レコメンド 今週、編集室が推薦するカルチャー

秋分を迎え、センター街を闊歩するギャルのファッションは、次第にサンダルからブーツ、ノースリーブから長袖スタイルに変わりつつある。振り返れば、今夏の渋谷では、代々木公園を拠点にブラジル、タイ、スリランカ、インドなどの観光PRを目的とした野外フェスティバルが盛んだった。直に足を運び、そうした国々の伝統や食文化に触れたという人も多かったに違いない。では、幾分気温が落ち着いてきた渋谷の秋はどうだろうか? 場所を「野外」から「屋内」に移しつつも、引き続き、異国の歴史や文化を感じることの出来る「キューバ映画祭2009」「ブラジル映画祭2009」「ケベック映画祭2009」が立て続けに開催される。

 革命直後に映画産業がスタートして50年の節目を迎えるカリブ海の島国「キューバ」と、白人、黒人、黄色人と様々な民族文化が混在する文化的背景のもとにサンバやボサノバなど独自の音楽を発展させた「ブラジル」のラテンアメリカの2国。さらにアングロ・サクソン系の多い北米の中でフランス系移民が集まり、フランス語を公用語に独自の文化を発展させてきた州「ケベック」。南北に分かれる広大なアメリカ大陸の地で暮らす住人たちの独特の衣食住を伝える映画群を通して、夏の野外フェスとは違った異文化事情を楽しみたい。

映画祭が伝える異文化事情×キューバ

タイトル
キューバ映画祭2009
施 設 名
ユーロスペース
開催期間
2009年9月26日〜2009年10月9日
上映時間
公式HP参照
上映作品
『12の椅子』(監督:トマス・グティエレス・アレア/1962年)、『ある官僚の死』(監督:トマス・グティエレス・アレア/1966年)、『シュガー・カーテン』(監督:カミラ・グスマン・ウルスーア /2005年)、『恋人たちのハバナ』(監督:アレハンドロ・ブルゲス/2006年)ほか
詳  細
キューバ映画祭2009公式サイト

キューバ映画祭2009

『12の椅子』(1962年、監督:トマス・グティエレス・アレア)


「ユーロスペース」では現在、日本とキューバの外交樹立80周年を記念して、日本未公開7作品を含むキューバの名作を一堂に集めた映画祭「キューバ映画祭2009」を開催している。
1959年の革命までハリウッド映画に浸食されてきたキューバ映画界は、革命勝利後3ヶ月で映画芸術産業庁を設立、1986 年にはラテンアメリカ初の映画学校「国際映画テレビ学校」を設立して、現役の映画監督たちを教師に第三世界の若者に映画製作への門戸を開いている。
今回は、「苺とチョコレート」「永遠のハバナ」「低開発の記憶」などキューバ映画史に残る長編名作4本を筆頭に、昨年ドイツでデジタル・リマスターされた巨匠トマス・グティエレス・アレア監督の日本未公開2作品(「ある官僚の死」「12の椅子」)、現在のキューバを映し出す若手インディペンデント監督作品2本(「シュガー・カーテン」「恋人たちのハバナ」)、国際映画テレビ学校の「ガルシア=マルケスのシナリオ教室」作品からセレクトしたファンタジックな3本に加えてアニメから音楽までを含んだ短編作品までを紹介。何があってもしぶとく生き続けるキューバの人々の魅力を、60年代の名作から現代までの幅広い作品を通して伝える。

映画祭が伝える異文化事情×ブラジル

タイトル
ブラジル映画祭2009
施 設 名
渋谷シアターTSUTAYA
開催期間
2009年10月3日〜2009年10月10日
上映作品
『ミステリー・オブ・サンバ〜眠れる音源を求めて』(監督:カロリーナ・ジャボール、ルラ・ブアルキ・デ・オランダ /2008年)、『続・逆転夫婦!?』(監督:ダニエル・フィーリョ/2008年)、『星の導き』(監督:カルロス・アルベルト・ヒチェッリ/2007年)ほか
詳  細
ブラジル映画祭2009公式サイト

ブラジル映画祭2009

「続・逆転夫婦!?」(2008年、監督:ダニエル・フィーリョ)


「渋谷シアターTSUTAYA」では10月3日から7日間、ブラジル文化に対する認知度向上と、日本とブラジルとの文化交流を目指す映画祭「ブラジル映画祭2009」を開催。
会場では、ブラジルで600万人の観客動員記録を樹立してブラジル近代映画最大のヒット作となったコメディ「続・逆転夫婦!?」(2008年)、リオの名門サンバチーム「ポルテーラ」の年長者たちをブラジルの歌姫マリーザ・モンチがインタビューするドキュメンタリー「ミステリー・オブ・サンバ〜眠れる音源を求めて」(2008年)、南米最大都市サンパウロで生きる女性の心情や孤独に悩む人間模様を描いた「星の導き」(2007年)の3作を日本初公開。またブラジル音楽界で最も重要な作曲家・歌手であるカルトーラの人生に焦点を当てた音楽ドキュメンタリー「カルトーラ」(2007年)など、過去に上映し好評だった7作品に、ブラジルをテーマに日本人が制作した2作品(「私は幸せ」(2008年)「ペルティフィカンド」(2009年))も併映する。
ブラジル音楽ファンヘ向けた音楽ドキュメンタリー映画を主軸に、世界中の多様な文化と民族が混合したブラジルの姿を12本の作品を通して明らかにする。

映画祭が伝える異文化事情×ケベック

タイトル
ケベック映画祭2009
施 設 名
シネマ・アンジェリカ
開催期間
2009年9月26日〜2009年10月9日
上映作品
『生きるために必要なこと』(監督:ブノワ・ピロン/2008年)、『ママは美容院です』(監督:レア・プール/2008年)、『忘却の彼方』(監督:ドゥニ・アルカン/2007年)ほか
詳  細
ケベック映画祭2009公式サイト

ケベック映画祭2009

『忘却の彼方』(監督:ドゥニ・アルカン/2007年)


シネマ・アンジェリカでは、カナダ東部に位置するケベック州にスポットを当てた映画祭「ケベック映画祭2009」を開催中。ケベックはフランス語を公用語に定め、独自の文化や芸術・エンターテイメントを育む地域。州を代表する都市モントリオールは、「モントリオール世界映画祭」が開催されるほか、数多くの映画関連企業がある「映画の街」。「ジュラシックパーク」「マトリックス」など多くの映画用特撮・CGも同地で制作された。同映画祭では、第81 回アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされた「生きるために必要なこと」など日本初公開15 作品に、「天国の青い蝶」「木を植えた男」で世界に知られるアニメーターのフレデリック・バック監督作品など6作品を加え、全21作品を一挙上映。
1952 年、イヌイットの猟師を主人公にした映画「生きるために必要なこと」は、ケベックの街での孤⽴感、現代と伝統、そして友情を描く監督ブノワ・ピロン初の⻑編フィクション。また、2008 年カンヌ国際映画祭コンペティション部⾨外特別招待作品「忘却の彼方」は、反家庭的な妻、反抗期の娘、瀕死の母にフラストレーションを与え続けられる男が、妄想で様々な女性を征服していくという、ドゥニ・アルカン監督の作品。ケベック独特のアクセントが溢れるせりふ回しも特徴。
調布の「調布市文化会館」との2会場を拠点に、連動生きる喜びと悲しみ、生命の切なさを心に刻み込む映画祭に注目したい。


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