レコメンド 今週、編集室が推薦するカルチャー

純愛をテーマに男女の葛藤を切なく描いたTVドラマ「冬のソナタ」が、中高年女性を中心とした多くの人々から支持を得たことをきっかけに沸き起こった「韓流ブーム」。映画界でも「僕の彼女を紹介します」(2004年)、「四月の雪」(2005年)など、恋愛をテーマに男女の葛藤などを複雑に描いた作品がヒットを飛ばし、日本では韓国映画といえばピュアで切ない恋愛映画を思い浮かべる人も少なくないだろう。ところがここ最近では、アクション映画、ヒューマンドラマ、ホラー、ドキュメンタリーなど、幅広いジャンルで数多くの傑作が続々と登場している。こうした背景には映画製作に対して政府が積極的に公的資金援助を行い、映画館に国内作品の上映日数の確保を義務付ける「スクリーンクォータ制」を設けるなど、国をあげて韓国映画を盛り上げようとする動きが次第に実を結び始めているのかもしれない。
今回は恋愛ものに限らず、韓流の魅力に迫る幅広いジャンルの映画をピックアップ。あわせて、韓国の才能が海外へと拠点を広げる例も紹介する。これらの作品を通して、韓国の恋愛映画が好きな人もそうでない人も、既存のイメージにとどまらない韓国映画群の質の高さに驚いてみて欲しい。

韓国映画×新しい才能の息吹

タイトル
息もできない
上映場所
ライズエックス
上映期間
2010年4月24日〜2010年6月18日
上映時間
〜5/28(金)
10:20/19:00
5/29(土)〜6/18(金)
11:10/13:45/16:20/19:00
監  督
ヤン・イクチュン
出  演
ヤン・イクチュン、キム・コッピ、イ・ファン

息もできない

2008年/韓国/130分/配給:ビターズ・エンド、スターサンズ


ライズエックスでは、自主制作にして異例の大ヒットを記録した話題作「息もできない」が公開中。父への怒りと憎しみを抱いて社会の底辺で生きるしか術のなかった男サンフンと、傷ついた心をかくした勝気な女子高生ヨニ。二人の魂の求めあいを息苦しいほどパワフルに描き、ロッテルダム映画祭など世界の映画祭・映画賞で、作品賞、男優賞、女優賞など25を超える賞に輝いた同作は、俳優として活動していたヤン・イクチュンが製作・監督・脚本・編集・主演の5役をこなして完成させた自主制作映画。家を売り払ってまで制作費にあてるなど、多くの困難を乗り越えてのデビュー作について「自分は家族との間に問題を抱えていて、自分の中のもどかしさを、ただ吐き出したかった」とコメントを寄せる監督。一方でヨニの父親はベトナム戦争に派兵された過去を持っている点など、自身の感情を韓国の人々の抱える普遍的な物語として描ききった同作への評価は非常に高い。

韓国映画×知られざる隣国の姿

タイトル
クロッシング
上映場所
ユーロスペース
上映期間
2010年4月17日〜
上映時間
9:50/12:05/14:20/16:35/18:50
監  督
キム・テギュン
出  演
チャ・インピョ、シン・ミョンチョル、ソ・ヨンファ、チョン・インギ、チュ・ダヨン

クロッシング

2008年/韓国/107分/配給=太秦/©2008 BIG HOUSE / VANTAGE HOLDINGS. All Rights Reserved. 


ユーロスペースでは、2002年北朝鮮からの脱北者がスペイン大使館に駆け込んで韓国亡命に成功した「北京駐在スペイン大使館進入事件」をモチーフにした衝撃作「クロッシング」が公開中だ。主人公は、北朝鮮の炭鉱に住む3人家族。病気の妻を救うために脱北を試みる男と、男との再会を信じて国境を目指す息子の姿を追った。作中では、最近北朝鮮を脱出した人々への取材や、実際の脱北者らをスタッフに迎えることで再現した北朝鮮の田舎町も登場。過酷な食料難に苦しむ北朝鮮の人々や、脱北者に待ち受ける厳しい現実をリアルに描き出した同作に、隣国で豊かに暮らす私たちは何を思うだろうか?

韓国映画×俳優陣のアジア進出

タイトル
ソフィーの復讐
上映場所
シネマ・アンジェリカ
上映期間
2010年4月24日〜2010年6月18日
上映時間
〜5/21(金)
15:20
5/22(土)〜
13:00
監  督
エヴァ・ジン 
出  演
チャン・ツィイー、ソ・ジソブ、ピーター・ホー、ファン・ビンビン、ヤオ・チェン、ルビー・リン

ソフィーの復讐

2009年/中国・韓国合作/107分


シネマ・アンジェリカでは、現在開催中の「アジア映画祭り」の一作として、韓国人俳優ソ・ジソブが初めて中国映画に出演した意欲作「ソフィーの復讐」を公開している。1997年にTVドラマでデビューしたジソブは、2005年から兵役に従事。2008年の復帰作「映画は映画だ」のヤクザ役で、百想芸術大賞の新人男優賞を受賞するなどその演技力を高く評価され、現在最も注目を集める韓国人俳優の一人。「ソフィーの復讐」は、国際的に活躍する中国の人気女優チャン・ツィイーが主演・プロデュースを手がけるロマンチック・コメディ。これまで男性的で強烈なキャラクターで知られてきたジソブは同作で、中国語のセリフに苦労しながらもコミカルな演技に初挑戦している。「空気人形」のペ・ドゥナや、TVドラマ「怪物くん」でのチェ・ホンマンなど、韓国出身の人々が日本でも独自の魅力を発揮する例はだんだん多くなってきている。活躍の拠点をどんどん広げる韓国俳優達にも目が離せない。


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