レコメンド 今週、編集室が推薦するカルチャー

「アート」と聞くと、自分には理解できない世界のことだと思ったり、また「アーティスト」を特別な人物だと考える人も多いだろう。7月の渋谷では、私たちに新しい視点を与え、元気づけてくれる作品を生む「人物たち」に焦点を当てたドキュメンタリーが続々と公開される。ある者は皮職人として作品作りを極め、またある者は膨大で多様な音楽作りを通して「アート」の真髄を探り、さらにある者は道ばたで披露するものだった大道芸を使って世界中の人々を驚愕させる。
今回は、ドキュメンタリーという手法で彼らの日常に迫った3本の映画をピックアップ。それぞれの道で、一際異彩を放つ彼らの何気ない振る舞いや素の発言に触れることで、もっともっと「アート」を身近に楽しむための手助けにしてみては?

作品A テキストてきすと

タイトル
イサム・カタヤマ=アルチザナル・ライフ
上映場所
シネマライズ
ライズエックス
上映期間
シネマライズ
2009年7月25日〜2009年8月7日
21:20
ライズエックス
2009年8月8日〜
11:00/13:05/15:10/17:15/19:20
監  督
牧野耕一
出  演
片山勇、THE ANONYMOUS、谷中敦(東京スカパラダイスオーケストラ) 、GAMO(東京スカパラダイスオーケストラ)、田中知之(FANTASTIC PLASTIC MACHINE)、熊谷和幸(ATTACHMENT)、濱中三朗(ror)、高原啓(Roen)

R2C2(アールツーシーツー)〜サイボーグなのでバンド辞めます!〜

2009年/日本/96分/配給:トルネードフィルム/© 2009 BACKLASH AMENICAM

シネマライズでは、7月25日から、カリスマレザーデザイナー片山勇氏の実像に迫るドキュメンタリー「イサム・カタヤマ=アルチザナル・ライフ」を上映する。
1965年広島生まれの片山氏は、独自の手法で皮に「手染め」や「複雑な加工」を施しながら、皮の特性を生かした新たなレザーウエアの可能性を探求するレザーブランド「BACKLASH」のカリスマデザイナー。作業場やショップ、酒場での片山氏を追いながら、妥協を許さない仕事ぶりから仲間たちと過ごす飾らない時間までを捉えた同作は、華やかな舞台で活躍するアーティストらに絶大な支持を得る無名の「アルチザン」(=職人)片山氏の実像をあぶり出す。レザーに命をかけた40代男の生き様は、レザーへの興味に関わらず私たちを熱くする。

作品B テキストてきすと

タイトル
KIKOE
上映場所
ユーロスペース
上映時間
2009年7月25日〜2009年8月14日
21:10
監  督
岩井主税
出  演
大友良英、菊地成孔、大谷能生、DJスプーキー、ヤン・シュヴァンクマイエル、宇波拓、Mattin、飯村隆彦、足立正生、ジョナス・メカス、田中泯、山本精一、PHEW、ジム・オルーク、巻上公一 他多数

鈍獣

2009年/日本/99分/配給=スローラーナー

ユーロスペースでは同25日から、音楽家大友良英をモチーフに現代の音楽シーンを捉えたドキュメンタリー「KIKOE」が公開される。
1959年生まれの大友氏は、大音量のノイズから微音量のサインウェーブまでの作曲・演奏活動に加え、音楽プロデュースや映画音楽の制作などでも幅広く活躍する現代音楽家。2005年から2007年までの大友氏の音楽活動を追いながら、大友氏と交流のあるアーティストなど約100人へのインタビューを敢行した同作では、ミュージシャンのジム・オルークや舞踏家の田中泯、映画監督のヤン・シュヴァンクマイエルなど豪華かつ個性的なアーティストたちが登場する。大友氏の演奏に加え、その周辺で活躍する多くのアーティストたちの言葉から「音楽とは何か」を模索する同作は、大友氏のドキュメンタリーでありながら、監督岩井主税氏による音楽を巡る「音」と「言葉」をコラージュしたビデオアート作品でもあるようだ。

作品C テキストてきすと

タイトル
マン・オン・ワイヤー
上映場所
シアターN 渋谷
上映時間
2009年7月11日〜2009年7月31日
11:00/13:00/15:00/17:00/19:00
監  督
ジェームズ・マーシュ
出  演
フィリップ・プティ、 ジャン・ルイ・ブロンデュー、アニー・アリックス他
音  楽
マイケル・ナイマン、ジョシュア・ラルフ

インスタント沼

2008年/イギリス/95分/配給:エスパースサロウ/©2009 espace sarou.

シアターN渋谷では、大道芸人フィリップ・プティ氏の「綱渡り」を振り返るドキュメンタリー「マン・オン・ワイヤー」が公開中だ。
1949 年フランス生まれのプティ氏は、街角でジャグリングや一輪車などを行う大道芸人だったが、1971年、パリのノートルダム大聖堂で綱渡りを敢行したのを皮切りに、シドニーのハーバー・ブリッジ、パリのポンピドゥーセンターなど世界の「有名建物」で次々と綱渡りして人気を博す。同作は、プティさんが1974年にNYのワールドトレードセンターのツインタワーを「無断」で綱渡りし、警察に連行されるまでを振り返るドキュメンタリー。実行へ向け綿密な計画を立てる段階から、綱の上での45分に渡る優雅なウォーキング、警察に連行される様子などを捉えながら、危険を冒してもなお建築綱渡りへ挑み続けるプティ氏の姿が、世界中の人々を魅了してやまない由縁を伝える。「なぜこんな危険なことをするんだ?」という質問に「人生はエッジの上を歩かなくては意味がないだろう?」と答えるのプティ氏は綱渡りは、音楽や演劇などと同じく、美や自由を表現した「芸術」なのかもしれない。

© 2009 espace sarou.


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