レコメンド 今週、編集室が推薦するカルチャー

今年3月に、第82回アカデミー賞が発表された。注目を集めたのは、ジェームズ・キャメロン監督による「アバター」と、「ハートブルー」「K-19」などでも知られるキャスリン・ピグロー監督の「ハート・ロッカー」。前者は未来を舞台に、現実世界と別の惑星との攻防を迫力のある3D映像で取り上げた作品で、後者はイラクを舞台に駐在中のアメリカ兵を描いた作品。どちらも戦争をテーマに取り扱い、もともと夫婦だった両氏の戦いということでアカデミー賞でも大きな話題となった。最終的には「ハート・ロッカー」が作品賞を始めとした6部門を制し、史上初の女性による監督賞も受賞。派手な銃撃シーンではなく、「地味」とも言える爆弾処理班の姿にフォーカスした同作が、アメリカ映画として最大の評価を受けた結果だ。
リーマン・ショックを経て、初の黒人大統領が擁立されるなど、ここ10年で激変を遂げているアメリカ。なぜ、いまアメリカでこれほどまでに「戦争映画」に注目が集まるのか?過去の過ちについての反省か?それとも自己弁護か?
今回のリコメンドでは映画「ハート・ロッカー」に加え、兵士に志願するアメリカの若者たちの姿を追ったドキュメンタリー「ONE SHOT ONE KILL 兵士になるということ」をピックアップし、今なお武力闘争が継続するイラク戦争が取り巻く現状について考えてみたい。さらに石油やダイヤモンドの資源争奪など、先進国の介入から戦争に巻き込まれる第三世界の子どもたちを見つめながら、現在の戦争映画の系譜について多方面から捉えてみたい。

戦争映画×爆弾処理班

タイトル
ハート・ロッカー
上映場所
渋東シネタワー
上映期間
2010年3月6日〜
上映時間
〜4/22(木)
14:30/17:25/20:20
4/23(金)〜4/30(金) 20:00
※5/1(土)以降の時間は劇場まで
監  督
キャスリン・ビグロー
出  演
ジェレミー・レナー、アンソニー・マッキー、ブライアン・ジェラティ

ハート・ロッカー

2008/アメリカ/配給:ブロードメディア・スタジオ©2008 Hurt Locker, LLC. All Rights Reserved.


渋東シネタワーでは、第82回アカデミー賞で作品賞に輝いた話題作「ハート・ロッカー」を公開中。同作は、イラクを舞台にアメリカ軍爆弾処理班を描いた戦争アクション。ストーリーとキャラクターはフィクションだが、イラクにおける米軍兵士の戦死理由の半分以上が「爆弾」であり、爆発物の処理に携わる技術兵の死亡率ははるかに高いという現実を踏まえ、脚本のマーク・ボールさんが現地で目の当たりにした事実を随所に盛り込んだ内容にリアリティが溢れる。多様なシチュエーションの爆弾処理シーンを全編に散りばめた斬新な構図で、アブノーマルな極限状況がすっかり日常化した戦争の実態を紹介する。

戦争映画×民間人から兵士へ

タイトル
ONE SHOT ONE KILL 兵士になるということ
上映場所
UPLINK FACTORY
UPLINK X
上映期間
2010年4月10日〜
上映時間
(F)12:30
(X)15:00/18:50
監  督
藤本 幸久

ONE SHOT ONE KILL

2009年/日本/108分/配給:影山事務所/©影山あさ子


「UPLINK FACTORY」「UPLINK X」で公開中の「ONE SHOT ONE KILL 兵士になるということ」は、「アメリカばんざい−crazy as usual 」「アメリカ−戦争する国の人びと」などを手がける日本人のドキュメンタリー作家藤本幸久さんの作品。同作では、海兵隊を志願した若者が、12週間のブートキャンプを経てアフガニスタンやイラクなどの前線へ至る過程を紹介する。「世界で一番豊かな国の若者たちは、なぜ兵士になるのだろうか…」この問いを抱えて、育成プログラムにカメラを向けた藤本さん。作中では、参加者に志願動機を聞き出し、睡眠時間も制限された条件下で彼らが一人の若者から、リクルート(新兵)、マリーン(海兵隊員)へと変容していく様子が刻々と映し出される。
年を取ることもかっこいいし、死ぬことだって怖くない…自然とそんな風に思わせてくれる彼らに、どんなミュージシャンにも負けない強い魂を感じるのは、きっと私だけではないはず。

音戦争映画×戦争ゲーム

タイトル
ジョニー・マッド・ドッグ
上映場所
シアターN 渋谷
上映期間
2010年4月17日〜
上映時間
〜5/14(金)
11:00/13:00/15:00/
17:00/19:00/21:10
5/15(土)〜
11:00/13:00/15:00
/17:00/19:00
監  督
ジャン=ステファーヌ・ソヴェール
出  演
クリストファー・ミニー/デージ・ヴィクトリア・ヴァンディ

ジョニー・マッド・ドッグ

2007/フランス・ベルギー・リベリア/93分/配給:インター・フィルム/©2008 - MNP ENTREPRISE - EXPLICIT FILMS


シアターN渋谷では現在、アフリカの内戦を子どもたちの視点から捉えた劇映画「ジョニー・マッド・ドッグ」を公開している。ワールドカップを控えて盛り上がるアフリカ大陸だが、現在も尚各地で紛争がはびこっている。その紛争の大きな要因の一つが、先進国による石油などの資源をめぐっての争奪代理戦争。同作は、コンゴ共和国出身のエマニュエル・ドンガラさんの小説「狂犬ジョニー」を原作に、少年兵のコマンド部隊の攻防を捉えた作品。2度の内戦で国内が荒廃したリベリアを舞台に、作中では戦場で実際に殺人を犯した経験をもつ子供たちが俳優として登場する。彼らは、殺人・死に対する自覚もないままに司令官に操られ、まるでゲームのように虐殺・強盗・レイプなどを繰り返す。政治的利益をめぐる大人たちの欲望による争いに、子どもたちが巻き込まれている現状…。「フィクションと現実を対峙させながら映画化した」(ジャン=ステファン・ソヴェール監督)という同作に、「忘れられた大陸」とも呼ばれてきたアフリカの実態が抉り出される。


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