敗・恐怖・喜びといったそれぞれの体験を胸に、いつの間にか大人へと成長を遂げて行く様子を、距離を置いた優しいまなざしで伝えている。

2008年/フランス/98分/配給:CKエンタテインメント/©2008Groupe Deux

タイトル:
ジョッキーを夢見る子供たち
上映場所:
渋谷シアターTSUTAYA
上映期間:
2009年1月24日〜
12:10/14:15/16:30
/18:45
※2/7(土)以降、スケジュールに変更の可能性があります。
監  督:
バンジャマン・マルケ
出  演:
スティーブ、ブラビアン、フロリアン、武豊

©2008Groupe Deux

©2008 映画「闇の子供たち」製作委員会

現在渋谷TOEI1にて再映されている『闇の子供たち』は、タイの臓器売買、児童売春問題という「目を背けたくなる現実」を正面から扱っている。あくまでフィクションの作品だが、しかし、お金のために自分の子供を人身売買するあるタイ人の姿が、自分の子供の心臓移植のために大枚を積むある日本人の姿と並べられ、子供の育つ環境のあまりの格差にショックを覚えたものも少なくないだろう。
1月31日から、ユーロスペースでの公開を控えている『空とコムローイ 〜タイ、コンティップ村の子どもたち〜』は、同じタイの人身売買の問題を見据えながら、タイの山岳民族アカ族を7年間に渡って記録したドキュメンタリー。アカ族は、かつては焼畑で自給自足生活を送っていたが、現在は焼畑が禁止。

©tristellofilms

道路や電気などの環境が整う一方で、女や子供たちは貧困のために麻薬や人身売買の恐怖にさらされている。イタリア人のペンサ神父とタイ人女性ノイさんは、タイ北端の街で、人身売買から身を守り、身寄りのない子を育てる施設を運営している。作中には、2歳の時にエイズで母親を亡くした少女ファが登場する。2歳だった彼女は母親の死を受け入れられずに母を探し、9歳になった彼女は小学校に通いながら自立へ向けた心の準備を始める。
本作を監督した三浦淳子さんは、会社員として忙しく働いていた8年前、偶然ここの子供達を見て 「ただ生きている事が、かけがえのない事だと実感した」という。 暗い過去を背負い、つかの間の平穏に身を委ねながらも、互いに助け合い働き、遊んでいる子供達の瑞々しい姿が印象的な作品だ。

2008年/日本/138分/PG-12/配給:ゴー・シネマ/©2008 映画「闇の子供たち」製作委員会

タイトル:
闇の子供たち
上映場所:
渋谷TOEI1
上映期間:
2009年1月17日〜2009年2月13日
18:40
監  督:
阪本順治
出  演:
江口洋介、宮崎あおい、妻夫木聡、佐藤浩市、鈴木砂羽、豊原功補、プラパドン・スワンバーン、プライマー・ラッチャタ

2008年/日本/90分/配給:パンドラ/©tristellofilms

タイトル:
空とコムローイ 〜タイ、コンティップ村の子どもたち〜
上映場所:
ユーロスペース
上映期間:
2009年1月31日〜
10:30
監  督:
三浦淳子




『ミツバチのささやき』より 1973年/99分

また、同じくユーロスペースにて回顧上映中の1973年公開作『ミツバチのささやき』は、スペインの映画監督ビクトル・エリセの長編第1作。舞台は内戦終結直後の1940年スペイン。巡回映写で映画「フランケンシュタイン」を見た少女アナが、姉イザベルに、フランケンシュタインは実際に村のはずれの一軒家に隠れていると聞いて、その話を信じ込む、というストーリーだ。妹に嘘を教えて遊ぶ9歳のイザベルと、姉の言葉を信じ込む6歳のアナ。そしてとうとう、アナは井戸のある家でフランケンシュタインを発見する。 一見リアリティのない設定なのに、圧倒的な説得力で見るものを動揺させる本作。それは、アナの真っ黒で大きな瞳が、まるで真実を探し出すかのように、あまりにもまっすぐに前を見据えているせいだ。頭の中でどれだけ論理的な言い訳を並べようとも、強く「信じる」ということ以上に説得力を持つことはない。アナの瞳を観ていると、子供だった自分が「信じる」気持ちを忘れ「虚構」を「現実」と打算的に区別して生きて行くようになったのは一体いつ頃だったのか、思いを馳せずはいられない。

『エル・スール』より 1983年/95分

タイトル:
ミツバチのささやき/エル・スール
上映場所:
ユーロスペース
上映期間:
2009年1月24日〜2009年2月13日
1/24(土)〜1/26(月)
『ミツバチのささやき』12:20/16:40
『エル・スール』14:30/18:50
1/27(火)〜1/30(金)
『エル・スール』12:20/16:40
『ミツバチのささやき』14:30/18:50
1/31(土)〜2/6(金)
『ミツバチのささやき』21:00
2/7(土)〜2/13(金)
『エル・スール』21:00
監  督:
ビクトル・エリセ

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