BUNKA X PERSON

伝説の建築家ルイス・カーンの死から30年…。「マイ・アーキテクト」は、彼の息子で映画監督のナサニエル・カーンが、父親が残した建築物や所縁のある人々を訪ね、父カーンの、そして自分自身の人生を辿る長編ドキュメンタリー。1月28日、渋谷に誕生したシネコン「Q-AXシネマ」でオープニング上映をしています。そこで今回は、渋谷に事務所を構え、カフェやサロンの内装・外装デザインを幅広く手がける前田弘児さんを、ご本人の代表作、原宿「EX’REALM」にお呼びして、同映画の、そしてルイス・カーンの魅力について語ってもらいました。
映画「マイ・アーキテクト」のストーリーはこちら
Q-AX
――大学で建築学を勉強された前田さんから見て、建築家ルイス・カーンの姿はどのように映りましたか?

ソーク生物学研究所(カルフォルニア州)
© 2003 The Louis Kahn Project, Inc.

大学の講義で初めて彼の作品を見たとき、「孤高の建築家」という印象を受けたのですが、映画の中で、自分の信念を貫くためひたすらストイックに制作活動に打ち込んだ、というエピソードが何度も出てきているのを見て、やはりイメージ通りの人だったのだと思いました。劇中にもカーンが設計した作品が登場しますが、カーンの建築は単純な形態だけど存在感がありますよね。建築物はその人の生き方や人間性を映し出す鏡なのだと、改めて実感させられましたね。



――これまで、彼の素顔の部分は、あまり知られていなかったと思うのですが…
確かに、彼の人間性や生き方というのはまったく未知の部分だったので、それを知ることが出来たのは、非常に興味深かったですね。人種や顔のやけどで、時には差別を受けていたたことも初めて知りましたし…。でも一番意外だったのは、カーンがみんなに「愛されるキャラクター」だったということ。3つの家族を持っていたり、夜中の3時に社員に激怒したり…と、偉人ならではのエピソードも多々あったようですが(笑)、それでも彼のことを悪く話す人はいない。それどころか、みんなすごくカーンに対して愛情を持っているというのが、登場するすべての人から伝わってきました。また、ピアノや絵など、建築以外にも才能があったというのも新たに知りました。彼が描いた絵を見ると、タッチや色使いがとても柔らかくて優しくて、そうした部分に“建築家ルイス・カーン”を離れた、“人間ルイス・カーン”の本質を垣間見た気がします。

© 2003 The Louis Kahn Project, Inc.


――映画を見て、改めて影響を受けた、または共感した部分は? 「レンガがアーチになりたがっている」など、一般的にカーンの言葉は哲学的で難解といわれていますけど、作中、大学で講義をするカーンが、生徒たちに向かって言った「素材に敬意を払え」という言葉は、まっすぐ心に響くものでした。僕自身、普段から“素材を活かした表現”には、こだわっている部分でもあるので。それと、共感というか、自分も持ち合わせているなと感じた部分は、一度作業に没頭してしまうと、周りを省みない性分ですかね。家に帰らず事務所に泊り込むというエピソードがありましたけど、僕もプレゼン前には徹夜で作業したり、事務所で寝たりしてますし(笑)。

――「マイ・アーキテクト」は第76回アカデミー賞(長編ドキュメンタリー部門)にもノミネートされた作品ですが、ドキュメンタリーとしての魅力はいかがでしたか? カーンの美しい建築や著名な建築家のインタビューなど、建築に詳しい人ならそれを見るだけでも十分楽しめると思いますが、でもやはり、一番の見どころは、親子のドラマですよね。父の存在を受け入れられずにいた息子ナサニエルが、さまざまな建築作品や親交のあった人々に出会っていくなかで、父への想い、そして自分の感情が変化していく…その過程にあると思います。それと、編集もすごく良いんですよね。建築物ごとに分かれたセンテンスも見やすい長さだし、カントリー、R&B、クラシックなど、音楽の使われ方も効果的で、ドキュメンタリーが陥りやすい「単調さ」みたいなものをまったく感じさせない、テンポ良く、ポップなつくりでした。 ――カーンは相当なこだわりを持って作品づくりに没頭していました。前田さんのこだわりとは、どのようなものでしょう?
カーンは、永遠に残る芸術作品としての建築物を求めた。確かにそれは建築に関わるものとしての夢です。今僕が携わっているのは、商業施設がほとんどで、それは「消費されること」が大前提なんですね。そして、デザインやコンセプトを考える上でも「お客様ありき」なので、自分の芸術的感性ばかりで作るわけにもいかない…。でも、さまざまな制限がある中で、アンテナにひっかかったものや、心からキレイだと感じたもの、そういった自分ならではの感性を、デザインの中にいかにして盛り込んでいけるか、という課題は常に自分に課しているつもりだし、譲れないこだわりでもあるんです。カーンほど、とまではいかないかもしれないけど(笑)、そうしたポリシーを貫いて、自分にしか出来ないデザインを生み出していきたいですね。それと、同じ「消費をされる」ということにしても、1年でも長くそこに存在すること、そして、そこを訪れた1人でも多くの人に感動してもらえること、そんな“良い消費”をされる、そんな建築作品を作り続けていきたいです。

ルイス・カーンってどんな人?

© 2003 The Louis Kahn Project, Inc.

ライト、コルビュジェ、ミースらと並ぶ20世紀建築界の巨匠。1901年エストニアのサーマニー島生まれ。4歳でフィラデルフィアへ移住。事故による顔面のやけど、深い貧困生活を経験。1924年大学卒業後、建築家としての活動をスタートするも、長い間不遇の時代が続く。50歳を越え、リチャーズ医学生物研究棟で世界中から注目を浴びる。その後ソーク生物研究所、キンベル美術館、バングラディシュ国会議事堂など歴史的建築物を世に送り出す。数々の哲学的な言葉を残したことでも知られ、有名な一説に「太陽自身、建物の壁に当たるまで、光の偉大さを知らない」などがある。1974年3月、インドからの帰りに駅のトイレで謎の死を遂げる。享年73歳。

MAEDA’S WORKS
前田さんが手がける代表的なショップやサロンを紹介!

EX’REALM(原宿)
バイクと音楽のYAMAHAが運営する、新しいタイプのコミュニケーションスペース。今回、取材が行なわれたのは、“乗り物”をコンセプトとした、同店1Fのカフェ「Ex’ cafe」。特に前田さんがこだわった部分は「店内の柱ごとに取り付けられた奥に飾られるオレンジ色のライト。高速道路を走る車のライトや、トンネルの光をイメージしたものです」とのこと。このほかにも、イスやレコードラックなど、店内には前田さんのオリジナル・インテリアが満載。ぜひディテールまでチェックしてみて!
[住所] 渋谷区神宮前1-12-6
[電話] 03-5770-2775(カフェ直通)
[交通] JR線原宿駅、地下千代田線明治神宮前駅
[時間] 11:30〜23:00(L.O 22:30)
[休日] 水曜定休
[URL] http://www.exrealm.com/index.html

OTHER WORKS
kakimoto arms 青山店
(ヘアサロン)
mod’s hair
(ショウブース)
SENSE of TASTE
(バー)

事務所を渋谷に選んだワケは? 仕事柄、ファッションも音楽も映画も、常に世の中のトレンドや最新情報はおさえておかなければという気持ちがあるのですが、忙しくて、わざわざ出かけるというのは難しい。でも、渋谷だと、普通に街を歩いているだけで、欲しい情報にたくさん出会える。それに、デザインに必要な素材が豊富に揃う東急ハンズがあるのも大きなポイントですね。クリエイティブな感性を磨くにはちょうど良い環境なんです。

渋谷でデザインしてみたい場所って? 渋谷駅から原宿方向に向かって広がるJRの高架と、明治通りに挟まれた宮下公園周辺。場所の割には地味な印象のまま存在しているので、公園の有効活用として期間限定のイベントや移動式のカフェ、バーやショップなどができたら楽しそう。もしそんな計画が実現したら、デザインのプロデュース、してみたいですね!


■プロフィール
前田弘児(まえだ・こうじ)さん
1970年生まれ。兵庫県出身。東京芸術大学美術学部建築科を卒業後、設計事務所、インテリアデザイン事務所勤務を経て、1998年、かねてからホームグラウンドだったという渋谷に「マッキーナデザインラボラトリー」を設立。カフェ、レストラン、ヘアサロンなど商業施設を中心に、内装及び外装のデザイン設計を多数手掛ける。

マッキーナデザインラボラトリー
[住所] 渋谷区東1-13-3カイトーハイツ202
[電話] 03-5464-0731
[URL] http://www.m-dl.co.jp

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