レコメンド 今週、編集室が推薦するカルチャー

今回は、渋谷で開催中のイベントの中から、今後の飛躍が期待される実力派作家たちの写真展をピックアップした。それぞれの追うテーマは一見異なるけれど、しかし彼らの展示の共通項は、自分自身の「家族」。桜が満開のピンクで門出を演出し、何となく浮き足立つこの季節にこそ、自分自身の姿をしっかりと足下から見つめ直すチャンスをもたらしてくれる。

選挙カーに乗る浅田家

パルコ・ファクトリーでは、4月27日まで、第34回木村伊兵衛写真賞の受賞作家浅田政志の作展『「浅田家」 〜あなたもシャッター押してみて』が開催中だ。
展示されているのは、浅田本人の家族が総出演してのシュチエーションセルフポートレート集。浅田氏は、2000年に日本写真映像専門学校を卒業後、2002年より「浅田家」シリーズの展示を継続して行い、2007年に写真家として独立、2008年に写真集『浅田家』を刊行した。「自ら記念をつくていく記念写真」と浅田氏がコメントするように、「浅田家」は、浅田氏の母、父、兄が、集まるスケジュールを組み、場所や衣裳、シーンをみんなで考えて撮影される。あるときは消防士になりきった浅田家、あるときは選挙カーに乗り込んだ浅田家と、「家族」とは無縁のシチュエーションに身を置いた浅田家が、「仲良く」ポーズをとる姿が楽しい。
カメラが、フィルムからデジタルへと替わり、身近で便利な存在へと変化してきた中で、撮影のために家族で記念日を作るという逆転的な行為は、失われた「カメラの非日常性」を伝えるばかりでなく、「家族のあり方」を改めて問い直す。
作品を見終わった後、ふと自分の家族に電話したくなるのは、私だけだろうか?

消防士になった浅田家

タイトル:
浅田政志写真展「浅田家」 〜あなたもシャッター押してみて
開催場所:
PARCO FACTORY
開催期間:
2009年4月3日〜2009年4月27日
10:00〜21:00
※会期中無休

※入場は閉場の30分前まで ※最終日は18:00に終了

温泉を楽しむ浅田家

≪HIROKO≫ 2001年 東京都写真美術館蔵©Yanagi Miwa

東京都写真美術館では、5月10日まで、本年度のベネチア・ビエンナーレ日本館での展示も決定している写真家やなぎみわの個展「やなぎみわ マイ・グランドマザーズ」が開催されている。
やなぎ氏は、寓話で語り継がてきた女性像や、現代社会における個々人の問題意識に焦点を当てる作品を制作し続けている写真家。今回公開されるのは、若い女性が思い描く50年後の自分自身の姿を撮影した作品集「My Grandmothers」である。背景、服装、表情に至るまで、作家と被写体が対話を繰り返しながら生み出したこの作品集には、想像した将来の姿についてのテキストも添えられる。
未体験の「老後」は「若い」自分にとって無関係な世界であり、一方でそんな若い自分自身の延長線上にしかあり得ない世界。
様々な女性たちの想像と現実の入り混じった写真を眺めながら、自分自身の50年後を想像すると、気がつくと50歳年の離れた自分の祖母の姿さえ身近に感じられてくるから不思議である。

《YUKA》2000年 作家蔵©Yanagi Miwa

タイトル:
やなぎみわ マイ・グランドマザーズ
上映場所:
東京都写真美術館
上映期間:
2009年3月7日〜2009年5月10日
10:00〜18:00
※木・金は20:00まで
※入館は閉館30分前まで
※月曜休館日(ただし5/4を除く)




≪AI≫ 2003年 原美術館蔵 ©Yanagi Miwa


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