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東京都写真美術館では、近代写真家・中山岩太の回顧展『甦る中山岩太 モダニズムの光と影』が、間もなく会期終了を迎える。中山は、1918年に東京美術学校(現・東京藝術大学)臨時写真科を第一期生として卒業し、同年に渡米、1926年に渡仏。ニューヨークでは写真スタジオを開業し、パリでは藤田嗣治やマン・レイと交流を深めながら、欧米から最先端のモダニズム写真を吸収した人物だ。日本に帰国後は、1930年に「芦屋カメラクラブ」を結成し、同年「東京第一回国際広告写真展」で一等賞を受賞、1932年には木村伊兵衛らとともに写真雑誌『光画』を創刊。今回の展覧会は、モダニズム表現を吸収、展開、オリジナルへと昇華させていった中山岩太の作品110点を、学生時代〜ニューヨーク〜パリ〜「芦屋カメラクラブ」〜遺作まで年代順に展示したもので、戦前日本の近代写真の変遷も伺い知ることができる。

「蝶(一)」 1941年

そして『甦る中山岩太 モダニズムの光と影』のもう1つの見所は、中山自身の手によるオリジナル・プリントに加え、新たにゼラチン・シルバーによるモダンプリントが制作、展示されている点。これは、近年になって中山作品のガラス乾板が再発見されたことに加えて、フィルム写真の危機が叫ばれている今日、歴史的遺産ともいうべき写真原板をいかに後世に伝えていくかという問いかけに対する写真美術館のひとつの答え。
今回は、この中山岩太展をきっかけに、デジタル入力・加工・出力がメジャーになりつつある現代におけるアナログ写真の魅力を改めて探ってみたい。
戦前の近代写真は、中山の帰国から急激に広がり、1930年代後半には先鋭化。シュルレアリスムや抽象絵画の影響を受け、カメラやフィルムといった装置そのものへの探求を深めた前衛的な写真表現として発達していった。1941年に撮影された「蝶(一)」は、暗室でのフィルムの現像の途中に、過度に光を当てることで、モノクロの写真の白と黒を反転させる「ソラリゼーション」という技法を用いて制作された作品。

「デモンの祭典」 1948年

ポジ像とネガ像の交錯に、現実と幻想が入り混じった超現実的な感覚が漂う。
また、53歳で脳溢血に倒れる前年1948年に制作された遺作「デモンの祭典」は、女性、タツノオトシゴ、貝殻など、それぞれ別々に撮影された写真をくりぬいて並べ、一枚のプリントとして撮影。「フォトモンタージュ」と呼ばれる特殊技法である。
当時「前衛」と呼ばれたこれらの特殊な写真技術は、今日では、フォトショップなどのデジタルソフトを用いて簡単に再現できるもの。しかし、撮影〜現像といった一連の作業で、過度に暗室を露光させたり、元の写真を切ったり貼ったりという、新たな表現を探ったこれらの作品とデジタル加工は、表現は同じでも全く意味が異なるもの。飾られた写真からびんびんと伝わってくる緊張感を再現することはできない。


画像:「福助足袋」 1930年

タイトル:
甦る中山岩太 モダニズムの光と影
開催場所:
東京都写真美術館
開催期間:
2008年12月13日〜2009年2月8日
10:00〜18:00
※木・金は20:00まで
※入館は閉館の30分前まで
作  家:
中山岩太



no.2334 「あさがお」 439x332mm(イメージサイズ)2008年制作

また、「前衛写真」が現在に受け継がれ、独自の味わいを獲得した作品を並べる展覧会が、2月3日(火)からギャラリエアンドウにて開催されている『坂田峰夫展』である。坂田が用いるのは、「フォトグラム」という特殊技法。カメラを使わずに、印画紙の上に直接モチーフを置いて感光させることで、置いたモチーフの形が白く残る。その印画紙を、そのまま作品とするものだ。 坂田は、マン・レイや瑛九といった前衛作家の作品で有名なこの技法をもとにして、モチーフに花を用いる。薄い花びらは、強い光を当てることで光を通す。坂田の作品では、フォトグラムを用いて印画紙には花びらのシルエットが白い像として残される一方で、透過した光が花びらのディティールをグレーの濃淡で浮かび上がらせる。完成品は、暗闇に浮かび上った透明感溢れる白い花の写真のようにみえる。しかしそこに写る花の姿は、実際に用いられたモチーフとはまるで見た目の異なる存在。この、モチーフと画像との曖昧な関係が、花の持つ「表面的な美しさだけでない、内側の微妙なバランス」(坂田さん談)を伝え、坂田の写し出す作品には独特の存在感と美しさが漂う。
フォトグラムはネガを持たないため、通常の写真のように複製することはできない。複製できない手法で、手作業の感光で仕上げられていく作品を、坂田は水墨画に例えている。
1993年頃から、「趣味の気持ちで始めた」(坂田さん談)というフォトグラムだが、ギャラリエアンドウでの『坂田峰夫展』は、好評だった2006年に引き続いて今回が2回目となる。「1度見て、あまりにも美しく、強烈な印象で忘れられなくて、今回見に来ました」という声もあがっているとのことだが、デジタル複製が安易に繰り返される現代にあって、「一回性」や「オリジナル」が作品に求められるのは、むしろ必然なのではないかと思えてならない。

no.2343 坂田峰夫 Mineo SAKATA 「ポピー」439x425mm (イメージサイズ)2009年

タイトル:
坂田峰夫 展
上映場所:
ギャラリエ アンドウ
開催期間:
2009年2月3日〜2009年2月21日
11:30〜19:00
※日曜・月曜は休廊
作  家:
坂田峰夫




no.8339「タイツリソウ」343x422mm (イメージサイズ) 2006年 制作


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