SHIBUYA BUNKA SPECIAL

東京都写真美術館

日本初の写真・映像専門の美術館である東京都写真美術館。国内作家を中心とする豊富なコレクションを生かした作品展示に加え、新進作家への支援、さらにスクール・プログラムやワークショップなど教育普及事業にも力を注ぐなどし、写真・映像の文化的価値を広めるうえで非常に大きな役割を果たしている。

  豊富な収蔵作品を生かしたユニークな展示

東京都写真美術館エントランス

国内初の写真・映像専門の美術館として平成7年に開館した東京都写真美術館。以来、写真・映像の文化的価値を広めることを目的として、国内外の大御所から新進の作家まで幅広い作品を収集・保存・紹介している。
東京都写真美術館の大きな強みが国内作家を中心とした豊富なコレクションだ。写真と映像を合わせて2万3000点余りを収蔵し、館が指定する「重点収集作家」の作品を中心に、現在も収集を続けている。事業企画課・普及係長の渡邉和子さんは、「歴史的な評価が高い作家もさることながら、現時点での知名度は低くても将来的な活躍が期待される作家も収集の対象です。時代や地域に偏らず、国内外の写真の歴史を系統立てて紹介することも念頭に置いています」と説明する。

<ラスロ・モホイ=ナジ 「手」 1926 年>
福原義春館長によるディレクターズ・チョイス
『キュレーターズ・チョイス07』展にて

年間約25本程度の展覧会のうち、とくに目を引くのが重点収集作家の作品展だ。現在開催中の東松照明「Tokyo曼陀羅」展に続き、12月には土田ヒロミ、さらに2008年には森山大道など、まさに戦後日本を代表する写真家の個展が立て続けに企画されている。
収蔵作品を最大限に活用して企画され、4部にわたる会期を通して昭和時代の変遷を振り返る『昭和 ─写真の1945〜1989─』展は、映画『ALWAYS 三丁目の夕日』のヒットなど、“昭和ブーム”が続いている状況も追い風となって人気を博している。「普段、写真にはあまり興味のない方が、昭和を懐かしむ目的で初めて来館していただいたというケースも多いようです」と渡邉さん。

東京都写真美術館の学芸員がお気に入りの収蔵品を選ぶ『キュレーターズ・チョイス』展は2006年から開催されており、そのユニークな切り口で好評を博している。「当館には、館長以下、学芸員、専門調査員、司書、保存科学専門員など写真や映像に携わる専門スタッフが21名従事しています。そのようなスタッフが、日頃の研究を活かして事業を企画・運営する中で培った個性的な視点にもとづいて、収蔵品をセレクトした展覧会です。普段はほとんど表に出ない学芸員ですが、研究者であると同時に、お客様と同様、写真を愛好する一人であり、当館の収蔵品の魅力や多彩さをお伝えしたくて、この企画を実施しました」。一枚の写真をチョイスした、その背景にいる学芸員の存在を意識するようになると、展覧会の印象は、作品そのものの魅力に加え、学芸員の知識やセンスによっても大きく左右されることに気付かされる。

「昭和 ─写真の1945〜1989─ 第4部『オイルショックからバブルへ』昭和50年代以降」展展示風景

写真・映像にどっぷりと浸れる環境を整備

事業企画課普及係長の渡邉和子さん

東京都写真美術館は次の時代を担う作家に発表の場を与えることにも積極的だ。若手の写真家や映像作家をクローズアップする『日本の新進作家』展が今年で6回目を迎えるほか、2008年からは『映像をめぐる7夜(2008年2月開催予定)』を毎年開催し、展示や上映、ライブ・イベント、講演などを複合的に行い、様々な分野で活躍中の若手アーティストをクローズアップして映像分野の活性化を図る考えだ。「日替わりで異なるイベントを開催します。こうした新しい試みに、お客様にも気軽に参加していただけるよう、入場は無料に設定しています」と渡邉さん。
そのように東京都写真美術館が映像作品にも力を注ぐのは、写真と映像は密接で不可分の関係にあるという考えが背景にある。近年は、アニメやゲームに関する作品展など、映像をより柔軟に捉えた企画も目立っている。映像作品の発信という点では、「実験劇場」と銘打った1階ホールでの映画上映も見逃せない。12月に上映される「MAGNUM PHOTOS 世界を変える写真家たち」に代表される「写真家」を扱った映画に加え、実験的な作品や社会派ドキュメンタリーなど、上映作品は多彩なジャンルに及ぶ。渡邉さんは「上質でメッセージ性に富むとともに、他館ではあまり上映されない映画を重点的に選んでいます」と選定の基準について説明する。

図書室では写真集や雑誌、専門書を中心に蔵書している

東京都写真美術館は、国内では数少ない本格的なモノクロ暗室を備える公立美術館でもあり、銀塩写真の魅力を伝えるワークショップをたびたび開催している。デジタルが隆盛する今、なぜアナログなのか。「どれだけデジタル技術が進化したといっても、露光範囲の豊かさ、色味の奥の深さなどは、現時点では銀塩写真には到底かないません。そうした写真文化や技術の魅力を伝え続けるのは当館の使命の一つです」と力を込める。実際、銀塩写真を扱うワークショップは応募者が多く、つねに高倍率の抽選になるそうだ。

さらに、約6万冊の蔵書を誇る4階の図書室では、開催中の展覧会に合わせた特設コーナーを設け、展覧会で興味を持った作家や作品についてさらに深く調べられるほか、小中学生や高校生を対象に鑑賞会やフォト・モンタージュの制作などを行う「スクール・プログラム」なども好評だ。また、渋谷・恵比寿・原宿の主要文化施設を結びつける「あ・ら・かるちゃー」の運営やイベントなどを通して、周辺地域の文化活動を広くアピールしている。東京写真美術館には、写真や映像という視覚芸術の世界において、初級者から上級者までを満足させる抜群の環境が整っている。

もっと美術館が楽しくなる! 達人が勧める鑑賞法同じ被写体に同じカメラを向ければ、誰でも全く同じ写真が撮れると思っている方もいるかもしれない。「ところが、一点たりとも同じ作品が存在しないのが写真の面白くて、不思議なところ。それは写真家がその瞬間に抱いていた感情や精神力が写真に乗り移っているからだと思います」と渡邉さん。さらに「だからこそ、写真は人を感動させるのでしょう」と続ける。渡邉さんのお勧めする鑑賞法は、「とにかくたくさんの作品に出会うこと。そのうちに自分の好みが分かり、時代によって変遷する写真の技法などの知識も身に付いていきます」。そのうえで、「興味があればデジタルカメラでも、携帯のカメラでも、とにかく自分で撮ってみること。撮った写真をコミュニケーションツールとして活用してみるのも楽しいですよ。写真が身近に感じられます」と勧めてくれた。

東京都写真美術館

国内唯一の写真と映像の専門美術館。3つの展示室と映画ホールを持ち、作品約2万3千点、蔵書約5万4千冊と世界的規模のコレクションを誇る。国内外の著名写真家の個展から、最新CGアートまで年間約25本の多彩な展覧会を開催。4階の専門図書室では写真に関連した書籍や、貴重な写真集を無料で閲覧できる。映画ホールでは美術館ならではの質の高い作品を単館上映。

住所:目黒区三田1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス内 
TEL:03-3280-0099
営業時間:10:00〜18:00 (木・金は20:00まで)※月曜休館(休館日が祝日または振替休日の場合、その翌日)、年末年始

東京都写真美術館オフィシャルサイト

【現在開催中の主な展示】
「昭和 ─写真の1945〜1989─ 第4部『オイルショックからバブルへ』昭和50年代以降」
高度経済成長が終わり、戦後派世代が家庭を担うようになった昭和50年代。地域社会や家族の崩壊、個人主義の蔓延など、昭和時代後期の風潮や社会問題を写し込んだ作品を紹介する。(写真:荒木経惟「写真論 1988-1989」より 平成元(1989)年)

開催日時:2007年10月20日〜2007年12月9日

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【現在開催中の主な展示】
東松照明「Tokyo曼陀羅」
1950年代から活躍する写真家、東松照明の写真世界を代表する著名なシリーズに加えて、東京を拠点に各地での取材撮影でとらえた「恐山」や「桜」など重要なシリーズも展示する。(写真:東松照明<写真家4 東松照明>東京 1978年 作家蔵)

開催日時:2007年10月27日〜2007年12月16日

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【次回開催の展示】
「土田ヒロミのニッポン」
1960年代終盤から写真家として活動を開始した土田ヒロミの作品展。日本の土俗的な文化、ヒロシマ、高度経済成長、バブル経済などを通して問題提起を続ける土田の作家活動の軌跡に加え、最新作を紹介する。(写真:土田ヒロミ「新・砂を数える」 1995-2004年より)

開催日時:2007年12月15日〜2008年2月20日 ※2008年1月2日(水)〜1月4日(金)は年始特別開館

展示について詳しくはこちら

1.芸術の秋、渋谷の美術館で遊ぼう!

2.Bunkamura ザ・ミュージアム

3.渋谷区立松濤美術館

4.ギャラリーTOM

5.東京都写真美術館


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