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2020年プログラミング教育に向け、東急、IT大手4社が「Kids VALLEY」始動!

現在、親が子どもに通わせたい習い事の上位に「英語」と共に並ぶのが、「プログラミング」だ。IoT、AIが主流となる時代に向け、人とコンピューターとのコミュニケーションを促進する「プログラム言語」に高い注目が寄せられている。中でも2016年に文部科学省が2020年度から小学校での「プログラミング教育の必須化」を発表して以降、その熱は一気に加速している。きっとお子さんを持つご家庭なら実感していることだろう。

| 「渋谷への恩返し」 渋谷が輩出したIT企業が次世代の子どもを育成

▲協定の締結式。左からサイバーエージェント藤田晋社長、DeNA南場智子会長、東急電鉄高橋和夫社長、豊岡弘敏渋谷区教育委員長、GMO熊谷正寿会長兼社長・グループ代表、ミクシイ木村弘毅社長

渋谷区では、2017年9月から全国に先駆けて区立小学校と中学校の生徒全員に一人一台のタブレット型端末を配布し、ICT教育システムを推進。さらに来年から小学校で、2021年から中学校で始まる「プログラミング教育の必須化」に向け、渋谷区教育委員会は今年6月に渋谷を拠点とする東急電鉄とサイバーエージェント、ディー・エヌ・エー(DeNA)、GMOインターネット、ミクシィのIT大手企業4社との間で「プログラム教育事業に関する協定」を締結し、同時に渋谷区立小・中学校でのプログラミング教育の充実を目指して「Kids VALLEY未来の学びプロジェクト」を始動させている。

協定締結式に参加したDeNA会長・南場智子さんは「プログラミングは、従来の教育システムの欠点であるパッション、クリエイティビティ コラボレーションを身に着けることができる素晴らしい取り組み」とプログラミング教育を称賛した。

1990年代後半から2000年前半にかけて渋谷で勃興した「シブヤ・ビッドバレー」の中心企業4社が手を組む同プロジェクトは、渋谷の持つリソースを最大限に活用した取り組みといえる。約20年前、海の物とも山の物ともつかない存在であったITベンチャーが今日、一流企業として成長を遂げ、こういう形で渋谷とかかわりを持つなど誰が想像しただろうか。渋谷から輩出されたIT企業・人材が、次の渋谷を担う子どもたちの教育に携わるというのは実に素晴らしい試みだ。

GMOインターネット会長兼社長・グループ代表の熊谷正寿さんは「(プログラミングのサポートを通じて)渋谷へ恩返ししたい」といい、「今の時代は、英語や中国語と並び機械語であるプログラミング言語も勉強すると、人生が変わります」と、子どもたちに向けて「プログラミング習得」の必要性をアピールした。

ではIT企業4社は、具体的にどんな形で子どもたちの教育の現場にコミットするのだろうか。「小学校や中学校の学年別で担当会社を振り分けていく」とし、DeNAは「小学生低学年(1〜3年)」、サイバーエージェント、GMOは「小学生高学年」、ミクシィは「中学生」向けのカリキュラムの開発や教員の研修など、来年から必須化する授業を支援していく。「日本を代表するIT大手企業がサポートしてくれるなんて…」と、他の市区町村教育委員会の方々は羨望の眼差しで渋谷をきっと見ているに違いない。

| 渋谷区内の小学生とプログラミングサマーキャンプ開催

夏休みを迎えた8月、同プロジェクトの一環としてサイバーエージェント、DeNA、GMO、ミクシィの各社が、 渋谷区在学・在住の小中学生を対象に「プログラミングサマーキャンプ2019」を実施した。来年の本格始動を控え、子どもたちにプログラミングやゲーム開発の面白さを体感してもらおう、という企画だ。会場は各社のオフィス等を利用して、プログラマーやエンジニアの仕事内容が見られるというもの。日頃、自分たちが遊んでいるゲームをどう作っているのか、プロの仕事を間近にして夢を膨らませる子どもたちもきっといたことだろう。

このレポートでは、8月5日にDeNAが渋谷ヒカリエで実施したサマーキャンプの様子を詳しく紹介したい。

渋谷区在学・在住の 小学1〜6年生を対象とした同イベントには、28人の子どもたちが参加。DeNAは数年前から渋谷区から依頼を受け、区内のいくつかの小学校で授業を行ってきた実績を持つ。特に初めてパソコンに触れる小学校低学年に向け、同社ではブロックをつなぐようにビジュアルでプログラミング概念が学べる、プログラミング学習アプリ「プログラミングゼミ」を独自開発している。区内小学校の教育現場でも既に使用されており、今回のイベントでは同アプリの最新バージョンを使ってワークショップが行われた。

▲子どもと対話しながら、ゲームのキャラクターづくりを進める

ワークショップの前に、DeNAでゲーム開発などに携わるプログラマー・緒方文俊さんが「ライブコーディング」を披露。この日のために「1か月前から準備を進めていた」という恐竜が主役のアクションゲームを、緒方さんは小学生と対話しながらコーディングを進めた。例えば、「恐竜の大きさはこれでいい?」「口からは何が出る?火かな?」「敵はどんな恐竜がいい?」など、子どもたちのリアクションを見ながらキャラクターづくりを進める。さらに「恐竜と敵がぶつかったときにダメージを受けるようにするよ。これを業界用語で『当たり判定』って言います。今日はこれを覚えて帰ってね」など、ゲーム制作の基本となる用語や情報を織り交ぜながら、ゲームプログラマーの仕事の一端を垣間見せた。

▲攻撃やキャラクターの動きをコーディング

子どもたちも、いつも遊んでいるゲームがどうやってできているのかを知る機会を得て、身を乗り出してライブコーディングを見つめる姿が目立った

▲今回のワークショップのテーマは「しぶやをイメージしたアニメーションをつくろう!」

ライブコーディング後、実際に子どもたち自身が手を動かすワークショップが始まった。プログラミング学習アプリ「プログラミングゼミ」開発者のDeNA末廣章介さんがワークショップの手順を説明。今回は「しぶやをイメージしたアニメーションをつくろう!」をテーマとし、自分が描いたキャラクターやハチ公のイラスト、風船や音符、星などの飾りを撮影してパソコンに取り込み、渋谷のまちの風景を背景としてアニメ―ションを制作していく。

まず、子どもたちは思い思いの感性でキャラクターづくりを行う。

ハチ公や飾りなどのイラスト、渋谷のまちの風景などはいくつか写真やシートが用意されていて、そこから使ってもよい。

描いたキャラクターやイラストなどをパソコンで撮影して取り込む。

取り込んだ写真の不必要な部分は、消しゴムツールで消し、イラストをきれいにトリミング(切り抜き)していく。

渋谷のまちの背景の上に、キャラクターやハチ公、飾りなどを配置して、「すすむ」「ちょっとまつ」「〇びょう(秒)かくれる」「〇〇とぶつかった」「←をむく」など、視覚的なオブジェクトを入れ替えながら、子どもたちが各キャラクターや飾りに動きを付けていく。プロのプログラマーが使うプログラミング言語とは異なり、ビジュアル化したブロックを前後に動かしながらプログラムを進める。
正しい順番で「動き」を付けていかなければ、各キャラクターは思い通りには動いてくれない。頭を悩ましながら、ブロックを何度も何度も入れ替えて動作確認をする子どもが多かった。この過程は実際のプログラムにも通じる概念で、物事をシンプルに分解し、順序立てて考える論理的な思考を育てることにもつながるそうだ。

かつて小学生の遊びといえば、教科書の端に描いていた「パラパラ漫画」であったが、現代においては、自分が描いた絵がタブレット上で簡単にアニメ―ションになる時代。ここで何を表現するか、子どもたちの創造力が試される。

13時からスタートしたワークショップは途中で休憩を挟みながらも、夕方16時過ぎまで丸3時間にわたって行われた。途中で息切れをする子どもがいてもおかしくはなかったが、最後まで 高い集中力を保ちながら、真剣に作品づくりに取り組んでいた。会場からは「すごく楽しかった」という声も目立った。「プログラミング=難しいもの」ではなく、まずは遊びながら楽しみながら、子どもの好奇心や探求心を呼び起こさせることが大事なのだろう。

ワークショップの最後に末廣さんは「実際にやってプログラムは一見難しそうだけど、やってみると結構簡単だったと思います。自分の絵を取り込んでと、自分の絵が動いているのを見るとすごい気持ちいいし、楽しいですよね。どんどん自分の気に入った絵を動かしてほしい。これからも、こういう面白いことを突き詰めていってほしいと思います」とイベントを締めくくった。

あと15年後、今小学生の子どもたちが社会人として働き始めるころ、2035年の渋谷はどんな街になっているのだろうか? 自動運転のクルマが走り、空には大型ドローンが配送を行っているのだろうか……。すべてのものがネットでつながり、AIが組み込まれる時代、プログラマーを始めとするIT人材の需要はますます高まる。2016年に経済産業省が発表した調査結果によれば、2030年ごろには約80万人のIT人材が不足すると推計。資源の乏しいに日本としては、この分野での進化発展が強く望まれている。2020年度からの小学校での「プログラミング教育の必須化」が、IT人材育成の土台づくりにどう寄与していくのか楽しみだ。

編集部・フジイタカシ

渋谷の記録係。渋谷のカルチャー情報のほか、旬のニュースや話題、日々感じる事を書き綴っていきます。

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