
今回は多くの尊い命が犠牲になった第二次世界大戦を思い返し、個人と国家との関係について考える映画群をピックアップ。

ユーロスペースでは2月14日から、冤罪死刑事件「袴田事件」を死刑を宣告した裁判官の視点で描いた「BOX袴田事件 命とは」など、「人を裁くこと」をテーマに選んだ映画8本を特集する第4回死刑映画週間がスタートする。
主催は弁護士や宗教関係者など約5000人が賛同し、死刑廃止を求める「フォーラム'90」。これまで、罪を償い再生する道と罪を赦す心についての特集や、死刑制度を維持する「国家」について着目した特集などを実施。幅広い映画作品から、「死刑制度」について考える場を設けてきた。
「人は人を裁けるのか」という今回のテーマは、死刑囚だった袴田巌さんが無罪確定となり48年ぶりに釈放されたことなどを例に、論理と倫理を欠いた人びとが「人を裁いている」現実にフォーカスしたもの。これを扱った「BOX袴田事件 命とは」のほかにも、かつての婚約者同志が裁判官と被告という場に立つ裁判を描いた「ゼウスの法廷」(2013年、日本、136分)や、1953年に実際に起こった冤罪事件「徳島ラジオ商殺し事件」をモデルにした「証人の椅子」(1965年、103分)、北朝鮮の強制収容所で政治犯の息子として成長し、奇跡的に脱北に成功した青年のドキュメンタリー「北朝鮮強制収容所に生まれて」(2012年、104分)など8作品がプログラム制で上映される。
期間中には、冤罪死刑囚の袴田さん、映画評論家の柳下毅一郎さん、ジャーナリストの青木理さんなどを招いたトークも展開する予定。死刑反対派も、賛成派も、それぞれを思い直すきっかけにしてみては?

渋谷イメージフォーラムでは2月14日から、第二次大戦中に実行されたユダヤ人の強制収容を扱った全篇9時間27分のドキュメンタリー「SHOAH(ショア)」など、クロード・ランズマン監督3作品を上映する。
ランズマン監督は1925年フランス・パリ生まれ。高校生だった第二次世界大戦中は、ナチス侵攻に抗してレジスタンス活動に参加。戦後はサルトルやボーヴォワールと親交を深めてジャーナリストとして活躍し、1985年に「SHOAH」を発表。全米の思想界に衝撃を与えた。以降現在までドキュメンタリー作家として、ナチス・ドイツによるホロコースト(大量虐殺)の真実を追求し続けている。
戦後70年を迎えるにあたって、現在では日本版DVDが絶版となり“幻の傑作”となった「SHOAH」を公開する今回。同作ではランズマン監督がナチスの収容所から生還したユダヤ人、収容所の元ナチス親衛隊員、収容所の近くに住むポーランド人農夫などの膨大な証言者を訪ね、567分の本編を第四部で紹介。過去の記録映像や感傷的な音楽を一切排除した芸術性溢れる作品として高い評価を得ている。ほかにも収容所でのユダヤ人による武装蜂起の計画と挫折を伝える「ゾビブル、1943年10月14日午後4時」、最新作「不正義の果て」も合わせて上映する。
戦後70年を迎え、ホロコーストの「記憶」を風化させないよう、しっかりと心に刻みたい。

アップリンクでは2月21日から、32年間の服役生活の後、仮出所から19年が経った現在もなお無実を訴え続ける石川一雄さんを追ったドキュメンタリーで、2014年度の毎日映画コンクール「ドキュメンタリー映画賞」を受賞した「SAYAMA みえない手錠をはずすまで」が公開予定。
石川さんは1963年5月、当時24歳で、埼玉県狭山市で発生した女子高生を被害者とする強盗強姦殺人事件の加害者として逮捕。一審では罪を認め死刑判決を受けるも、その後一転して冤罪を主張。無期懲役が確定して服役し、1994年に仮釈放された。
「冤罪被害」「被差別部落」など、さまざまな社会問題をはらんだ狭山事件の渦中の人物を追った同作は、しかしそういった問題に焦点をあてた構成にはなっていない。そうではなく、「どうきりとっても"無実"としか思えない」(金監督)石川さんを主人公に、殺人犯というレッテルを貼られてもなお「幸せそう」だという石川さんの日々の暮らしを追う。
50年間「殺人犯」というレッテルを背負いながら、苦難の連続である日常を泣き笑い怒り、まっすぐに生き抜く石川さんの生き方に、「幸せとか」「愛とは」「友情とは」「正義とは」様々な問いへの答えを探してみたい。
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