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「コスモプラネタリウム渋谷」が教えてくれる 「渋谷」で星を見上げる意味

「渋谷の夜空」と聞いて何をイメージするだろうか。ネオンや高層ビルは夜になってもまぶしく、星空観賞とはほど遠いはず。そんな渋谷でも満天の星を眺められる場所がある。桜丘町の渋谷区文化総合センター大和田内にある「コスモプラネタリウム渋谷」(渋谷区桜丘町23-21)だ。

渋谷区文化総合センター大和田を上空から望む。球体部分がプラネタリウムのドーム

「プラネタリウム100周年」という節目の年。かつて渋谷駅前の東急文化会館8階にあった「天文博物館五島プラネタリウム(以下、五島プラネタリウム)」に勤め、「コスモプラネタリウム渋谷」の立ち上げにも多大なる貢献をした“伝説のプラネタリアン”村松修(むらまつ・おさむ)さん、村松さんとともに五島プラネタリウムで働き、「コスモプラネタリウム渋谷」ではチーフ解説員を務める“癒しの星空解説員”永田美絵(ながた・みえ)さんのお二方に、渋谷にプラネタリウムがある意義についてお聞きした。

村松修さん(左)と永田美絵さん(右)。2人の後ろにあるのがコスモプラネタリウム渋谷の投影機。

|渋谷といえば「プラネタリウムがある町」だった

渋谷とプラネタリウムの歴史は60年以上前に遡る。高度成長期に突入した1957年、渋谷駅の東側にある東急文化会館8階に「五島プラネタリウム」がオープン。1938年に東京初のプラネタリウムとして開館した有楽町の東日天文館を空襲で焼失し、戦後の東京に復活したのが五島プラネタリウムだった。2001年に東急文化会館の解体に伴って閉館されるまでビルの屋上に見える丸いドームは、渋谷の象徴のひとつになっていた。

短大卒業後、機械工場に勤務していた村松さんは、仕事帰りに渋谷駅で途中下車し、プラネタリウムに足を運ぶ常連のひとり。しかし、村松さんの心をとらえたのは星空ではなく、投影機の動きだった。

「投影機というのが不思議な形をしていて、あっちこっちから光を出したかと思えば、モーターの音がうなって星が映し出される。実に奇妙な動きをする怪しげな機械なんです。その動きが気になり、星空を見ないで機械のまわりをうろうろしていたら五島プラネタリウム職員の方から怪しまれてしまいました(笑)」。

村松修さん。東京都出身。1974年より五島プラネタリウムに技術職として勤務。現在はコスモプラネタリウム渋谷で解説員を続けるほか、プラネタリウム解説コンサルタントとしても活動。アマチュア天文家として数々の小惑星を発見した功績も。

「機械に興味があって、それを見に来ている」と職員に伝えたことから、欠員募集があった際に声がかかり、技術職として働くことになった。今ではアマチュア天文家としても知られる村松さんも、当時は天文の知識がほとんどなかったといい、「上司から天文学の教科書と投影機の図面を渡されて、仕事の合間に勉強するようになりました」(村松さん)と当時を振り返った。

五島プラネタリウムで実際に使用されていたカールツァイス?型投影機は、現在も渋谷区文化総合センター大和田2階ロビーに展示されている

技術職として働きながら天文学を学んでいた村松さんに、ある時、「解説員をやってほしい」と声がかかる。来客数が急増する夏休みは解説員が多忙を極めているため、投影中は基本的に手が空いている村松さんに白羽の矢が立ったのだ。機械の操作もわかっていて、天文の知識もある程度持っている村松さんなら無理な話ではない。

「若くて生意気だった」と、当時を振り返る村松さん。たいして準備もしないまま「いつでもできますよ!」と大見得を切ってしまい、さんざんな解説員デビューに。「解説をすると機械の操作ができないし、機械の操作をすると解説が止まる。そこへ上司がすっと入ってきて機械の操作を代わってくれたので、私は解説に専念して、どうにか終えることができました。でも、やってみて気づいたんです。プラネタリウムという場所は解説員が一番楽しめる場所だと」(村松さん)

|工夫とこだわりが詰まった観望スペースも

その後、コツコツと天文の知識を蓄えた村松さんが日本を代表する名解説員となったのは周知の事実。2001年の五島プラネタリウム閉館した後は、所蔵資料一式を引き継いだ渋谷区教育委員会所管の「渋谷区五島プラネタリウム天文資料」に勤務。旧大和田小学校跡地の新施設に「コスモプラネタリウム渋谷」が設置されることが決まってからは、その立ち上げに奔走した。

「コスモプラネタリウム渋谷」と同じフロアには、外に出て本物の星をながめることができる観望スペースがある。「みなさんが星座や惑星を知る場としてプラネタリウムがあると思うのですが、やはりドームの中に写る星だけでなく『本物も見てもらわないと意味がない』と設計時に主張させてもらいました」(村松さん)。

夜のネオンがまぶしい渋谷駅近くで星を観察することができるのか疑問に思うが、「月と一等星や惑星、北極星が見えていれば、だいたいの観望会はできます」と村松さん。渋谷駅を見下ろすビルの12階からも十分にそれらの星は見えるのだという。観望スペースには、星を眺めるのによりよい環境を整えるための村松さんのこだわりが詰まっている。

高層ビルが立ち並ぶ渋谷とは思えないほど遮るものなく空が見渡せる観望スペース

「観望スペースは日没や月の出を観察するために、地平線が見えるようにしたい」と村松さんは建築会社に主張した。しかし、安全のため、観望スペースの周囲には一定の高さの塀を設置する必要があった。塀があると地平線が見えない。そこで塀と観望スペースの間に溝を掘り、溝に立った時に塀が既定の高さになるという案が生まれる。

「南の空の地平線近くに昇るカノープスという冬の星があるのですが、この観望スペースからはカノープスも見ることができます」と、渋谷とは思えない星空を望められるという。また、「とにかくここから北極星が見えないと困ります。渋谷の再開発で北極星の方向に高いビルを建てる計画が出ないことを……」と星に願う。その村松さんの悲願が星に届いているのか、今のところ再開発が進む中で不思議と北極星の方向には高いビルが建たずに済んでいるという。

|テクノロジーが発展しても「星空の解説」はアナログで

村松さんとともに開館時から「コスモプラネタリウム渋谷」を支える永田美絵さんは、幼い頃から星が好きでプラネタリウムにも通いつめ、いずれはそこで働くことを夢見ていた天文少女だった。念願かなって大学在学時からプラネタリウムでアルバイトを始め、卒業時に運良く欠員が出ていた五島プラネタリウムに就職。出産を機に五島プラネタリウムを退職したが、引き続き星に関わる仕事を続けていたところ、村松さんから「渋谷に新しいプラネタリウムができるので一緒に働いてもらえないか?」と声がかかる。

永田美絵さん。東京都出身、神奈川県育ち。大学卒業と同時に五島プラネタリウムに就職。その後、東急まちだスターホール、五藤光学研究所などを経てコスモプラネタリウム渋谷に立ち上げより勤務。NHKラジオ『子ども科学電話相談』にも天文担当として出演。

「地球という星ができた奇跡や、そこに住む命の大切さを伝えること」を自身のミッションとする永田さん。移動プラネタリウムで全国をまわる仕事を楽しく続けていたが、渋谷にできる新しいプラネタリウムで働くこと比較して、どちらが自分のミッションに合っているかを考えると、おのずと答えは出た。オープン当初は少ないスタッフで多数の来客者対応をする激動の日々だったが、現在はスタッフ数も増え、「コスモプラネタリウム渋谷」は唯一無二のプラネタリウムとして、その個性を確立している。

「比較的自由に運営させていただける環境で、さまざまな企業とのコラボや、スタッフ発案の企画も多数実施できています」と永田さん。Amazon Musicでスタッフがセレクトする“星空の下で聴きたい曲”のプレイリストが公開され、貸切利用ではプラネタリウムでのプロポーズが可能になるなど、これまでさまざまな企画を実現してきた。また、解説員ひとりひとりにつけられたキャッチフレーズからも、各スタッフ陣の個性がうかがえる。

解説員のキャッチフレーズはスタッフ内で考えられたものとか。コスモプラネタリウム渋谷のホームページの「星空解説員」のページでも見ることができる。

同じ星空を解説していながらも、なぜ個性が発揮されるのか永田さんに尋ねると「星空の解説って原稿がないんです」と意外な事実が。「星空は毎日変わりますし、そもそも機械の操作をしながら原稿を読むのも不可能です。なので解説員は常にそれぞれが自分の言葉でお話をしています。同じ星空であっても語り方も交えるエピソードも違ってくるものなんです」。

最先端のテクノロジーも取り入れられ、プラネタリウムも年々進化していく。しかし「“人が語る”というアナログな面は変わらず残る]と永田さんはいう。「同じ月を語るにも、その人の経験をもとに、思いを交えて話すというのはAIには絶対にできないことだと思う。機械の操作がオートになったり、AIが解説するプログラムが登場したりの変化はあるかもしれないですが、ライブで“人が語る”という解説の方法は残っていくのでは」と予想する。

|大人がチャージスポットとして活用するプラネタリウムに

人類が地球に誕生するより前から存在していた星たち。それゆえに「星空を見上げる」とは、人間に組み込まれた行為なのかもしれない。

「星空のように大きくてあらがえないものに対しては謙虚な気持ちになりますよね。また、災害が起きたときは多くの方が星空を見上げたと聞きます。脳科学の面でも、人間って上を向くと落ち込むことができないのだとか。辛いときに星空を見上げるというのは、人間の本能なのかもしれないですね」(永田さん)。

「僕は星空ってやはり癒しだと思います」と村松さんも重ねる。「星を見る行為は、人間には絶対に必要なものです。星が見えづらい渋谷だからこそプラネタリウムは必要で、渋谷で星を眺めるという意味では、コスモプラネタリウム渋谷はかなり理想的だと自負しています」(村松さん)。

天体やプラネタリウムについて知識を深められる展示も。プラネタリウム100周年にちなみ、五島プラネタリウムで使われていた投影機、カールツァイス4型の図面や部品を展示。

渋谷という立地から、来客者は20〜30代が多数を占める。「プラネタリウムというと子どもが星について学ぶ場所を想像する方もいますが、当館は大人向けのプログラムがほとんど。また平日だと19時の回があるので、お仕事帰りにいらっしゃる方も多いです。カフェのような感覚で、仕事帰りに星空を見てチャージする場所として使っていただけたら」(永田さん)と来館を呼びかける。

星空に意識を向けてみると、いかに人間という存在が小さいものか実感させられる。そして空を見上げて天体を探したくなるはずだ。どんなに都会でも夜空に星は必ず輝いている。都心だから、渋谷だから、プラネタリウムで星空に思いを馳せてほしい。コスモプラネタリウム渋谷では今日もエキスパートたちが星について伝えてくれている。

Cosmo Planetarium Shibuya
○住所:渋谷区桜丘町23−21渋谷区文化総合センター大和田12階
○電話:03-3464-2131
○ Sales:
【火〜金曜日】12:00〜20:00
【土・日曜日、休・祝日】10:00〜20:00
※投影機器保守等のため、開館日時が変更となる場合があります。
○休館日:月曜日(祝日の場合は開館し、その直後の平日が休館)、年末年始
○ official:https://shibu-cul.jp/planetarium

古川はる香(tannely)

渋谷区在住約20年。女性誌、育児誌などでもライターとして活動中。渋谷に住むママ目線での情報をお伝えしていきたいです。

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