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渋谷ヒカリエ開業10周年で「シブヤ・クロニクル」トーク シブ経ニュースを辿りながら

渋谷ヒカリエ開業10周年を記念する企画の一環として、再開発が続く渋谷駅周辺の10年間を振り返るトークイベント「2012-2022 SHIBUYA CHRONICLE(シブヤ・クロニクル)〜変わりゆく渋谷の10年を振り返る〜」が4月28日、渋谷ヒカリエ8階の8/COURTで開かれた。

▲「渋谷の日」の4月28日、渋谷ヒカリエ8階・8/COURTでイベントが開催された。

東急文化会館跡地に「渋谷ヒカリエ」が開業したのは、2012年4月26日。その後、渋谷駅周辺エリアでは今日に至るまで、大規模な再開発事業が10年間にわたって続いている。ヒカリエ開業以前まで、渋谷といえばハチ公前広場側、道玄坂、公園通り側というイメージが強かったが、再開発事業のトップバッターである「渋谷ヒカリエの誕生」以降からは、東口エリアの印象がパッと明るくなり、東口方面への送客も一気に増えたような印象がある。ヒカリエが渋谷の街に与えたインパクト、さらにそれ以降、渋谷の街はどう変わったのだろうか――。

▲左から国学院大学経済学部・田原裕子教授、道玄坂商店街振興組合理事・大西陽介さん、同人誌「渋谷再開発」発行人・松本ゲカイさん

同トークイベントでは、渋谷の情報を伝えるローカルメディアである「渋谷のラジオ」と「シブヤ経済新聞」の共催で、渋谷ヒカリエ誕生から10年間の渋谷駅周辺の移り変わりを、「渋谷通」のゲストと共に振り返った。ゲストは、「渋谷学」にも関わる国学院大学経済学部・田原裕子教授、道玄坂商店街振興組合理事の大西陽介さん、同人誌「渋谷再開発」発行人の松本ゲカイさん。
▲左から渋谷のラジオ・パーソナリティの島田亜紀恵さん、シブヤ経済新聞・西樹編集長

渋谷のラジオ理事長を務める西樹シブヤ経済新聞編集長と、渋谷のラジオ・パーソナリティの島田亜紀恵さんが進行を担当し、計5人の登壇者が各々の渋谷との関りを語り合った。

今回のレポ―ト記事では、そのトークイベントの中から、この10年で外せない渋谷駅周辺のトピックスをいくつかピックアップして紹介したいと思う。

|10年前の「渋谷ヒカリエ」開業当日を振り返る

▲渋谷ヒカリエ開業当時の様子

西:2011年に震災があったので、僕の記憶だと、2012年春にヒカリエが開業する時に、どこまでにぎにぎしくやってもいいのかなと考えてしまう風潮がありました。スクリーンに映っているのは、ヒカリエ開業当日にシブヤ経済新聞で撮影した写真ですが、なかなかの行列ですね。コロナ時代の今見ると、ギョッとします(笑)。さて、皆さんは渋谷ヒカリエの開業をどう感じましたか?

大西:(ヒカリエの前身である)東急文化会館が閉店したのが2003年で、ヒカリエの開業が2012年。あまりにも長い間、何にもない時間があって、急に賑わいの場所ができたので、その落差とインパクトの大きさに驚きました。ある意味、存在を忘れていたエリアだったので(笑)。

田原:2012年は都市再生の流れで見ると、転換点だったと思います。2002年に都市再生特別措置法が施行され、都市再生緊急整備地域の制度ができたのですが、当初、渋谷は全然指定されず、3年遅れて第五次でようやく指定を受けた。(都市再生緊急整備地域指定に基づき)2012年の渋谷ヒカリエ開業時には「渋谷も偉くなったな、いよいよ渋谷も都心の仲間入りだな」と感じましたね。でも、震災のこともあったので、おおっぴらに祝ってもいいものやらと思いながら、この日を迎えたなという記憶があります。

▲「渋谷の再開発」に詳しい松本ゲカイさん

松本:2010年、ヒカリエ開業の2年前、新聞に全面広告がバーンと出たんですよ。東急文化会館の跡地に何かできるんだろうなとは思っていたのですが、こんなに力を入れているのかと思ったのが、最初のインパクトでした。オープン時には東横線のかまぼこ屋根の壁面の全てに、ヒカリエの広告がカラフルにダッーと出て、その華やかな風景が今でも記憶に残っています。

西:3・11から1年を経て、恐る恐る開業してみなさんの気持ちも少し前向きになったのかなと思う。最初、「ヒカリエ」というネーミングが発表された時は、衝撃でしたね。「ヒカリへ」じゃなくて「エ」なんだと、何回も言っている間に馴染んできたが、不思議な語感の言葉だったなという印象があります。

松本:この後、4文字の(カタカナ)ビル名が流行りましたね。完全にその走りだったと思う。最近だと「ソラスタ」もその一つですね。

|2012年〜2013年は渋谷のターニングポイント

<シブヤ経済新聞のニュース記事>
「渋谷ヒカリエ」開業−テープカットに亀治郎さん・片瀬那奈さんも(2012.4.26)
東横線、副都心線との相互直通運転開始は来年3月16日―現渋谷駅は廃止へ(2012.7.24)
渋谷駅再開発、概要明らかにー東棟は43階、高さ230メートルに(2012.8.31)
東急東横線渋谷駅から最終列車―85年の歴史に幕(2013.03.16)
代官山で相互直通運転に向けた切換工事始まるー始発まで3時間半で(2013.03.16)
東急東横線・東京メトロ副都心線、相互直通運転始まるー渋谷駅で発車式(2013.03.16) 
東急東横店東館、78年の歴史に幕―「東横のれん街」も移転へ(2013.03.31)
★()内は記事掲載日

西:渋谷ヒカリエは全ての再開発のスタートでした。2000年に渋谷マークシティが開業しましたが、そこからしばらくは大型開発がなかった。(シブヤビットバレーで)ベンチャー企業が成長して大きくなっても、渋谷区内で入居できるオフィススペースがなく、別の区に移転せざるを得ない状況がありました。「渋谷にもっとオフィスを増やさなきゃいけない」という背景も、再開発が大きく動き始めた要因だったと思います。

さて、2012年7月には「東横線、副都心線との相互直通運転開始は来年3月16日―現渋谷駅は廃止へ」と東横線と副都心線の相直運転が2013年3月と公式発表され、8月には「渋谷駅再開発、概要明らかにー東棟は43階、高さ230メートルに」と渋谷駅再開発の概要が明らかとなり、2012年、2013年は渋谷再開発のターニングポイントでした。中でも、この10年でベスト5に入る大ニュースの一つが、2013年3月15日の「東急東横線渋谷駅から最終列車―85年の歴史に幕」ではなかったかと思います。東横線渋谷駅の最後の日、みなさんはこの日をどう迎えましたか?

▲東急東横線渋谷駅からの最終列車を見送る鉄道ファン

大西:家帰る時にいつも東横線を使っていたので、(この日は)混んでいて大変だったことを覚えています。渋谷駅もですが、夜間に行われた「代官山の東横線地下化工事」は、数千人の工事作業員が関わり、すごかった。今ある地上の線路のその下に地下の線路が既に出来ていて……、僕は夜通し、この工事を見てましたね。

▲代官山駅の線路切換工事。最終列車から始発発車まで、約3時間半で地上線を地下線に切り替えた歴史に残る大工事

田原:確かに歴史に残る100年に一度の大工事。銀座線渋谷駅の移設時もそうですが、東京は公共交通に対する依存度が高いので、なるべく通勤・通学に影響のないスケジュールで工事が行われています。電車を止めないというのが、鉄道会社の享受なのかなと。ちなみに私はその日、代官山駅近くで飲んでいまして、ほんと戒厳令の日みたいな感じで、たくさんの工事作業員が現場に入っていく姿を見て、拝みながら飲んでました(笑)。

松本:私は電車好きの同僚と、東横線で渋谷から元町中華街まで行き、戻ってきて最終列車を見送りました。本当に人がたくさんいてすごかった。

西:鉄道好きの人は、最終列車が出ていく時に「ありがとう!」って叫ぶんですよ。それを初めて見て驚きました。「まだ、東横線が終わったわけではない」という駅長さんの最後の言葉もしびれました。

▲東急東横店東館閉館時の様子。

西:渋谷駅がなくなりましたから、その駅に直結している「東横店東館」も2013年3月31で78年の歴史に幕を下ろしました。写真を見てもらうと、シャッターが途中で止まっていると思うのですが、閉店写真ではシャッター、店員さんが頭を下げている絵が大事なんです(笑)。皆さんは、東館との思い出がありますか?

松本:物産展で買ったお弁当を東館屋上で食べたり、渋谷ヒカリエが出来る直前には、屋上からよく(工事風景などを)撮影していました。

大西:(東館の)屋上遊園地でよく遊んでしました。東急文化会館の屋上も怪しい雰囲気の古本屋さんがあったりしましたが、やはり西武、東横の屋上遊園地は子どもながらに心躍る場所でしたね。

▲渋谷川をまたぎ建設された東館。解体時にお目見えした渋谷川の様子。

西:渋谷川の移設も渋谷駅再開発事業の大きなエポックだと思います。東館を壊す時に一部、渋谷川が見えた時があったのですが、この写真はそれを撮影したものです。

田原:東館の地下に渋谷川が流れていたので、それを再開発工事の中にはめ込んでいかなければいけないということで、まるで立体のガラス細工のパズルを組み立てるような感じでしたね。

西:東館を入って直ぐのところにエスカレーターがあったのですが、階段3段分くらい上がったところにあったのですが、それは「下に川が流れていたから」と言われていましたね。今は渋谷駅東口地下広場に行くと、頭上に移設された渋谷川の出っ張りがわかります。さらに(地下広場の)地下には雨水を貯める貯水層も同時に造られていて、再開発というのは、見た目だけじゃなくて、見えない部分の計画もものすごく大変なんだろうなと思う。過去に山手線の高架下に水が溜まり、クルマが動かなくなったことがありましたが、あれが渋谷のトラウマになっている。スリバチ地形であるため、渋谷は地形的に面白い反面、水が溜まりやすく災害に弱い面もあった。それに対するアンサーが、(現在進行中の)再開発で商業施設開発と共に行われているわけです。

|キャスト、ストリームの開業で原宿、代官山方面の回遊性が高まる

<シブヤ経済新聞のニュース記事>
東急プラザ渋谷、49年の歴史に幕―再開発に伴い閉館(2015.03.22)
渋谷パルコ、43年の歴史に「いったん」幕 2019年秋に向け建て替え(2016.08.07)
「渋谷の日」に複合施設「渋谷キャスト」開業(2017.04.28)
ドンキホーテHD、渋谷店跡の大規模開発計画明らかに 高層ホテルなど(2018.08.16)
「渋谷ストリーム」開業 渋谷川沿い線路跡を一体整備 新たなまちづくり(2018.09.13)
★()内は記事掲載日

西:その後、渋谷駅周辺の大型商業施設の閉店が続きました。2015年3月に東急プラザ渋谷が49年の歴史に幕、2016年には渋谷パルコも43年の歴史にいったん幕。特にパルコは解体から再オープンまでに3年くらいかかっていて、意外に長かったですね。

松本:確かパルコのラストキャンペーンのキャッチコピーは「生まれ変われるヨロコビよ。」で、ゴジラがパルコのロゴを壊したり、スカパラがライブを行ったり、閉店ながらすごい気合いと、前へ進む強さを感じたのを覚えています。

▲キャットストリート入口に開業した「渋谷キャスト」

西:しばらく閉店の話題が続いた一方、2017年4月には「渋谷の日(4・28)」に合わせて、渋谷キャストが開業しました。上層部にクリエイターさんが暮らすシェアハウスがあるなど、東京都事業の一環でもあり、かなりユニークな建物となっています。キャットストリートの入口にキャストが出来たことで、この辺りの印象がだいぶ変わったようにも感じます。

田原:かつて裏原ブームがありましたが、徐々にそれまでの勢いがなくなり、やや発信力が落ちていた時に、渋谷キャストがオープンした。渋谷から原宿方面への動線がしっかりできて、「もともと都営住宅だった場所がこんなに変わるんだな」と再開発の本気度を改めて感じました。

西:キャスト開業時は、まだミヤシタパークの開発計画は明らかとなっていない時期でした。その後、向かいにミヤシタパークがオープンして、この辺りの回遊性がだいぶ高まりましたね。さらに翌年の2018年には(同じ明治通り沿いの東横線線路跡地に)渋谷ストリームが開業し、恵比寿、代官山方面への動線もまるごと変わりました。通学のルートも変わったのでは?

▲東横線線路跡地に開業した「渋谷ストリーム」。また渋谷川の再生工事も同時に進められ、川沿いに遊歩道や広場も整備された。

田原:学生はもちろんですが、教職員もストリームや川沿いの遊歩道を通って、通学・通勤する人が結構多いです。そういえば、当時のことを思い出しました。渋谷ストリームの開発や、東口の歩道橋の架け替え工事が行われている時には、地下から地上への出入口が閉鎖されたり、しょっちゅうルートが変わっていまして。やたら、学生たちの遅刻が多かったんですよ。学生の言い訳なのですが、「朝行ったら出口がなかったんです」とか言われるとしゃあないなと(笑)

松本:「川の再生」をする計画は聞いていましたが、川の水が横からざぁーと流れ出たり、夜間は川にレーザーが照射されるなど、いかにも「渋谷らしいな」と思いました。

西:「川の再生」は街を変える力を持っているなと感じますね。

|オリパラ開催を控え、渋谷は開業ラッシュに沸く

<シブヤ経済新聞のニュース記事>
渋谷公会堂、10月開業へ、通称「LINE CUBE」に、こけら落としはPerfume(2018.05.14)
渋谷に新ランドマーク 超高層複合施設「渋谷スクランブルスクエア」開業(2019.11.01)
新生「渋谷パルコ」公開 テナント192店、高級ブランドからカオス地下街まで(2019.11.19)
東京メトロ銀座線・渋谷駅新駅舎 供用開始 新たに明治通り方面改札も(2020.01.03)
★()内は記事掲載日

西:2018年に「渋谷公会堂」が再オープン、さらに2019年11月に「渋谷スクランブルスクエア東棟」が開業します。一番初めに発表された計画では、屋上展望スペース「渋谷スカイ」の計画はなかったんですよね。

▲渋谷駅再開発事業のランドマークとなる「渋谷スクランブルスクエア東棟」建設工事の様子

松本:当時の東急社長が決断して追加したとのこと。実は似たようなことが、前身の東急文化会館でもありまして、最初はプラネタリウムを設置する予定はなかったそうです。ただ、戦災で日本にあったプラネタリムが消失してしまい、当時のプラネタリム関係者から「東京に新しいプラネタリウムを作って欲しい」という要望を受けて、東急の五島慶太が計画途中ながら追加設置することを決断したとのこと。歴史は繰り返すなと改めて感じます。

西:本当ですか、それは知らなかった。すごいエピソードですね。途中から「渋谷スカイ」の計画発表があって、これはすごいなと感じましたね。おそらく開業がオリンピックと重なっていたことが、いろいろなことを動かした可能性があるんじゃないかと。

田原:都市再生緊急整備地域に決まった時に、外国人を惹きつけるような魅力的な観光施設を設けるということもあったのでしょう。それで付けたのかなと。

西:確かにそれまで渋谷は「スクランブル交差点」と「ハチ公」以外に、観光客が見るものがなかったので、こうした観光コンテンツが追加されたのは良かったですね。

▲道玄坂商店街振興組合理事・大西陽介さん

大西:オープンエアであの高さで(東京の眺望が)見られる場所はなかなかないので、希少性があります。また東棟1階フロアには、JR東日本さんのエキュートや、東急さんのフードショーエッジの店舗が入り乱れていて、あそこにはいろいろと政治的なものを感じたり、入口の大事な場所なので、競争共存しているんだなと思ったり(笑)

西:スクランブルスクエアは現在、あくまでも「東棟」で、今後、「中央棟」「西棟」ができて、今後ますます巨大化していきます。まだ先があるというのは、楽しみですね。松本さんは、スクランブルスクエア施設内でおすすめのスポットがありますか?

松本:11階のTSUTAYAのラウンジですね。1時間1000円でドリンクやナッツなど軽食が食べ放題で、窓から再開発の工事風景がよく見えます。去年の秋ごろから、ここから夜間工事をよく見るようになりまして、解体時の火花などがきれいに見えておすすめです。

▲銀座線・渋谷駅の新ホーム供用開始記念式典の様子。「M字」の屋根デザインが近未来感を醸し出している。

西:同じ11月、渋谷パルコも3年3カ月ぶりにリニューアルオープンし、「いよいよ来年はオリンピック!」という期待感が高まる時期でもありました。さらに2020年1月には、まだコロナの「コ」の字もなく、銀座線渋谷駅も移設オープン。この写真は1月3日の朝6時ごろに取材に行き撮影したものです。新しい銀座線渋谷駅の印象はいかがですか?

大西:近未来的でカッコいい、でも(私のいる)道玄坂からは、かなり遠くなっちゃったので複雑な気持ちになります(笑)。

松本:近未来なんだすけど、最近の銀座線車両はレトロなデザインになっていて それにマッチしているのが、すごいなと。根強い人気の銀座、江戸時代からの中心地の日本橋、そして浅草を結ぶ銀座線。その始点としての「渋谷らしさ」が、駅ホームのデザインから感じられていいなと思います。

田原:渋谷のオフィス賃料が日本一になったというニュースが、ちょうど2019年11月ごろ。渋谷スクランブルスクエア、渋谷パルコがオープンして渋谷の再開発の頂点を迎え、本来ならその後も、オフィス賃料が上がっていくのかなと思っていたのですが、2020年にコロナになってしまった……。

|コロナ禍の渋谷 五輪延期、計画の見直しも

<シブヤ経済新聞のニュース記事>
渋谷の「顔」東急東横店、85年の歴史に幕 来店客ら最後の姿見届ける(2020.03.31)
渋谷109は平日もお休みに 広域渋谷圏の施設など4月中旬まで週末臨時休館(2020.04.01)
渋谷「ミヤシタパーク」、7月28日から段階的に開業へ 商業施設名は「レイヤード」(2020.07.02)
渋谷の駅そば「本家しぶそば」閉店 40年の歴史に幕、店長あいさつも(2020.08.07)
渋谷地下商店街「しぶちか」が、63年の歴史にいったん幕、来夏新装へ(2020.09.14)
★()内は記事掲載日

西:2020年春にコロナが襲うわけですが、2020年3月31日に閉館した東横店西館・南館も、コロナの影響で大々的な告知が出来なかった。一般の方、メディア取材も制限される形となり、ちょっと寂しいお別れになりましたが、最後はきちっと店長さんのご挨拶が出来て良かったなと。スクリーンの写真は最後の挨拶のものです。

▲コロナ禍の中、東急東横店西館・南館は静かに幕を下ろした。

松本:西館・南館は閉館後、本当はオリンピック期間中に合わせて「シブヤエキスポ」というイベントで施設が活用される予定だったのですが、コロナでそれが中止になったのはとても残念でした。ただ、建物解体直前、(施設壁面に)アーティストたちがペイントをするという企画が行われ、最後に渋谷らしい風景が見られてよかったなと思いました。

▲緊急事態宣言の発令に伴い、臨時休業したSHIBUYA109など渋谷駅周辺の大型商業施設。渋谷の街から賑わいが一気に消えた。

西:いよいよ4月に入ると緊急事態宣言が出て、写真のようにSHIBUYA109前も人がまばらで「渋谷、大丈夫かな?」という感じでした。ほんとに人がいなくなって、その中でミヤシタパークの開業も計画通りいかず、段階的に開業せざるを得ない状況となりました。

▲東急東横店の「本家しぶそば」閉店の様子。

西:この時期に読まれたシブヤ経済新聞のニュースの中で、たくさん読まれたのが「しぶそば閉店」の記事でした。松本さんは、しぶそばへ行ったことありますか?

松本:しぶそばは、閉店の前年あたりからアプリで定期券の販売を始めていて……。渋谷スクランブルスクエア開業でいろいろと買い物にお金がかかり、夕食代の節約のため「しぶそばの定期券」を買いまして、月に20回くらい食べていました(笑)。

西:それで元が取れたですか?

松本:めちゃくちゃ安いです。20回食べると1食200円くらいで、さらに美味しいので文句なしです。

|駅周辺に広がる再開発の新たな動き

<シブヤ経済新聞のニュース記事>
渋谷2丁目エリア再開発、新築着工へ 地上23階施設、2024年度に開業(2021.11.25)
「道玄坂二丁目南地区」再開発組合設立 ホテルなど高層棟や広場など、2026年度完成へ (2022.01.10)
渋谷・宮益坂上で大規模再開発 ビル3棟、ホテル・住宅・バスターミナルなども(2022.03.24)
東京都児童会館跡地や渋谷区立美竹公園などを一体的に開発へ(2022.03.30)
★()内は記事掲載日

西:渋谷ヒカリエ関連では。昨年7月に宮益坂上方面つなぐ歩行者「ヒカリエデッキ」が開通しました。

▲ヒカリエデッキ開通時のテープカット式典の様子。

松本:(地下の渋谷駅から渋谷ヒカリエ4階を縦動線でつなぐ)アーバンコアは、明らかに銀座線と直結して何か出来るぞという雰囲気が漂っていました。実は、この写真のテープカットの奥のほうに私もいるんです。一般の人から参加者を募って行ったテープカット式で、私も応募して参加させていただきました。

西:今は「ヒカリエデッキ」ですが、将来的には銀座線の屋根から西側のハチ公前広場のほうまでデッキが延びます。おそらく2027年までには、ヒカリエデッキが(渋谷駅の東西を空中で結ぶ)歩行者の大動脈になっている可能性が高いと思います。

▲2023年1月で東急百貨店本店も営業終了することが発表され、Bunkamuraと一体化した新たな開発が始まる計画となっている。

西:それから想定外でしたが、昨年10月に「来年2023年1月で東急本店が営業終了」し、東急とLVMHグループがタッグを組んで再開発が行われるという発表がありました。GINZA SIXのような座組みになると思いますが、まだパースなどが発表されていないので具体的なイメージは分かりませんが、同時にBunkamuraも休業するため、複合、一体化した施設になるのでしょう。かなりワクワクしますね。

田原:もう渋谷が後背地を従えたターミナル駅では、もう本当になくなるんだなと思う。 いわゆる百貨店はなくなってしまうため、百貨店大好き人間としては、ちょっと寂しいなのですが……。その反面、GINZA SIXみたいなエンタメとお買い物を融合したような施設が誕生するのは楽しみです。

松本:昔は百貨店の売上規模で街の力が決まっていたが、その時代が変わりつつあることを考えると、渋谷がそこから一抜けするには、こういう流れになるんだろうなと思います。

西:そう考えると西武渋谷店が、今後どういう動きをするのか気になるところではあります。

西:そのほか今後、渋谷で計画されている再開発事業を一気に見ていきましょう。

西:渋谷ヒカリエ2階とつながる「渋谷二丁目17地区」の工事が昨年から始まっています。開業は2024年の予定です。さらに大西さんのいる道玄坂エリアでも、新太宗ビルを中心とした「道玄坂二丁目南地区」の再開発計画が、今年の初めに発表されました。 大西:一つ画期的なのが、後ろに控えている渋谷マークシティと接続して、建物を経由して渋谷駅への直接のアクセス通路ができる点です。

▲渋谷マークシティと接続する「渋谷二丁目南地区」再開発のイメージパース。

西:三菱地所が渋谷の開発に初参入する案件になります。道玄坂二丁目というと、文化村通りのドンキが手がける再開発案件を思い浮かべる人も多いと思いますが、それとは別案件となります。同じ丁目に2つの大型開発があるというのも渋谷らしいです。また、宮益坂上でも、渋谷ヒカリエの先っぽの辺りでつながる、東京建物が手がける大型案件「渋谷二丁目西地区」が動き始めています。さらにもう一つは、児童会館跡地に清水建設さん、ヒューリックさんが一体的に再開発を行う案件も。場所はココチの裏ですね、そう考えると、まだまだ渋谷の再開発はしばらく終わらないですね。

西:ざっと10年を振り返ってみて、最後に皆さんが感じたことを教えてください。

大西:再開発で古い建物やお店がなくなり寂しいなと思う部分もありますが、結局、渋谷っていい意味で時代に流され、身を任せている姿こそが「渋谷らしさ」かなとしみじみ感じる。「時代をうつす鏡」がみたいな街なのかなと。ニュースでも日本、東京を想起させるビジュアルとして渋谷スクランブル交差点が映されるなど、皆さんの頭にイメージしやすくなっています。地元の人間としては、その鏡がより見栄えよく見えるように、磨いていかなくてはいけないなと思しました。

松本:渋谷はまだまだ再開発がどんどん進んでいきますが、もともと渋谷は谷からできた街で、銀座線と副都心線の高低差など、再開発でビルが増えれば、ますます高低差が増していく。今後、高低差が広がる渋谷に期待していきたいと思います。

▲国学院大学経済学部・田原裕子教授

田原:渋谷の10年を振り返ったときに、その原点に「渋谷ヒカリエの開業」があったというのは驚きました。現在の学生たちは、だいたい2000年頃に生まれているので、物心ついた頃から渋谷ヒカリエがあり、いわば、「渋谷ヒカリエ=渋谷の大御所」的な位置づけ。私からすれば、ヒカリエオープンはつい最近のことなんだけどね(笑)。今後の渋谷の街で心配なことは、コロナでリモートワークが増えて、オフィスの需要が減っていく一方で、東京、品川など様々なエリアで再開発が同時に進んでいること。こうした環境の中で、今後も渋谷が生き残っていけるのだろうかというのが心配な点です。その反面、渋谷スクランブル交差点を見て、国内のみならず世界中の人たちが「渋谷」だと直ぐにわかる。地域ブランドは地名を聞いた時に明確にイメージが湧くことが、一番の強み。スクランブル交差点やハチ公などの渋谷の強みを、今後も生かして街づくりしていってほしい。そこが渋谷に期待できる部分かなと思っています。

西:「再開発=渋谷駅がどんどん拡張していること」とも言えます。利便性だけを考えれば、ほとんど雨に濡れずに買い物ができる範囲が広がっています。一方で昔から渋谷は個性の強い路面店がたくさんあって、そういうお店は家賃の高いエリアにはなかなか出店しにくい。そういう個性の強いお店が出やすい場所とか空間があって、「やっぱり渋谷に行かないとないよね」というお店が1軒でも多くあるといいなと思う。僕は渋谷の路面店の多さが好きなので、街を歩いていて面白いお店に出合うという楽しさと、再開発がうまく共存してもらえればいいなと個人的に感じています。

約2時間にわたり、10年分の渋谷の歴史をシブヤ経済新聞のニュース記事をベースにしながら辿ってきた今回のトークイベント。イベント中に語られた情報量は膨大で、同レポートで全てを網羅することは出来ないが、その濃密な情報の中から主要なポイントをピックアップして出来る限り紹介させていただいたつもりである。「シブカジ」「ギャル」「ビットバレー」など、渋谷は各年代毎に様々なキャッチコピーやワードで語られることが多いが、渋谷ヒカリエ開業からのこの10年は、まさしく「再開発の渋谷」というコピーがぴったりだ。2027年まで続く渋谷駅の再開発工事、あと5年で渋谷駅がどんな姿に変貌するのか、ワクワクが止まらない。、

編集部・フジイタカシ

渋谷の記録係。渋谷のカルチャー情報のほか、旬のニュースや話題、日々感じる事を書き綴っていきます。

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