レコメンド 今週、編集室が推薦するカルチャー

「天才」という言葉に、どんな印象を抱くだろうか?ゴッホ、カフカ、南方熊楠…彼らは生前には独特のキャラクターで「変人」として疎まれることもあったという。しかし一方で、それぞれの専門分野では特異な才能を発揮し、後世の美術界、文学界、民俗学界に与えた影響の大きさは計り知れない。
今回は、現在に生きる「天才」たちにスポットを当てた映画、展示をピックアップした。登場するのは、「建てない」ことが信条の建築家、菜食主義者のミュージシャン、絵を描く映画監督。「天才と変人は紙一重」という。作品群を通して一見ぶっ飛んだ美学がどうやって生まれてきたのかを探りつつ、彼らが見据える世界を見つめてみたい。

天才×建てない建築家

タイトル
モバイルハウスのつくりかた
上映場所
ユーロスペース
上映期間
2012年6月30日〜2012年7月27日
上映時間
21:00
監  督
本田孝義
出  演
坂口恭平 ほか

モバイルハウスのつくりかた

2011年/日本/HD/98分/配給=戸山創作所、スリーピン/(C)戸山創作所


ユーロスペースでは6月30日から、「建てない」建築家坂口恭平さんのドキュメンタリー「モバイルハウスのつくりかた」が公開されている。坂口さんは早稲田大学建築学科在学中に路上生活者の家と出合い、現代のライフスタイルに問いを投げかけるように。モバイルハウスとは、家に車輪を取り付けて移動可能にすることで合法的に路上生活を実現するもの。作中では、多摩川の河川敷に長年生活する「多摩川のロビンソンクルーソー」に手ほどきを受け、二畳の車輪付きハウスを完成させる。材料はホームセンターから、計2万6,000円で購入。これを多摩川から設置場所に予定していた吉祥寺の駐車場へと移動する前日、東日本大震災が発生した…。現在は熊本に拠点を移し、「ゼロセンター」での「新政府」樹立を宣言している坂口さん。住むとは?暮らすとは?生きるとは?坂口さんの独自のアプローチが、現代社会の根本的な歪みをユーモラスに指し示す。

天才×菜食主義のミュージシャン

タイトル
ドキュメント灰野敬二
上映場所
シアターN 渋谷
上映期間
2012年7月7日〜2012年8月3日
上映時間
11:00
監  督
白尾一博
出  演
灰野敬二、不失者、高橋幾郎、ナスノミツル、工藤冬里、亀川千代、Ryosuke、Kiyasu ほか

ドキュメント灰野敬二

2012年/日本/95分/配給:太秦/(C)2012「ドキュメント灰野敬二」製作委員会


シアターN渋谷では7月7日、独自の美学で国内外のミュージシャンとの競演を続ける音楽家・灰野敬二さんを捉えたドキュメンタリー「ドキュメント灰野敬二」が始まる。灰野さんは1971年に即興演奏グループにボーカリストとして参加して、1973年にはギターを手にしてソロ活動をスタート。頭頂から足先までの全身を使って、激しさと静寂を極端に使い分けるレンジの広い演奏で知られる。1990年代には、ニューヨークのフリージャズの重要人物ジョン・ゾーンさんや同じくニューヨークのオルタナティブロックバンド、ソニックユース などから絶大な支持を受け、数多くの海外公演を開催。以降、国内外からの競演オファーは数多く、これまでに発売されたCD・レコードは100タイトルを越える。また、長髪にサングラス、全身真っ黒い服装という外見も特徴で、アルコール、タバコは一切摂取しない菜食主義者という側面も。作中ではライブやインタビューを通して、還暦を迎える現在でも禁欲的に音楽道に身を捧げる灰野さんの孤高の生き様を紹介する。

天才×絵を描く映画監督

タイトル
デヴィッド・リンチ展
開催場所
渋谷ヒカリエ 8/ART GALLERY
開催期間
2012年6月27日〜2012年7月23日
開催時間
11:00〜20:00
作  家
デヴィッド・リンチ





デヴィッド・リンチ展

Hand of Dreams(C)David Lynch, courtesy Item Editions


渋谷ヒカリエ8/ART GALLERYでは、鬼才映画監督デヴィッド・リンチさんの絵画作品を展示する「デヴィッド・リンチ展」が開催されている。リンチさんは1946年アメリカモンタナ州生まれ。画家を目指し1965年ペンシルベニア美術アカデミー入学。1977年に奨学金を得て「イレイザーヘッド」を完成させ、1980年「エレファント・マン」、1986年「ブルーベルベット」など、不条理な世界観とグロテスクなビジュアル、リアリティが共存する映像作品を発表。 TVシリーズ「ツイン・ピークス」は世界中で大ヒットを記録した。現代を代表する映像作家の一人として知られる一方で、絵画や写真、アニメーションや立体作品などでの表現活動も続けているというリンチさん。2007年に開催されたパリのカルティエ現代美術財団での個展は大成功となり、日本では1991年、東京の東高現代美術館でペインティングとドローイングの展覧会が開催された。同展では水彩、ドローイング、リトグラフを中心に最近の作品を並べ、映像には収まらない鬼才の世界観を伝える。


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