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東急百貨店本店がある間にもう一度見ておきたい。55年の歴史の痕跡を探そう!

東急百貨店本店が2023年1月31日、55年の歴史に幕を下ろす。高級住宅街・松濤に隣接した土地柄からか、若者の街・渋谷のなかにありながらも、40、50代以上の大人がゆっくり買い物や食事などをして過ごせるデパートとして長年親しまれてきた。そこでだけに惜しむ声がとても多い。

閉店まで1週間を切るが、本店がある間にもう一度、建物や各フロアも見ておきたいと思っている人もきっと多いのではないだろうか。百貨店ならではの風格のある階段やエレベーター、屋上など、今しか見られない本店の姿をしっかりと脳裏に刻み込んでおくべく、そのポイントをいくつかご紹介しておきたいと思う。

まずは外観から見ていこう。外観写真を撮るなら、文化村通りを駅方面に下がったあたり。屋上のロゴから文化村通りまで、上から下までしっかり入る構図を押さえておきたい。現在、本店壁面には「最後」の屋外広告が掲出されている。

1967(昭和42)年にオープンした東急百貨店本店は、もともと「渋谷区立大向小学校」の跡地に建てられた。大向小学校は「現・神南小学校」の場所に移転し、その後、渋谷、大和田小と統廃合する形で現在の神南小学校が生まれた。そこで最後の屋外広告は、本店と深く関わりを持つ神南小学校の校庭を使い、児童や本店の従業員たちが、懐かしい過去のショッパー(百貨店の紙袋)を手に持ち、東急百貨店ロゴの「Q」マークを人文字で、ひし形部分を従業員のメッセージをつなぎ合わせて表現した。
遠くから見ると人文字かどうか分からないが、カメラのレンズなどを通しズームするとその姿がよく見える。

ちなみに本店正面から神山町方面に少し移動したあたりに「大和田小学校の碑」が立つ。本店が解体され、新しい商業施設がオープンした後も、石碑はこの地にいつまでも残ることだろう。
▲Shibuya Upper West Project 外観イメージ(提供=東急株式会社)

本店閉店後、その跡地は「Shibuya Upper West Project(渋谷アッパー・ウエスト・プロジェクト)」と称される再開発事業が始まる。2027年度の竣工を目指し、高さ164.8メートル、地上36階・地下4階の複合施設が建設される計画だ。新施設には、もともと「学び舎」だったという土地が持つ記憶を引き継ぎ、それにふさわしい施設になってくれることを期待したい。

本店はオープン時、現在の大きさの約半分だったが、3年後の1970(昭和45)年に増築。さらに1989(昭和64)年には、本店を「く」の字で囲む形で建てられたBunkamuraが開業し、音楽や文化、演劇などの文化施設と一体化するデパートとして機能と規模を拡大してきた。

▲左の茶色側の施設が「Bunkamura」、右のクリーム色の施設が「東急百貨店本店」。

フロアマップを見ると、本店とBunkamuraが複雑に連結していることがよく分かる。 1階は、そのまま1階同士でつながっているが、本店地下2階の駐車場とBunkamura地下1階、本店2階とBunkamura3階(オーチャードホール)、本店8階とBunkamura6階(ル・シネマ)と、階層レベルを超えてつながっている。この複雑なフロア構造を知っていれば、 ル・シネマで映画を楽しんだ後に、本店8階のレストラン街で映画の余韻を残して食事を楽しむこともできた。が、閉店まで数日、気が付くのがあまりにも遅すぎた。

本店外観というと文化村通り側ばかりがクローズアップされがちだが、神山町、松濤側から見る外観も悪くない。写真中央上部には2本のチムニーが立ち、手前には階段があり、屋外ステージのような小高いスペースが設けられている。まるでトマソン物体のような不思議なスペースも、文化施設ならではの「遊び」といえるだろう。

本店内1階からBunkamura入口方面に向かうと、左手に「エルメス」が店舗を構えるが、その手前に建物の境界線のようなものがある。実はここまでが、本店オープン当時の大きさ。エルメスから先の売場は1970年に増築完成したスペースだという。

もう一つ、建物外観で目立つのが、正面入口にあるガラス貼りのシースルー・エレベーターだ。その名も「展望エレベーター『クリスタルビュー』」。
オープン時からあったわけではなく、1973(48)年に新設置され、文化村通りから渋谷駅方面の景色を楽しめる「展望エレベーター」として注目された。今でこそ、シースルーは当たり前であるが、当時はきっと最先端だったのだろう。かつてデパートのエレベーターには、エレベーターガールが常駐していたが、「クリスタルビュー」設置時には、どんな案内をしていたのだろうか。「デパガ」「エレガ」という略称ももはや昭和だ。

さて、クリスタルビューに乗って最上階まで上ると、大都会・渋谷とは思えぬほど、のどかな大きな屋上スペースが広がる。夏場はビアガーデンなどで盛り上がりを見せるが、秋から冬場は人もそう多くなく、設置されたテーブルやベンチでお弁当を食べたり、本を読んだり、のんびり過ごすには絶好のスポットだ。数年前、冬場限定で屋上に「カーリングコート」を設けて、ゲームをしながらお酒が楽しめる「カーリングバー」という奇抜な企画も行われたが、何年か開催し終わってしまった。寒い季節の屋上利用はなかなか難しいものだ。

足下の年季が入ったタイルは、開業当時から変わっていない。建物や各フロアは常に手が加わっているため、開業当時から残るものはそう多くないが、ここのタイルは55年の歴史をそのまま体感できるものだという。

TOKYUやBunkamuraのロゴも屋上からだと、間近に見ることができるので、撮影におすすめだ。屋上ロゴは、ある意味、低層だった「昭和レトロ」百貨店の象徴ともいえる。東京都屋外広告物条例では、高さ52メートルを超える高さに広告を出すことはできない。 渋谷駅周辺で開業する新しい商業施設は、100メートル級の高層ビルばかりのため、今後、屋上にロゴを掲出する大型商業施設は出てこない。ぜひ、ロゴもしっかりと見収めておいてほしい。

さらにもう一つ、記憶に留めてもらいたいのが、階段スペースである。大理石を使った階段スペースは、デパートにとっての見せ場の一つ。
壁、手摺などに使われている材質から、かつてのデパートが持っていた高級感や重厚感あふれる雰囲気を垣間見ることができる。また、3階フロアには大理石の床タイルも残っているという。

階段のフロア表示の使用フォントも、モダンな昭和レトロを感じされる。

ここで紹介した情報以外にも、55年の歴史を感じさせるものが随所に見られる。ぜひ、営業期間内にもう一度、足を運び、下から上までしっかりと探索してみてほしい。

営業は1月31日19時まで。

<関連情報>
渋谷のラジオ「渋谷文化プロジェクト」
★テーマ「東急百貨店本店閉店」(1/25OA)


渋谷のカルチャー情報を発信するサイト『渋谷文化プロジェクト』と連動して放送するラジオ番組。水曜隔週でお送りしています。2023年1月25日(水)17:00〜17:30放送のテーマは「東急百貨店本店閉店について」。ゲストは東急百貨店営業企画部長 石田晃也さん、お得意様営業部 辻本沙也香さん、ワイン売り場「THE WINE」 佐藤美也子さんの3人。
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編集部・フジイタカシ

渋谷の記録係。渋谷のカルチャー情報のほか、旬のニュースや話題、日々感じる事を書き綴っていきます。

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