領域を広げる写真家と写真表現

ここ数年、写真家による映像作品が増えている。蜷川実花による『さくらん』、若木信吾の『星影のワルツ』、海外ではファッションフォトなどで活躍するデヴィッド・ラシャペルの『RIZE』など、静止画から動画へと活躍領域を広げる写真家は多い。また、写真家そのものを扱った映画も多く、以前「BUNKA×PERSON」欄でも紹介した『アンリ・カルティエ=ブレッソン 瞬間の記憶』も記憶に新しい。これから公開される映画では、社会的マイノリティーを被写体に選び、独特の世界観を提示した女流写真家ダイアン・アーバスをニコール・キッドマンが演じた『毛皮のエロス ダイアン・アーバス 幻想のポートレイト』が注目だ。

また、写真表現そのものが持つ様々な側面を感じるために次の展示もお勧めしたい。『「昭和」写真の1945-1989 第1部 オキュパイド・ジャパン(昭和20年代)』『渋谷駅とその周辺写真展2』からは、写真本来の”記録性”に触れることができる。前者の展示からは著名写真家の作品に撮影者の個性や感情が感じられるだろうし、後者の展示からは匿名性が故のフラットな視線でかつて存在した風景と対峙することができるだろう。星の軌跡を映し出した『星の降る場所』は、写真技術が可能にした”人工的なネイチャーフォト”とも言えるし、実験的写真家による『大辻清司の写真 出会いとコラボレーション』展では、メディアと美術作品の狭間にある写真表現の可能性を感じることができる。新世代の写真家の象徴とも言えるホンマタカシの個展『Takashi Homma Exhibition NEW WAVES』で映し出される波の写真群にも期待したい。領域を拡大し続ける写真家と写真表現の可能性に触れてみよう。

 

領域を拡大する写真家の表現に触れる

2006年/日本/97分/配給:キネティック/©2006youngtreefilms

タイトル:
星影のワルツ
開催場所:
ライズエックス
開催期間:
2007年4月28日〜
監  督:
若木信吾
出  演:
喜味こいし、山口信人、渥美英二、磯部弘康、神崎千賀子、影山宜伸、吉井裕海
広告写真などでも活躍する一方、ごく身近な対象を等身大の視点でスナップ写真に収め続けてきた若木信吾による初監督作品。「写真家・若木信吾が20年間撮り続けた今は亡き祖父、琢次さんとの想い出を綴った私小説的な作品。ドキュメンタリーと見紛う淡々とした演出の中に息づいているのは『本物の感情』であり、ドキュメンタリー以上にリアルで切ない作品です。」(キネティック/萩原さん)

映画『星影のワルツ』より

2007年/日本/カラー/111分/配給:アスミック・エース/©2007 蜷川組「さくらん」フィルム・コミッティ

タイトル:
さくらん
開催場所:
シネ・アミューズ・イースト&ウエスト
開催期間:
2007年5月5日〜5月25日
監  督:
蜷川実花
出  演:
土屋アンナ、椎名桔平、成宮寛貴、木村佳乃、菅野美穂、永瀬正敏、安藤政信
一目でその人とわかる極彩色の写真世界を描き出す写真家、蜷川実花による初の長編映画作品。題材・タイトル・出演者・音楽・脚本から画面の四隅まで、写真作品同様の艶やかな色彩感覚と美意識を感じることができるだろう。

映画『さくらん』より

2006/アメリカ/122分/配給:ギャガ・コミュニケーションズ/©MM6 NEW LINE CINEMA PICTUREHOUSE HOLDINGS,INC.HBO PICTUREHOUSE HOLDINGS,INC.ALL RIGHTS RESERVED.

タイトル:
毛皮のエロス ダイアン・アーバス 幻想のポートレイト
開催場所:
シネマGAGA!
開催期間:
2007年5月26日〜
監  督:
スティーブン・シャインバーグ
出  演:
ニコール・キッドマン、ロバート・ダウニーJr、リチャード・ロクスバーグ
おもちゃの手榴弾を持つ少年やフリークス、性的倒錯者といった社会的マイノリティな人々を好んで撮影し、後世の写真表現に多大な影響を与えた写真家、ダイアン・アーバスの伝記映画。ファッション写真から始まったキャリアに疑問を持ち、最後には自殺を遂げることになる人生への葛藤と、自分の内面をえぐるようにして撮影された、どこか奇異に映る被写体への愛着を描き出す。
領域を拡大してきた写真表現に触れる

林忠彦「復員、品川駅」 1946年

タイトル:
「昭和」写真の1945-1989 第1部 オキュパイド・ジャパン(昭和20年代)
開催場所:
東京都写真美術館
開催期間:
2007年5月12日〜2007年6月24日
東京都写真美術館の収蔵作品の中から「昭和」を象徴する約600点の写真を選び、4期に分けて構成する展示。今回の第1期では昭和20年代の写真を集め、”占領下の日本”をテーマにしている。「“昭和”に関する本や写真集は多く出ていますが、展示室でみる本物のプリント作品の迫力は格別です。活気あふれる街の息吹、希望にあふれた人々の笑顔など、元気な“昭和”が蘇りました。当館が誇る珠玉のコレクションより、木村伊兵衛、土門拳、細江英公など国内外を代表する写真家の作品約125点をお楽しみください」(東京都写真美術館/久代さん)

写真左:林忠彦「太宰治」 1946年 写真右:笹本恒子「銀座4丁目 P.X.」シリーズ「昭和・あの時・あの人」1946年夏頃

タイトル:
渋谷駅とその周辺写真展 2
開催場所:
白根記念渋谷区郷土博物館・文学館
開催期間:
2007年5月10日〜2007年6月24日
渋谷区が収集してきた写真資料を展示公開する企画展。今回は渋谷駅とその西側地域の古い写真を展示公開しており、その定点観測的な風景の数々からは、記録メディアとして誕生・発展してきた写真表現の在り方を強く感じることができるだろう。
タイトル:
星の降る場所
開催場所:
NADAR/渋谷355
開催期間:
2007年5月21日〜2007年6月2日
人  物:
武井伸吾
“星空のある風景写真”=“星景写真”を撮る写真家、武井伸吾による写真展。今では見慣れた「星の移動の軌跡」という表現は、写真技術が可能にしたものであることに改めて注目したい。写真ならではの視覚体験を感じられるだろう。
タイトル:
大辻清司の写真 出会いとコラボレーション
開催場所:
渋谷区立松濤美術館
開催期間:
2007年6月5日〜2007年7月16日
人  物:
大辻清司
常に前衛美術と関わりながら写真メディアへの思考を深め、実験的な制作を行うと同時に、美術ジャーナリズムの第一線で活躍した大辻清司の写真展。写真表現の可能性を追求した意欲的な写真家の思考過程に触れることができる。

©Takashi Homma

タイトル:
ホンマタカシ写真展 Takashi Homma Exhibition NEW WAVES
開催場所:
ロゴスギャラリー
開催期間:
2007年6月8日〜2007年6月26日
人  物:
ホンマタカシ
新世代を象徴する写真家、ホンマタカシの最新写真展は「波」を撮り続けた8年間の記録を展示したもの。ホンマタカシも写真家・中平卓馬を追ったポートレイトムービー『きわめてよいふうけい』などで映像表現を扱ってきた写真家の一人。東京郊外の風景や建築物を淡々と撮り続けたシリーズを彷彿させる今展も、ただの記録的な風景写真ではなく、写真家と被写体の関係の在り方を問う展示になるだろう。

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