
ミュージシャンとして活躍する傍ら、中国・上海音楽学院で常任の教授も務められている谷村新司さん。11月19日の第1回渋谷音楽祭では「フラッグアーティスト」として次世代のアーティストとコラボレーションしたライブも行います。その谷村さんに渋谷との出会いや、街並みの変化、また最近の活動の様子などを伺いました。

--谷村さんは、どんなときに渋谷にいらっしゃいますか。

最近は、映画を観るか、本を探すことが多いですね。映画は「シネマライズ」をはじめ色々な映画館に行きますし、歴史関連の書籍の品揃えが充実している「ブックファースト」にも度々足を運びます。渋谷公会堂などでコンサートをしていた昔は、今よりも渋谷に来ていましたが、その頃とはかなり印象が変わりましたね。特に文化村通りの辺りは、文化の異なる人が集まるようになったからか、ニューヨークやロンドンのようなインターナショナルな薫りが漂っている。歩いているだけで、すごく刺激を受けますね。その一方でセンター街からは足が遠のくようになりました。以前は「街を汚さない」という意識や暗黙のルールがあり、それが渋谷にある種の「文化の薫り」をもたらしていました。それが今では落書きが目立つし、自由を履き違えた人たちによって街が汚されている気がしますね。「様々なモノを受け入れる」事が出来るというのは渋谷の良いところだと思いますが、裏を返せば、それはモラルの危険と隣り合わせなのかな・・・という気にもなります。ボクは裏通りが好きで、海外でも、「この辺は危ないから行くな」と言われたストリートほど歩きたくなるんです(笑)。表通りは時代とともに変わるけど、裏通りには「その街らしい」ものが残っているので。そういう意味では渋谷から裏通りの雰囲気がかなり失われているのは残念な気がしますね・・・。
--街を歩く人たちの印象は変わりましたか。
今も昔も若者が多いのは変わらないけど、いわゆる「大人」は少なくなっていますよね。ということは、大人が居心地の良さを感じない街になってしまったのかなぁ。もちろん、大人だけが集まる街も活気のない印象を受けますが、だからといって若者だけでは無法地帯のようになってしまいます。文化の薫りは若者と大人がバランス良く存在する街から立ち上ると思うんです。そういう意味では、今の渋谷には少し「偏り」があるかもしれませんね。
--11月19日に渋谷公会堂で開かれる「第1回渋谷音楽祭」では、「フラッグアーティスト」を務めることになりましたね。どういう思いで引き受けたのでしょうか。

お話しを頂いた時、渋谷に我々の世代と次の世代の若者が一緒に奏でる音楽を介在させることで文化の薫りを取り戻せるのではないか、と直感しました。音楽や絵画などが介在すると、人の心を和らげたり癒したり勇気付けたりすることができますから。そういうことを誰かがやらなくてはいけないと思っていたので、フラッグアーティストとして手を挙げたんです。音楽の力によって渋谷に大人を呼び戻し、新しい世代とコミュニケーションが築けるといいですね。今は渋谷のライブハウスに行くと、大概、客の中でボクが一番年上です。若者の中にぽつんと一人、50代がいるみたいな・・・(笑)。若いアーティストが多く出演していることも、その原因でしょうね。大人のアーティストも呼ぶようにすれば、その状況って少し変わるんじゃないかな。少し前になるけど、当時の「ON AIR EAST」(現在の「SHIBUYA O-EAST」)で当日チラシのみの告知でシークレットライブをやったことがあるんです。街を歩く人がブラリと入ってくるような感じで・・・あまり知られていないんだけど、1990年頃に出した世界初のDVDソフトをフジテレビと松下電器のソフト事業部とボクとで作ったんです。そこに当時のシークレットライブ映像が収録されているんですけど、渋谷の若者達の「熱さ」を近くに感じた、良いライブだったのを覚えています。


--谷村さんは3年ほど前から上海音楽学院で教授をされていますよね。

はい。25年間続けていたアジアでの活動を中国側がよく理解して下さっていたんでしょうね。教授の依頼をお受けする前に上海音楽学院の楊(ヤン)院長にお会いしました。その時に、院長がボクに尋ねられたのは、「谷村さんは音楽にとって一番大切な事は何だと思ってらっしゃいますか?」という言葉でした。ボクは、「『理論』も『技術』も音楽にとっては大切です。でも、何よりも忘れてはいけないのは『心』だと思います」とお返事しました。その時に、日本と中国の間に橋をかけるという「役目」を感じたんです。
--大学ではどのような指導をしているのでしょうか。
「大きな意味での音楽」の話をしています。その中心となるのは「音楽を伝える心」ですね。例えば、生徒たちが力を合わせてステージを作り上げること。楽器やアンプを自ら運びセッティングをして、終われば後片付けまでしっかりとする。単純で当たり前だけど、そのプロセスを体験する事で「0(ゼロ)から何かを創り出していく」という大変さと喜びを感じてもらいたいんです。コピーをするのは簡単だけど、オリジナルを創り出すのはとても大変な事・・・それも身体で感じて欲しいんです。
--今後はどのような活動を続けていくおつもりですか。
若い頃は女の子にもてたい一心で音楽を始めて(笑)、やがて結婚し、子どもを授かり、その後も歌うことの意味を色々と考えてきました。そして、一つの区切りとして4年前に全てを白紙に戻したくなって全国ツアーを中断して事務所も閉じ、収入をゼロにしたことがあったんです。勇気が要りましたが、家族に支えられながら自分の箱を空っぽにした時、素直に「ああ、自分は何をしてもいいんだ」って、ポジティブに思うことができた。多分、ゼロにしたのが良かったんですね。きっと半分でも残していたら、そんな心境にはならなかったでしょうね。その後は肩の力が抜けたというか、もし音楽や言葉を人に伝えるのが自分の役目であるのなら、時の流れの中で自然と「縁」が出てくると思えるようになりました。今は、それに素直に従おう、と思っています。
--今月、4年ぶりに新曲「風の暦」を出されましたね。

「風の暦」
これまで約550曲作ってきた中で、ボクはずっと「旅歌」を作り続けたいと思っていました。「旅は人生と同じ意味を持っている」ということをずっと「歌」として表現していきたい。そうした流れの中で久しぶりに書いたのが「風の暦」です。自分たちの子どもの頃にはあったんだけど、今は無くなってしまった、あるいは無くなりつつあるものをちゃんと残しておきたい・・・今回は「指切り」がひとつのテーマなんですね。「最近、いつ指切りした?」って聞くと「随分してないなぁ・・・」って。指切りってすごく深い約束という感じがするんですね。だって、針千本飲まされるんですよ。そんなことしたら、とても生きてられませんよね(笑)。でも、子供の頃は普通に皆やっていた・・・「指切りした人」は「特別な人」なんですよね。そういう感覚を思い出して欲しいな、と思います。
--最後に未来の渋谷にメッセージをいただけますか。
ボクは、「大人と若者が一緒になって楽しく過ごせる街」を目指してほしいと思います。大人だけ、若者だけ、というのではなく、バランスが大事ですよね。いつかは若者も歳をとるわけですし、幅広い年代を繋ぐことができる街になれば・・・とても素敵だと思いますね。それから渋谷のことだけを考えるという発想ではなく、他の街との共生を目指すことも大切なのではないでしょうか。そうした活動が、渋谷が素敵な街になるきっかけなんじゃないかな、って思います。
■プロフィール
谷村新司さん
1948年大阪府生まれ。71年、アリスを結成。「冬の稲妻」「今はもうだれも」「チャンピオン」などのヒット曲で人気を集めるが、81年に活動を停止。その後、日本のスタンダードナンバーともいえる「昴」「いい日旅立ち」「サライ」などの名曲を通して自らの世界観を表現し続けている。ロンドン交響楽団や、国立パリ・オペラ座交響楽団、ウィーン交響楽団とも共演し、アジアのアーティストとの交流をライフワークとしている。2004年から中国にて上海音楽学院で常任の教授を務め、アジアにおける青少年育成と交流に尽力している。2006年9月13日、6年ぶりのシングル「風の暦」をリリース。
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第1回渋谷音楽祭 11月19日、渋谷公会堂と渋谷マークシティ・イースト、丸井シティ1Fプラザで開催。「フラッグアーティスト」である谷村新司さんと、渋谷駅周辺の25のライブハウスが推薦したバンドたちが、それぞれの会場で行うチャリティーイベント。なお、渋谷公会堂でのライブは有料(S席=3,000円、A席=2,500円、B席=2,000円)。9月23日(土)午前10時より電子チケットぴあで発売。 |
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