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「ル・シネマ」が渋谷TOEI跡地へ! 渋谷の映画文化を支える「東急」と「東映」の歴史

東急百貨店本店の閉店・建て替えに伴い隣接する複合文化施設「Bunkamura」内の各施設(オーチャードホールを除く)は、大規模な修繕工事のため4月10日から2027年度(再開時期未定)まで長期休館に入っている。

▲「東急百貨店本店」跡地の再開発「Shibuya Upper West Project」に伴い、隣接するBunkamuraも大規模な修繕工事のために2027年度まで長期休業中 。

休館中の自主制作公演は、横浜みなとみらいホール、東急シアターオーブ(渋谷ヒカリエ内)、THEATER MILANO-Za(東急歌舞伎町タワー)などで開催。また、ザ・ミュージアムは渋谷ヒカリエ9F「ヒカリエホール」などで展覧会を開催、アートギャラリーは渋谷ヒカリエ8F「クリエイティブスペース 8/」に「Bunkamura Gallery 8/」を移転し、東急グループが所有する各施設にコンテンツを分散し、長期休暇中も公演や展示企画などを継続していく。

▲Bunkamuraの各施設は、渋谷駅周辺の東急グループが運営する商業施設に分散し展覧会や企画展示などが継続される。

中でも「驚き」だったのは、ミニシアター「ル・シネマ」が昨年12月に閉館した「渋谷TOEI」跡に「Bunkamura ル・シネマ 渋谷宮下」として移転オープンするという発表だ。▲グラフィックデザイナーの畑ユリエさんが手がけた「Bunkamuraル・シネマ渋谷宮下」の新ロゴ。

ザ・ミュージアムやBunkamura Galleryの場合、空きスペースさえあれば、移転はそう難しいものではないだろうが、映画館の場合はそうはいかない。大型スクリーンや座席など専用劇場がどうしても必要となり、ゼロから代替施設を見つけることは容易ではない。渋谷駅前の好立地にある「渋谷TOEI」跡をそのまま居抜き利用できるというのは、「思いがけない幸運」である。一方で東映にとっても、直営劇場第1号である「渋谷東映劇場(1953年開業)」を前身する同所を「解体せずに貸し出せる」のは、願ってもないことだ。まさに双方のニーズがうまくマッチングした神業移転と言えるだろう。

▲移転先である「渋谷東映プラザビル」は、渋谷駅東口・宮益坂下交差点に位置する好立地。

が、今回の移転劇は単なる「利害の一致」だけではない。その背景には、おそらくは東急と東映の2社が歩んできた長い歴史が、少なからず影響を与えていることが想像される。そもそも東映(東京映画配給)の出発点は、東急電鉄の興行子会社である「東横映画」である。1938年に設立した東横映画は、東急線沿線の開発を目的とし、当時娯楽として人気の高かった映画館を渋谷や横浜などの繁華街で経営していた。戦後、映画経営が上手くいかない状況のなか、東急電鉄の五島慶太社長は、右腕として信頼していた大川博氏に再建を託す。1951年、配給会社「東京映画配給」、劇場運営・製作会社「東横映画」、制作スタジオ会社「太泉映画」の3社を合併させ、大川氏は東京映画配給(東映)初代社長に就任する。大川氏といえば、1946年に東急がプロ野球チームを買収し、「東急フライヤーズ」の経営に当たっていた当時のオーナーでもある。その後、東急フライヤーズの経営は東映に委託され、「東映フライヤーズ」とチーム名を変えていることからも、興行に関しては大川氏の「東映」に全面的に委ねていたことがうかがえる。

1959年、五島慶太氏が逝去し、長男である五島昇氏が社長を引き継ぐが、東急グループ内に大きな影響力を持つ大川氏(当時、東急副社長兼東映社長)との間には確執あったと言われている。父の腹心と、経営を任せられた2代目が、経営方針で食い違うということは想像に難くない。1964年に大川氏は東映を率いて東急から独立する形で、両者は距離を置く。その後、東映は東宝、松竹と並ぶ三大メジャーとして成長を遂げ、今日に至っている。

もともとの出発点は同じ会社であったこと、さらに様々な経緯を踏まえながら別会社として歩んできた歴史から、今回の「渋谷TOEI」跡への移転実現は、東急と東映の両社にとっては「特別なもの」だったに違いない。1953年、宮益坂下に「渋谷東映劇場」がオープンした当時、同劇場はまだ東急傘下であったことを考えれば、「今回の移転=東急が帰ってきた」と捉えることもできるかもしれない。

▲6月のオープンまでには、ビル壁面に「新ロゴ」が掲出されることだろう。

東映系の映画館といえば、時代劇や任侠もの、アニメ、特撮など、日本映画を中心としたロードショー館のイメージがある。一方で、ル・シネマはフランスをはじめ、ヨーロッパやアジアの作品など、より作家性や芸術性の高い海外映画を上映する単館映画館としてのイメージが強い。おそらく昨年末、移転発表があった際、両劇場の持つイメージから違和感を抱いた人もきっと少なくなかったと思うが、こうした歴史的な背景を振り返ると、この移転は納得できるものだろう。ル・シネマの移転は、東映と東急の歴史的再会であると同時に、渋谷の映画文化の新たな展開の始まりであると言えるのではないだろうか。

「Bunkamura ル・シネマ 渋谷宮下」の移転オープンは、来月6月16日。現在、決まっているオープン後のこけら落とし作品やラインナップは以下の通りである。

<今後の上映スケジュール>
・6/16(金)〜こけら落とし特集 マギー・チャン レトロスペクティブ https://www.bunkamura.co.jp/.../lineup/23_MaggieCheung.html
・6/16(金)〜こけら落とし特集 ミュージカルが好きだから
https://www.bunkamura.co.jp/cinema/lineup/23_musical.html
・7/7(金)公開Bunkamura初配給作品『大いなる自由』
https://www.bunkamura.co.jp/.../lineup/23_greatfreedom.html
・7/14(金)公開『サントメール ある被告』
https://www.bunkamura.co.jp/cinema/lineup/23_saint-omer.html
・8月公開『ソウルに帰る』
https://www.bunkamura.co.jp/.../lineup/23_returntoseoul.html
・今秋公開『旅するローマ教皇』
https://www.bunkamura.co.jp/cinema/lineup/23_inviaggio.html

編集部・フジイタカシ

渋谷の記録係。渋谷のカルチャー情報のほか、旬のニュースや話題、日々感じる事を書き綴っていきます。

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