レコメンド 今週、編集室が推薦するカルチャー

最近日本でも、「親が子を虐待する」とか「通り魔殺人」とか、相手の気持ちを想像したり、気遣ったり、愛したりという人間らしい「心」が欠落してしまったような事件が増えているように感じる。「隣の人が突然襲いかかってきたらどうしよう?」「電車を待っていていきなり突き飛ばされたらどうしよう?」などと想像が膨らみ、言いようのない不安に襲われる人も多いのでは?自分と同じ「人間」が、自分の理解できない行為に走るのはとても怖い。それは、相手が自分と同じ存在だという「人間らしさ」に対する共感・信頼がどんどん失われていってしまうから。「人間ってなんだろう?」「人間って怖いの?」

現在渋谷の映画館では、血の通っていないはずの「人形」「ロボット」「アニメ」などに人間ならではの「ぬくもり」をにじませる作品が公開されている。リアルな自分=「人間」と少し距離をあけることで見えてくる「人間らしさ」。今回はその魅力を客観的に感じることで、あらためて人間の温もりのありがたさを探ってみたい。

人間性って何だろう?×人形の恋

タイトル
空気人形
施 設 名
シネマライズ
開催期間
2009年9月26日〜
上映時間
〜10/30(金)
(9:20)/11:50/14:20/16:50/19:20
※9:20の回は土・日のみ上映
10/31(土)〜
11:20/14:00/16:40/19:10
監  督
是枝裕和
出  演
ペ・ドゥナ、ARATA、板尾創路、高橋昌也、余貴美子、岩松了、星野真里、丸山智己、奈良木未羽、柄本佑、寺島進、オダギリ ジョー、富司純子

空気人形

2009/日本/配給:アスミック・エース/©2009『空気人形』製作委員会/写真=瀧本幹也


シネマライズで公開中の「空気人形」は、アパートに置かれた空気人形が「心」を持ち外の世界へと歩き出していく、漫画家業田良家の「ゴーダ哲学堂 空気人形」を原作にしたファンタジー。「誰も知らない」「歩いても 歩いても」などで知られる是枝裕和監督の最新作で、主人公・空気人形を韓国の人気実力派女優ペ・ ドゥナが演じて話題を呼ぶ。人形はまさに人形そのものの様子からスタートし、洋服を着て靴を履き、街へと歩き出す過程を経て徐々に血の通った人間のような表情をみせるように…。是枝監督が同作映画化を決めたのは、漫画にあった「空気が漏れて、空気人形がしぼんでしまい、好きな人の息でふくらませてもらう場面」だという。「膨らます」という人形だからこその設定を「官能的」と称する監督。恋をして「心」を持ち始めた空気人形の、キラキラとした生命力に魅了されたい。

人間性って何だろう?×ロボットの合体

タイトル
ロボゲイシャ
施 設 名
シアターN 渋谷
開催期間
2009年10月3日〜2009年10月30日
開催時間
13:30/16:00/18:30/21:00
監  督
井口昇
出  演
木口亜矢、長谷部瞳、斎藤工、志垣太郎、松尾スズキ、竹中直人、生田悦子、くまきりあさ美、中原翔子、亜紗美

ロボゲイシャ

2009/日本/配給:角川映画/© ロボゲイシャ製作委員会2009


シアターN 渋谷では今月末まで、芸者スタイルの暗殺マシーンをテーマにした妄想活劇「ロボゲイシャ」を公開している。同作は、アメリカからの逆輸入によって大ヒットを記録した「片腕マシンガール」の井口昇監督が手掛けたアクション映画。美しい芸者の姉・菊奴の付き人だった冴えない少女・ヨシエが、殺人芸者マシーンへと改造され、完全機械化された姉と闘うという愛憎劇。「コンプレックスの塊みたいな気の弱い女の子がロボットになることによって成長する『女の子版スパイダーマン』みたいな話にしたかった」と井口監督。ロボットならではの姉妹の「合体」描写では、姉妹の「愛」がテーマとなった。

人間性って何だろう?×躍動する<ヒト>表現

タイトル
ライアン・ラーキン 路上に咲いたアニメーション
施 設 名
ライズエックス
開催期間
2009年9月19日〜
上映時間
12:00/13:55/15:50/
17:45/19:40
監  督
ライアン・ラーキン、クリス・ランドレス、ローレンス・グリーン、ローリー・ゴードン

ライアン・ラーキン 路上に咲いたアニメーション

2008/カナダ/配給:トランスフォーマー /トルネード・フィルム/画像=『ウォーキング』より©1968 National Film Board of Canada.


ライズエックスでは、2007年に逝去した伝説のアニメーション作家ライアン・ラーキンの特集上映「ライアン・ラーキン 路上に咲いたアニメーション」を公開中。若き天才と称されながら成功と創作へのプレッシャーに追い詰められてホームレスとなったライアン。25歳でアカデミー賞にノミネートされるなどライアンの名を世界へ広げたアニメ「ウォーキング」は、アニメーターにとっては初歩的な訓練の1つでしかない「人々の歩く姿」にフォーカスし、歩く・飛び跳ねる・回る・走るなどの動きを、解剖学的に分析、「純粋に、動くことが持っている歓び」へと抽象的に昇華させた傑作。実写では表現できない「人」という対象の真髄を、アニメーションを通して知らしめる同作は、ラフでありながら(水彩絵具が残す紙のシワが非常に生々しい)、どきりとさせられるほどにリアルでもある。


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