SHIBUYA BUNKA SPECIAL

「渋谷で笑い納め、渋谷で初笑い」〜「ヨシモト∞ホール」がセンター街の歩き方を変える〜

1996年に誕生した「シアターD」は、テツandトモ、はなわ、ドランクドラゴン、ロバート、カンニングなどを輩出し、業界内では「次のスターを発掘できるライブハウス」として高い評価を得るに至った。そしてかつて渋谷公園通り劇場を運営していた吉本興業は、2006年3月「ヨシモト∞ホール」をセンター街にオープンさせ、「渋谷=お笑いの発信地」としてのイメージは、急速に定着しつつあるようだ。

1. 渋谷における笑いのカタチ

2.「ヨシモト∞ホール」がセンター街の歩き方を変える

  時代に即したコンテンツを発信する「ヨシモト∞ホール」

ヨシモト∞ホール

「吉本興業初の無料ライブ劇場」という触れ込みでスタートした「ヨシモト∞ホール」。オリエンタルラジオ、チュートリアル、品川庄司といった吉本興業に所属する芸人が、毎日夕方から5時間に渡りライブイベントを繰り広げる「笑いのたまり場」には、昨今のお笑いブームを映す鏡のように、若い世代のお笑いファンが連日詰めかけている。
「ヨシモト∞ホールは、ざっと見積もっても東京に数百組はいる若手芸人の育成場所として、また、地上波TV以外に細分化した各メディアに向けたコンテンツを供給するために立ち上げられました。現在のところ、当初の目的は果たせている、と感じています。来場されるお客さんは高校生からOLさんまでの若い女性客が中心ですが、中にはお笑い好きの男性の固定客もいてとても嬉しいです」と劇場支配人を務める山本康史さんは話す。吉本興業はかつて、「渋谷公園通り劇場」を運営していたが、このふたつの劇場の違いは一体何なのだろうか?

「渋谷公園通り劇場は基本的に有料で『劇場で見せるライブ』が中心でしたが、ヨシモト∞ホールの場合、CS番組向けのスタジオという機能も持っていて、実際に収録を行っています。なので、お客さん=観覧客という考えから、無料ライブを開催しているというわけです。私達はCS放送で『ヨシモトファンダンゴTV』というチャンネルを持っていますし、コンテンツの充実という意味合いは大きいですね。また、お笑い以外の講習会やプロモーションイベントを開催する時もあり、『多目的ホール』としての顔を持っています。」毎日5時間に及ぶライブは、前半部分にあたる「AGE AGE LIVE」が有料でネタを披露するライブ形式になっている。無料で楽しめる後半の「ヨシモト∞」は、台本に縛られるTVと違い、芸人たちが自由に楽しみながら発信するフリートークが中心となり、有名無名問わず、多数の若手が次々と登場する。

オープン当初からパーソナリティを務める
オリエンタルラジオ(左)とほっしゃん。(右)

「毎日たくさんの芸人が出ていますが、出演までの道は結構厳しいですよ(笑)。何百組という若手が、他のライブハウスなどでバトルを繰り返しながら、『AGE AGE LIVE』に出演する機会を狙っているような状態です。そもそも吉本興業には『来る者は拒まず』という考えがあり、たぶん社員の誰も、所属芸人の正確な数を把握しきれていないでしょう。NSC東京(吉本総合芸能学院)を卒業する若手芸人だけでも、毎年300人位はいますから」。芸能界きっての厳しい競争が展開している吉本興業だが、実はこうした芸人の多さは、あらゆる個性が揃うという大きなアドバンテージになっている。そのことが、著しく多様化する各メディアへの迅速かつ柔軟な対応を可能にしている。

「パソコン、携帯電話、CS…、求められているものがスピーディに多様化していますから、それに見合ったコンテンツを提供していかないと。例えば、動画配信サイト『ニコニコ動画』の中に『よしよし動画』というコーナーを設け、『AGE AGE LIVE』などを配信しています。かと思えば、高速道路のサービスエリアでコーヒーを売っている自動販売機向けに、45秒の待ち時間に液晶モニターで吉本芸人のネタが見れるという『吉本自販劇場』をもうすぐスタートさせます。この場合、村上ショージさんの芸なんかは最適なんです(笑)。最近の地上波TVでは、『奇抜な1分ネタ』が求められてきましたが、最近では『15秒ネタ』を、というオーダーすら出るようになっています。そんな状況下でも、コンテンツに適した人材を膨大な芸人の中から探し出せる。これは私達ならではの強みではないでしょうか。なので吉本興業は、新しいものに対して腰を上げるスピードが圧倒的に速いですよ。手を引くスピードも見事ですけど(笑)」

「ヨシモト∞ホール」会場風景

「ヨシモト∞ホール」がセンター街の歩き方を変える

「ヨシモト∞ホール」劇場支配人の山本康史さん

吉本興業が積極的に取り組むメディアのひとつには、フリーペーパーもある。ヨシモト∞ホールやCS「ファンダンゴTV」のスケジュールのほか、注目される若手芸人へのインタビューを掲載し、渋谷のショップ、飲食店、カラオケ店などに配布している。発行部数はフリーペーパーとしては異例の8万部で、山本さんはじめスタッフたちも、渋谷という街の強烈な引力を身近に感じ取っているようだ。「なにせ大阪の田舎から出てきた会社でして、東京に進出して初めて作った劇場が『銀座七丁目』というぐらいでしたから(笑)。もちろん渋谷への憧れは相当なものですよ。日本一カルチャーに敏感な若者が集まる街の真ん中にホールを作って、そこからスターを生み出す。これが大きな意義だと思うんです。ほっしゃん。、オリエンタルラジオなどは、渋谷から育っていきましたからね。」

ヨシモト∞ホールの醍醐味のひとつは、ブレイク前にひいきの若手芸人を見つけ、彼らがTVスターになる劇的な過程の目撃者になれるということかもしれない。山本さんはそこに「お馴染みの芸人がTVという制約から離れ、本当にやりたいことをやっている魅力」を付け加えてくれた。さらに、「ぶらぶら散歩するように、ウィンドウ・ショッピング感覚で無料ライブを楽しむ」という吉本興業らしい斬新な発想は、渋谷におけるお笑いカルチャーの発展を、今後さらに加速させてゆくに違いない。映画館、ライブハウス、カフェ、能楽堂、そして路上と、街のあらゆるスペースから産み出される渋谷発の「笑い」の歴史はまだ日が浅く、スタイルも内容も実に様々だ。「笑い」はいつの時代も求められ、人々を幸福にする「究極の癒し」である。渋谷ならではの空気感が、お笑いというカルチャーに消化吸収され、やがて熟成される日が、今から楽しみだ。

■プロフィール
山本康史さん
1973年兵庫県生まれ。96年に吉本興業(株)に入社し、主に芸人のマネジメント業務を担当、2007年10月より「ヨシモト∞ホール」支配人に。現在も島田紳助、山田花子、華丸大吉、フットボールアワー、だいたひかる、井上マーなどのマネジメントも兼任するという超多忙ぶり。
>>よしもとシーオージェーピー

「ヨシモト∞ホール」年末年始のイベント情報
吉本興業の若手芸人が毎日5時間に及ぶライブを繰り広げる「ヨシモト∞」は年末年始も毎日開催。日替わりMCによる超若手の登竜門ライブ「AGE AGE LIVE」は16:00〜17:30(前売り1200円、当日1500円)、日替わり芸人によるフリートークとレギュラー陣によるライブは18:00〜21:00(無料)。尚、12月31日はカウントダウンイベントとして、「ヨシモトファンダンゴTV」のレギュラー番組「野爆テレビ」が東京初上陸、23:00〜26:00まで大晦日公開生放送&カウントダウンが予定されている(観覧応募は既に締め切り済)。
吉本芸人100組が自らメガホンを取った短編映画を放映する「YOSHIMOTO DIRECTOR’S 100」。12月29日から1月4日は、ほんこん『どぶいた』/ 板倉俊之(インパルス)『老人と木』の2編を上映。前売り800円、当日1000円(税込み・全席自由)。
タイトル: 『どぶいた』(YOSHIMOTO DIRECTOR’S 100)
日時: 2007年12月29日(土)〜2008年1月4日(金) 21:40(月〜金)、14:30/16:00/17:30/19:00(土)※日曜、12月31日は休映
監督:

ほんこん

出演:

中川礼二(中川家)、乾貴美子、重岡謙作(ラフ・コントロール)、松谷賢示(水玉れっぷう隊)、佐田正樹(バッドボーイズ)、大溝清人(バッドボーイズ)

内容:

誰のための選挙なのか!きれいごとばかり言って勝ちさえすればいいのか!テキ屋の親分・下川(中川礼二・中川家)はひょんなことから市議会選に打って出た。

タイトル: 『老人と木』(YOSHIMOTO DIRECTOR’S 100)
日時: 2007年12月29日(土)〜2008年1月4日(金) 21:40(月〜金)、14:30/16:00/17:30/19:00(土)※日曜、12月31日は休映
監督:

板倉俊之(インパルス)

出演:

谷津勲、草谷翔、藤本敏史(FUJIWARA)、山本吉貴、武内由紀子、金子貴伸、板倉俊之(インパルス)

内容:

美しい桜の木に心を奪われ、さまざまな困難にもめげず、一生涯をかけて桜の木を守った老人のお話。

渋谷で笑い納め&初笑い

「シアターD」を運営するニュースタッフエージェンシーで広報兼マネージャーを務める堀米学さんに、笑い納めとなる年末のカウントダウンイベントと、今後の活躍が期待される若手芸人について聞きました。そのほか、「パルコ劇場」「アップリンク・ファクトリー」「La.mama」で新年に行われる初笑いイベントを紹介します。

「シアターD」カウントダウンイベント
タイトル: ヴェートーベン・友池さん 年越しオールナイトライブ「年越し上手舌 〜ウエスタン〜」
日時: 2007年12月31日(月) 開場21:30/開演22:00
出演: ヴェートーベン、友池さん、その他ゲスト多数
コメント: 昨年はNHKの紅白歌合戦に出場した桜塚やっくんなど、他の会場で出演を終えた芸人さんたちが飛び入りで参加して盛り上がりました。今年もお正月の始発頃まで続ける予定ですので、年明けぐらいにいろんな芸人さんが乱入してくるかもしれません。
「シアターD」新春イベント
タイトル: 「Drive」
日時: 2007年1月4日(金) 開場18:30/開演19:00
出演: 瞬間メタル、弾丸ジャッキーほか、ニュースタッフエージェンシー所属芸人
コメント: お客様の採点で順位をつけ、「Drive」の下位一組と「Drive Jr.」の上位一組が入れ替え。出演者全組が新ネタを披露するニュースタッフエージェンシー所属芸人によるお笑いライブに、「なりあがりSUPER」の優勝者を加えて行います。
「シアターD」一押し若手芸人紹介
コンビ名: 弾丸ジャッキー(左:松雪オラキオ、右:武田テキサス)
特技: 体操(松雪)、サバイバル(武田)
コメント:

元体操選手で九州大会優勝経験のある松雪と、元自衛隊レンジャー部隊の武田。匍匐前進で行う「ダルマさんが転んだ」など、その特殊な経歴を活かしたアクロバティックなコントが売りです。

芸名: こまつ(小松利暢)
特技: 生け花、ドラム
コメント:

ストリートアーティストとしての経験を持ち、キーボードを弾きながらトランペットを吹くこまつ。「上を向いて歩こう」と「ダースベイダーのテーマ」を同時に演奏するなど、高い技術とインパクトのある選曲が見どころ。

年始めのお笑いイベント紹介
タイトル: 志の輔らくご in PARCO 2008
日時: 2008年1月3日(木)〜27日(日) ※1/9,10,16,17,23,24は休演
会場: PARCO劇場
内容:

1996年よりパルコ劇場で始まった「志の輔らくご」。「志の輔らくご」からうぶ声を上げた演目『歓喜の歌』が遂に映画化。これを記念して、2008年1月公演は、「歓喜の歌」の全日上演を軸に志の輔ワールド満載の演目で送る。

タイトル: ぜんじろうの一人噺(1月)
日時: 2008年1月11日(金)開場19:00 / 開演19:30
会場: UPLINK FACTORY
内容:

1月11日に実行される1時間1本勝負の1人舞台。“漫談家”を名乗る孤高のピン芸人ぜんじろうが、笑いの原点にして最新型である一人噺(ひとりばなし)に挑む。

タイトル: 第247回 新人コント大会
日時: 2008年1月25日(金) 開場18:30 /開演19:00
会場: La. mama
内容:

1986年より老舗ライブハウスを舞台に、渡辺正行(コント赤信号)が司会を務める新人コントの競演。これまでにウッチャンナンチャン、爆笑問題、海砂利水魚(くりぃむしちゅー)、バナナマン、スピードワゴンなどが出演している。

1. 渋谷における笑いのカタチ

2.「ヨシモト∞ホール」がセンター街の歩き方を変える


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