SHIBUYA BUNKA SPECIAL

2006ゴールデンウイーク特別企画「映画の街」渋谷の歩き方

渋谷は狭いエリアに37スクリーン・24館もの映画館がひしめく“映画の街”。街全体を一つの“シネマ・コンプレックス(シネコン)”と捉えれば、大作から個性的な作品まで、あらゆる趣向の映画が鑑賞できる。さらにショップや飲食店も充実し、複合的なレジャーを楽しむことが可能だ。映画の街・渋谷の魅力を存分に楽しむコツを紹介しよう。
GW期間中に上映される映画一覧

ミニシアターの開業が相次ぎ、ますます活性化する渋谷〜近年のミニシアター事情〜

Q-AXビル外観

今、ミニシアターの“聖地”である渋谷が新たな転機を迎えている。ミニシアターの新規開業やリニューアルオープンが相次ぎ、劇場の個性化・多様化が急速に進んでいるのだ。その動きを象徴するのが、06年1月、円山町の一角にオープンしたQ-AXビルである。このビルには、共同オーナーの1社であるQ-AXシネマに加え、桜丘町から移転したミニシアターの老舗・ユーロスペース、そして名画座のシネマヴェーラ渋谷の三館が同居し、ビル全体で五つのスクリーンを備える。この“渋谷型シネコン”とでも言うべき施設の登場は、渋谷の街に新たな一色を加えた。

そのほか、ここ数年では、シネマGAGA!(06年)、シアターNシネマ・アンジェリカ(ともに05年)、UPLINK X(04年)、渋谷シネ・ラ・セット(03年)が相次いで新設・移転・リニューアルオープンした。こうした動きにより、現在、渋谷の映画館は24館を数え、ゴールデンウイーク期間には62もの作品が公開される。1982年に開業し、渋谷のミニシアターの先駆けとなったユーロスペースの支配人・北條誠人さんは、渋谷の魅力をこう語る。

ユーロスペース支配人・北條誠人さん

「世界的に見ても、渋谷は最も多くの映画が観られる都市です。さらに面白いのは、映画以外の文化も集積しているため、複合的な楽しみ方ができるところ。実際、CDショップや書店の袋を持ってウチを訪れる方も多いですよ」

渋谷ではユーロスペースの開業以来、ミニシアターが次々に誕生し、その個性的な上映作品が音楽やファッションなどと融合して渋谷発の独自の文化を生み出してきた。映画だけでなく、複合的なカルチャーに触れられる点は、渋谷の持つ最大の魅力の一つだ。

また、楽しみ方のバリエーションが豊富な点も、渋谷ならではの持ち味と言える。上映作品が多いため、気になる映画の“はしご”もできるし、鑑賞前後にショップや飲食店を巡って待ち時間を過ごしたり、柔軟にプランを組み立てられる。映画を軸にして、一人ひとりのスタイルに合わせたひとときを楽しむには最適だ。



至れり尽くせりのサービスで映画の楽しみ方が変わる〜設備・サービスの個性化を追求する劇場〜

UPLINK X

渋谷のミニシアターでは、設備やサービスに特徴を打ち出し、新たな映画鑑賞のスタイルを提案する動きが活発化している。

UPLINK Xでは、さまざまな形状のソファを配置し、ラウンジのような空間を構成しているのが大きな特徴だ。さらに階下のカフェレストラン「Tabela」併設のバーからカクテルをはじめとした数十種類のドリンクを持ち込み、カフェ気分で鑑賞できる。また、Tabelaでは通常メニューの多国籍料理に加え、上映作品に連動させた特別料理を提供する趣向も面白い。同館で上映されたドキュメンタリー『ザ・コーポレーション』のなかで、ある飲料メーカーが批判されていたことから、同社製品の取り扱いを中止するなど、「映画を映画だけで終わらせたくない」(企画・運営スタッフ・倉持政晴さん)という姿勢には強い信念を感じさせられる。

同様に、劇場前方にテーブル付きのソファを置き、カフェスタイルの鑑賞を提案するのが渋谷シネ・ラ・セットだ。場内には、時間帯によっては寝そべって観る人もいるほどリラックスした空間が広がる。ソファは人数に合わせて動かすことができ、グループやカップルで利用する姿も目立つという。

Theater 6 Cafe

Q-AXシネマに併設されたカフェレストラン「Theater 6 Cafe」は、「映画のワンシーンの中にいるような気分でリラックスして映画の余韻に浸ってほしい」(アシスタントマネージャー・黒崎豊子さん)というように、鑑賞後にも映画気分が楽しめる趣向だ。前方に大型スクリーンを備える舞台を設けるなどインテリアに工夫を凝らす一方で、メニューには「勝手にしやがれグリーンサラダ」といった具合に映画のタイトルがずらりと並ぶ。さらにブラジル人の身体感覚を描いた『ジンガ』の上映中にはブラジルの家庭料理を出すなど、ここでも上映作品に関連させたメニューが楽しめる。また、Q-AXシネマは、音響設備など様々な基準を満たした渋谷で初めてのTHX対応シアターとなり、スペイン・アーウィンアセネア社の高級シートを設置するなど、場内の設備でも他館との差別化を図っている。

こうした個性的な劇場で鑑賞することにより、改めて気づかされることがある。それは“映画館で映画を観る”ことの喜びだ。インテリアに趣向を凝らして寛ぎや非日常の空間を追求した場内で、大画面・高音質の作品を鑑賞すれば、映画の楽しみは倍増する。そのように劇場そのものの魅力を楽しめるのも、渋谷のミニシアターの大きな特徴だ。

個性的な作品が観られるのは、やっぱり渋谷〜多様化・個性化が進む上映作品〜

Bunkamuraル・シネマ

郊外を中心に増殖するシネコンは、大規模な施設で多くの作品を上映するのが特徴だ。一方、渋谷のミニシアターの上映規模は、それとは比べ物にならないほどに小さい。だが、街全体を“一つのシネコン”と捉えた場合、話は別だ。なにしろ、渋谷には独自の視点で作品をセレクトする映画館が狭いエリアに密集し、それこそハリウッド大作からマイナーなドキュメンタリー作品まで、あらゆる趣向の映画が楽しめるのである。

比較的、若い世代を狙った映画が充実する渋谷で、“大人”向けの味わい深い作品を公開するのがBunkamuraル・シネマだ。「Bunkamuraを多文化の発信地として捉え、オペラやコンサート、また美術作品などの雰囲気にマッチする作品を選んでいます」と、番組編成担当の中村由紀子さんは話す。芸術性・文化性の高いヨーロッパやアジアの作品が多いのも特徴だ。

シネマヴェーラ・加藤泰監督特集より
『沓掛時次郎 遊侠一匹』

往年の名作などを中心に上演するのが渋谷で唯一の名画座、シネマヴェーラ渋谷である。3〜4週間で一つの特集を構成するサイクルで、これまでに北野武薬師丸ひろ子などの特集が組まれ、今後は、その作家性が評価されている日活ロマンポルノや東映ピンキーバイオレンス、黒沢清監督作品が特集される予定だ。従来の名画座と同様、リーズナブルな料金設定も魅力となっている。

渋谷でも珍しく、ドキュメンタリー中心の作品を揃えているのがUPLINK X。日本では鑑賞機会が少ない世界各国の作品を取り上げており、これまでに『ジャマイカ 楽園の真実』『ザ・コーポレーション』といったロングラン作品を送り出している。

またユーロスペースでは、公開当時、社会現象を引き起こした『ゆきゆきて、神軍』をはじめ、一貫して独自の主張を持つ作品を紹介してきた。支配人の北條誠人さんはこう語る。

「有名無名、また作品の新旧に関わらず、“未来”を感じさせる作品を取り上げるうちに、劇場のカラーが出てきました。そのように劇場ごとに異なるメッセージを受け取るのも、渋谷で映画を観る面白さの一つでしょう」

シネマライズ外観

そのほか、エッジの効いたメッセージを発信し続けて『トレインスポッティング』などのヒット作を生んだシネマライズ、ときにスタイリッシュ、ときに遊び心あふれる作品を上映し、渋谷の文化をリードしてきたシネセゾン渋谷、レイトショーでは若手クリエイターの作品を積極的に公開するシアターN渋谷など個性が光るミニシアターが多い。

個性的でクセのある作品だけでなく、ハリウッド系の大作も鑑賞できるのが映画の街・渋谷の懐が深いところ。渋東シネタワーシネフロント渋谷ピカデリー渋谷東急などでは話題の大作が充実。また、シネマGAGA!やシネアミューズアミューズCQNは自社配給の邦画作品などを中心に準大作を取り上げる。

近年の劇場の増加により、作品の多様化はますます進んでいる。いくつかのシアターを巡るうちに、きっと、お気に入りとなる一館が見つかるに違いない。

GW期間中に上映される映画一覧


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