
■見出し・派手さはないものの随所に個性が光る街
・大人が居心地良く過ごせる空間へ
・カフェ文化の先駆者が発信する新たなメッセージ
・老舗ライブハウスから放たれるニューカルチャー
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副都心線「13番出口」の新設は、渋谷−原宿間を結ぶ明治通りの起点、渋谷−青山通りを結ぶ起点。さらに宮下公園の高架下をくぐって進めば、タワーレコード、パルコ方面へもダイレクトに向かうことができ、JR渋谷駅、スクランブル交差点を経由しない新しい導線として見逃せない。こうした追い風に乗って新旧のスポットが発信力を強めている。2006年には渋谷カフェ文化を牽引してきた「SUS」が移転してきて地域の拠点になりつつあるほか、老舗ライブハウスのクロコダイルは従来通りの“硬派”を貫きつつも、新しい試みを積極的に取り入れている。このエリアに吹く新しい風を追った。


カフェ「RESPECT」
店長の矢野さん
2001年10月、渋谷駅と代官山駅の間の東急東横線高架下に突如出現した、カフェ・バー・デリの複合飲食施設「SUS(Shibuya Underpass Society)」。もともと商業的に静かだったエリアの活性化に貢献するとともに、渋谷界隈のカフェ文化をリードする店として若者を中心に大いに人気を集めたが、副都心線と東横線を接続する工事の開始に伴い、惜しまれつつ閉店したのが2005年4月。その後、約1年半の沈黙を破り、2006年11月、副都心線の13番出口近くに、「SUS(Shibuya Universal Society)」がオープンした。前店舗のコンセプトを引き継ぎ、カフェ「RESPEKT」、ラウンジ「SECO」、食にまつわる書籍やランチボックスを販売する「COOKCOOP」の複合業態だ。以前はSUSの「U」は高架下を意味する“Underpass”の頭文字だったが、新店舗は“Universal”となった。RESPEKT店長の矢野裕之さんは、「より広い視点で、渋谷、そして世の中を見渡し、情報を発信できる場所にしたいと考えました」と、そこに込められた思いを語る。その言葉通り、新生SUSでも、旧SUSから引き続き地域通貨「アースデイマネー」を取り入れて、地域のNPO法人などと連携しながら地域活性化に注力している。また、「100万人のキャンドルナイト」に参加したり、食材に有機栽培の野菜を使用するなど、エコ活動に取り組む姿勢も強めている。
地域の拠点となる店へ

明るい「RESPECT」店内
以前と同様、駅から少し距離のあるエリアに位置しているが、そこにはどのような狙いがあるのか。「商業地のど真ん中ではなく、周囲に会社や住宅地のある場所だからこそ、お客さんの“生活”の中に入り込める。5人が週1回よりも、1人が週5回来店するような地域に根ざしたお店を目指しています」と、矢野さんは話す。そのために、居心地の良さの追求はもちろん、複合業態の強みを生かしたイベント開催などにより文化的な情報発信力を強め、「人と人」をつなげる空間を作り上げていく考えだ。副都心線の開業は、そんなSUSにとっても追い風となっている。「このエリアは企業が多いこともあり週末は人通りが少なかったのですが、副都心線の開業後は目立って増えました。まずは、SUSが地域の“顔”として定着し、ますます多くの人に足を向けてもらえると嬉しいですね」


「クロコダイル」の事務所には、映像資料がズラリ
渋谷駅と原宿駅のほぼ中間、明治通り沿いの雑居ビルの地下1Fで営業を続ける老舗ライブハウスがある。クロコダイルである。クロコダイルは渡辺プロダクションの名物マネージャーとして知られた村上元一さんが1976年にパブレストランとしてオープン。初代店長はミュージシャンであり俳優の安岡力也さんだったが、安岡さんの本業が忙しくなり、1980年、バーテンとして働いていた西哲也さんが店長を引き継いで現在に至る。オーナーの村上さんは一昨年に亡くなった。西さんは、「村上は、内田裕也さんやジョー山中さん、ドリフターズなど日本の大物ミュージシャンとの親交が深かっただけでなく、ビートルズの初来日の実現に奔走したり、アラン・ドロンのボディガードを務めたり・・とにかく人脈が広かった。その一方で柔道や居合いの達人でもあり周囲には強面という印象がありましたが、根は優しく、アイデアマンで、とても魅力的な人でしたよ」と、村上さんの人柄をしのぶ。西さんが店長になった頃から店内のステージで週末にライブを開き始めた。すると、噂を聞き付けたミュージシャンが「俺にもやらせろ」と集まって連日ライブが繰り広げられるようになり、クロコダイルはすっかり「ライブハウス」としてのイメージが定着した。「ですが、今でもパブレストランという意識があり、名物のワニの竜田揚げをはじめ、飲食メニューも充実させていますよ。夜中2時まで営業しているから、音楽を聴いた後、遅くまで飲んでいかれるお客さんも多いですね」と、西さんは語る。

「Tokyo Comedy Store j」の舞台
© 2008 Tokyo Comedy Store j.
PHOTO : Jun Imai
音楽のジャンルは、ロックを中心に、カントリーやラテンなど多彩だ。スケジュールをチェックすると、定員100名ほどの小さなライブハウスには似つかわしくない“大物”の名前がしばしば混じっていることに驚かされる。出演者は、前オーナーの村上さんや西さんの友人関係から集まることが多いそうだ。そのクロコダイルで新たな話題になっているのが、週1回開催されているコメディ・パフォーマンス集団「Tokyo Comedy Store j」による即興芝居。これは台本なしの即興コメディショーで、毎月4回目のショーでは30名の演技者が順々に演技し、審査員と観客がその場で評価してランキングを決めていく「S-1グランプリ」が開催され人気を呼んでいる。そのように新しい試みを取り入れつつも、店内に流れる空気が開業の頃からあまり変わらないのは、「昔でいう『ジャズ喫茶』の感覚で、お客さんが寛いで音楽に親しめる空間であり続けたい」という西さんをはじめとしたスタッフの思いがあるからだ。副都心線の開業により大きく変わろうとしているこのエリアにあって、クロコダイルの存在感はますます際立ちつつある。
ストリートスポーツのメッカへ

宮下公園のフットサルコート
宮下パークエリアは、ストリート色の強いスポーツ文化の発信地としての性格も強めている。2004年には、美竹公園にバスケットコートの「ジョーダンコート」が設置された。バスケの神様マイケル・ジョーダンから寄贈され、開幕イベントにはジョーダン本人が訪問したことでも話題になったコートだ。続いて2006年、宮下公園に2面のフットサルコートがオープン。かつて夜間の園内にはほとんど人通りがなかったが、コートが明るい照明でライトアップされ、安全性やイメージが大幅に向上した。今後、宮下公園にはさらに大きな動きがありそうだ。大手スポーツメーカーが宮下公園の命名権を所得し、新しいスポーツ施設を建設する計画が進められているのである。今のところ、従来のフットサルコートに加え、園内にジョーダンコートを移設するとともに、スケートボード場やオープンカフェなどの新設が計画されているという。この計画が現実になれば、このエリアの雰囲気はガラリと変わるだろう。

SUS(Shibuya Universal Society)
「WIRED CAFE」「Planet3rd」「246CAFE<>BOOK」「A971」「BUENA GARDEN CAFE」「IYEMON SALON KYOTO」など、全国に数多くのカフェを手掛けるカフェ・カンパニー(株)が出店する旗艦店。一棟のビルに、カフェ「RESPEKT」、ラウンジ「SECO」、食にまつわる書籍やランチボックスを販売する本屋「COOKCOOP」を営業するほか、同ビル7階には本社機能も備える。
- 住所:
- 渋谷区渋谷1-11-1
- TEL:
- 03-6418-8144(RESPEKT)
- 営業時間:
- 11:30〜翌2:00(金・土曜、祝前日〜翌5:00、日曜・祝日〜翌0時)(RESPEKT)
- 休業日:
- 年中無休

国内のロックミュージシャンを中心としたライブパフォーマンスを飲食とともに楽しめるライブハウス。店名通り、ワニチャーハンやワニの竜田揚げが名物になっているほか、スパゲティやピザ、ハンバーグなどフードメニューは多彩。コメディ・パフォーマンス集団「Tokyo ComedyStore J」による即興ショーは週1回程度開催。
- 住所:
- 渋谷区神宮前6-18-9 ニュー関口ビルB1
- TEL:
- 03-3499-5205
- 営業時間:
- 18:00〜26:00
- 休業日:
- 年中無休
渋谷区発の区民菜園がオープン 宮下公園の交差点からSUSへと向かう途中に、美竹区民菜園がある。これは、5月31日にオープンした渋谷区発の区民菜園の1つ。我々は、ちょうど一年前に「渋谷産の野菜はできるの?」というテーマで都市農園の可能性について、渋谷区役所へ取材を行ったが、その時点では区民菜園の予定は無かった。この1年で渋谷区民の“農”に対する関心が急速に高まったと考えられる。自然環境との共存は、今後の東京全体でも大きな課題。取材中の美竹菜園では、トウモロコシを育てているという女性に出会った。彼女の畑は、渋谷区渋谷の地域コミュニティが預かる区画で、ここで育ったトウモロコシは、「お祭りのときにみんなに配るのよ」と笑顔で答えてくれた。ちなみに今回は、美竹地区菜園(22区画)のほかに、恵比寿区民菜園(42区画)、参宮橋区民菜園(19区画)の計83区画の募集に対し、応募総数は1041件、平均倍率は12.5倍にも上ったそうだ。こうした人気を考えると、83区画ではまだまだ少ない気もする。今後の農地拡大に期待したい。
»渋谷産の野菜はできるの?
シブハナ、参加者も募集中! 宮下公園の交差点の脇には、公園から張り出した150平方メートルの緑地帯があり、様々な種類の植物が植えられ、色とりどりの花を咲かせている。育てているのは、「渋谷に花を!」をキーワードに集まったボランティアグループ「渋谷Flowerプロジェクト(シブハナ)」だ。シブハナの副代表・川合径さんによれば、現在は「夏へ向けてひまわりをメインに植えている」とのこと。春はチューリップ、秋はオミナエシなど、年間を通して花壇に植えられる植物は変化する。また、公園の落ち葉を堆肥にしたり、今年植えた苗が翌年また花を咲かせる宿根草を育てるなど、「自然の中から発生する花壇」を目指して活動中。ボランティアスタッフも募集しているそうなので、興味がある人は問い合わせてみては?
»渋谷Flower プロジェクト
駅近でありながらも宮下パークエリアには、スポーツや緑の輪を広げていきたい、という思いが少しづつ育っていることを実感した。