
春に向けて新作映画が続々と公開を迎えている。今回は、植物が芽吹き始める季節に先駆けて、映画監督としてデビュー作を公開する3人の映画監督をピックアップ。長編映画の初監督、初公開という条件は同じながら、完成作には既にそれぞれのオリジナリティが刻み込まれた3作。その独自性を楽しみながら、彼らの今後の展開を占いたい。

©2009「ララピポ」製作委員会
同題の原作は、『空中ブランコ』で直木賞を受賞した人気作家、奥田英朗によるもの。鋭い人物描写と巧みな構成力が魅力の奥田作品の中でも、『ララピポ』は特に登場人物のキャラクターの濃さが際立つため、「突出した傑作」と評するファンも多い。そんな話題作に宮野監督が抜擢されたのは、本作で脚本を担当した中島哲也の指名があってのことだという。『パコと魔法の絵本』のヒットも記憶に新しい中島監督は、本作上映にあたって、「ギリギリの人生を送る人々の物語は、‘ギリギリの年収で生きる’監督にしか描けない」とコメント。宮野監督は、『下妻物語』(2004)以来、中島哲也と長年現場を共にした人物で、長い下積み生活を生き抜いた「ウェットな情感」が、彼の持ち味にもなっているという。中島ゆずりの軽快さと、「ギリギリ」故のウエットさが絶妙に混じり合い、独特の風合いに仕上がった本作。「森三中」の村上知子や「大人計画」の皆川猿時など、個性溢れる傍役たちにも注目である。

2009年/日本/94分/配給:日活/©2009「ララピポ」製作委員会

©2007 Sundream Motion Pictures Limited
これまで、ジョン・ウーやジョニー・トーに代表される刑事犯罪を取り扱った香港映画は、香港ノワールと呼ばれ、権力闘争や友情、体当たりの狙撃戦など、「男の美学」を追求してきた。そんな男臭さ一色の舞台の中心に、さりげなく女性を加えてみせるナイホイ。彼の登場が、今後の香港ノワールに新たな魅力を付け加えていくことを期待したい。

2007年/香港/90分/配給:トルネード・フィルム/©2007 Sundream Motion Pictures Limited

©Les Films des Tournelles - Les Films de Beyrouth - Roissy Films - Arte France Cinema
内戦やイスラエル軍の侵攻などで、今なお政治情勢の混乱するレバノン。これまでも、レバノン映画のほとんどは、政治や戦争を扱ったものだった。
しかし本作は、そんな状況において、あえてレバノンの「日常」にスポットを当てる。登場するのは、主演を兼任したラバキーを含め、20代から60代までの5人の女性たちで、それぞれ、キリスト教とイスラム教、西洋と東洋の間に挟まれて、恋愛・結婚・セックスの選択に思い悩む。そんな彼女たちが、「美しくあること」を求めてエステサロンに集まり、おしゃべりに花を咲かせるながらつかの間の安らぎを得るという本作。親しい女同士で集まったときの、生き生きとしたあの感じは万国共通。そんな共感を伝える作品として、『キャラメル』は普遍性を獲得し、いつしか「レバノン映画」というレッテルは忘れ去られる。
本作は、レバノン公開当時、6ヵ月間のロングランヒットを飛ばし、アカデミー賞外国映画賞のレバノン代表にも選ばれている。 対立の多いレバノンを舞台にしながら、プロパガンダでも反戦映画でもない『キャラメル』。徐々に変化を迎えつつあるレバノン映画の今後を、ラバキーの活躍と共に楽しみにしたい。

2007年/レバノン・フランス/96分/配給:セテラ・インターナショナル/©Les Films des Tournelles - Les Films de Beyrouth - Roissy Films - Arte France Cinema

©Les Films des Tournelles - Les Films de Beyrouth - Roissy Films - Arte France Cinema